「夢の続き6」ユノ×チャンミン
「なんだろこれ」
そう言って怯えた目で見られる。
なんだろってなんだ。
うんざりしながら、
「じゃあ食って寝て下さい。でもうちに」
と俺が話している途中に、目を丸くさせてきたので、話しを静かにやめると、
「お腹減ったってこれかあ!」
と感激したように声を出した。
「ねえチャンミン!」
「ちょっと待って下さい!今ここら辺に病院があったか思い出してます」
「なんで!チャンミン!俺何か食べたい!」
勝手に人のうちに上がり込んでおいて、こんなに嬉しそうに食い物を要求するなんて。
「食べていいですけど、うちにあるのはこの焦げたチゲだけです!」
と言って横のコンロに置いてあった鍋の蓋を開ける。
あ……みたいな顔をされる。
「そんな顔してもこれしかないです」
「え、違う!それ食べよう!」
必死に否定してから、
「それ食べたい」
と俺に微笑んだ。
こたつテーブルの上で、見た目は悪いけど、味はもっと悪いチゲを、本当に嬉しそうに一口、口に運んで、ゴホッと咳込んだ。
「大丈夫ですか?」
向かいに座って無表情でティッシュを差し出す。美味い不味いの問題じゃ無さそうだった。
「喉が……」
「お茶どうぞ」
お茶を一口飲んで咳をしてから、またゴクゴクと飲み干すと、空になったガラスコップを見て「へえ」と言った。
これ何なんだろうな。
その空のコップに茶を注ぐ。
「食べられなかったらやめても良いですよ」
「食べるよ!チャンミンが作ってくれた料理だもん!」
あなたに作ったんじゃないんだけど。
ちびちびと舐めるように食べながら、時々咳込んでいる。
「名前は何ですか?」
それを見ながら聞いた。
嬉しそうに食べていた顔が、きょとんとする。
「俺の?」
「それ以外ないでしょう」
少しだけ思案してから、俺に微笑んだ。
「チャンミンがつけてよ」
結構非常識な要求だと思うんだけど、なぜか堂々とした微笑みだった。
「本気で言ってるんですか?」
「うん、お願い」
今までの言動からして、冗談の可能性の方が低いだろう。
それにしてもとんでもない一日だな。
最後は見ず知らずの男の名前をつけるなんて。
全く思いつかなくて部屋中に視線を動かす。名前になりそうなもの。
目の前の人間は期待を込めた顔で見てくるけどそんなに期待されても。
視線を、その人間が着ている俺のトレーナーに下げた。そこにプリントしてある文字を見て、声に出して読んでみる。
「You kow……ユ……ノ……」
俺が呟くと、目を輝かせて、
「ユノ?」
と聞いてきた。
短く二度頷く。
するとユノは、
黒くて丸い瞳を目にいっぱいにして、まるで花が咲いた様に笑った。
新しい世界がはじまるような、誰かが見ている夢のような、特別な長い一日だった。
只今2時24分(ユノの退役まで511日)
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次の更新は26日の朝ですね。