夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ジル・ド・レの住んだ町4」ユノ シウォン チャンミン キュヒョン

キュヒョンは手に持っていたグラスを落としそうになって握りしめる



「みなさん、楽しんで頂いておられるでしょうか……」



注目を引くための合図も必要ない。
この三人が入ってきた瞬間、全員が彼らに向いた。
城主が話し出した台詞はキュヒョンの耳には遠く聞こえた。



なんてきらびやかな三人なのだろう。



この時代、フロックコートと言った色の地味な上着に、白いシャツ、ぴったりとしたズボンが男性の普段着だった。
その普段着もチャンミンは、キュヒョンのそれとは大分質の違うものを着ていた。
キュヒョンは仕事の邪魔になるのと、汚したくはないので上着もほぼ着ない。


けれど今、キュヒョンの正面にいる、夜会用に身なりを整えたチャンミンは、
いつもと格違いに、誰の目から見ても、完全な「貴族」だった。
そして、王座で立つ男と、少し離れた場所で、ひっそりと立つチャンミンの隣にいる男は、その友人に輪をかけて高価な見た目の服を着ているのだ。
外見も麗しい。
チャンミンには及ばないが背が高く、とても顔立ちが整った二人の男。


でも、その見た目だけではない。
何か人を引き付ける、
足元をすくわれるような、
ともすれば、引きずり込まれるような、空気をまとっているのだ。



方々から、うっとりするような溜息が聞こえた。
キュヒョンは信じられない気持ちでその光景を見つめる。
その奇怪な魅力のある男たち二人だけでも十分、キュヒョンはただ事でない何かを感じたに違いない。
けれど、それに加えて、自分の友人までも彼らに交じっているのだ。
離れて立つ本人にはそんな意識はないのかもしれない。
そう、もう一つキュヒョンを信じられない気持ちにした理由は、
恐らくチャンミンには、周りが見えていないくらい、
あの城主の話を本当に聞いているのか分からない、興味なさげに薄笑みを浮かべている、隣の男を気にしていることだ。
隣の男。
キュヒョンは、目をそらした。
なぜだか見てはいけないような感じがした。
そんな中、城主の挨拶が終わった。
もう閉会の時だ。



呆然としているキュヒョンに、背の高いチャンミンが気づいた。
安堵した様な笑顔を見せながら、
すぐさま「失礼」と会釈しつつ、人込みをかき分けて向かって来る。
一斉に広間中の目がキュヒョンに向く。今この状況で自分を見られるのか、と思わず視線を下げた彼に、ほつれた長い糸が目に入る。
せっかく友人が向かって来るのにと思いながら、キュヒョンはいたたまれない、逃げ出したい気持ちに駆られた。
けれど、こちらに気付き、急いで来る友人に、
彼は待つことしか出来ない。


「遅かったな」


いつものように少し不機嫌そうに言いながらもチャンミンは嬉しさを隠せない笑みを見せている。


「悪い……」


周りの目を気にして、キュヒョンは視線を泳がせた。


「今日はこの後うちに来るか?」


チャンミンはあまり飲んでいないのかもしれない。
見ると、全く酔っていないように見える。けれど、頬が上気している。
キュヒョンは思いながら、


「あ……今日はやめとこう。記事を書かないと」


と、事実そうだったので、首を振ると、チャンミンは少し落胆の色を見せた。
それに罪悪感を感じながらも、キュヒョンはまだ目の前の友人を信じられないような顔で見て聞く。


「明日行かせてもらうよ。それより、チャンミン……彼らと仲良くなったのか?」


隣にいた男、あれは、恐らくもう一人の城主だ。
キュヒョンは分かっていた。


チャンミンが目を瞬いてから、一瞬頬を染めたのをキュヒョンは見ている。


「いや、少し話しはしたけれど……、そのあとどこかの貴婦人が彼らに話しかけてきて、それを皮切りにひっきりなしに、婦人方が彼らに……」


チャンミンもそうだったに違いない。
なんとなく、キュヒョンは安心を覚えながら「そうか……」と答えた。
しかし、チャンミンはそんなキュヒョンの気持ちを他所に染めた頬のままで、
言いにくそうに続ける。



「でも……彼らに晩餐会に招待されたよ。お前も来るだろう?」



キュヒョンは、そう言って微笑んだ友人を凝視しながら、
自然と唾を飲み込んだ。




―――結婚を、幸せを。




キュヒョンはたった一人の親友に思っている。


それが今日、彼が唯一縁を持ったのは、女性ではなかった。
あんなに沢山の女性がいて、彼女達に注目を浴びていて。
あれは同性だ。
チャンミンは新しい交友関係の予感を感じているだけなのだろうか。
それでもキュヒョンは、「ならいい」と素直に思うことができなかった。


ひづめの音を聞きながら、闇を見つめる。


あの城主達に挨拶をしてから帰ると言うチャンミンより先に、帰路についたキュヒョンは、
ずっとその漆黒の闇に目をやっている。


頬を上気させながら話をしていた友人に、
単純な交友関係の期待以上の何かを感じたから、だけではない。
確かに、彼らには女も男も関係なく何か、人を引き付けるものがある。
特に、あの男。


友人を気にさせていたあの男。


キュヒョンは思い出す。
キュヒョンに一抹の不安を覚えさせるのは、
彼が同性だからというだけではない。


あの時、


向かって来たチャンミンの後ろで、
こちらに向いた黒い瞳が、
その色を変えたように見えたからだった。


赤く……


光った……


でもそれは気のせいだと、
キュヒョンは夜の闇に言い聞かせていたのだ。






「まあ待て。寒い」



キュヒョンは帰るなり、自分に鳴いてきたのに答えながら、暖炉の薪をくべた。
そして服を脱いだ。
上は裸のまま、緩やかな綿のズボンをはいて、身震いしながら檻を開ける。


ゆっくりと、白地に茶色の斑点の獣がキュヒョンの足元に出た。


キュヒョンは気にせずに、掛けた服の中から、ハンカチに包んだ即席サンドイッチを取り出すと、
床の匂いを嗅いでいるその前まで来て、かがんだ。
挟んでおいた茹で鶏を数枚出して、その鼻先に置く。
大分長い間放浪生活を送っていたのだろう、瘠せ気味の獣が夢中で食べているのを、かがんだ膝の上に腕を組んで、見つめる。


「お前は自分の運の良さに感謝しろ。大体のやつは一晩は飯抜きなんだぞ」


キュヒョンがかけた声も聞こえていないくらい一心不乱に食べている。
それを見下ろして、手の中にあるハムが挟まれたのをかじると、また声をかけた。


「それを食べたら、今日はお前が新聞を書け。俺は疲れた」


大きい塊に苦戦している姿を見ながら、
キュヒョンは今日の夜会を、あの前にいた三人を思い出した。
本当に優雅だったと、思い出していた。
それから、それを眺めていた自分を。
キュヒョンはぼんやりと目の奥にその光景を見ながら、足元の猫を見つめている。


記者である自分と、チャンミンの親友である自分が、
晩餐会には出席する、という返事をした。


でもあの中で食事をすることを思うと、
キュヒョンは晴れやかな気持ちにはならなかった。
それでも気分を変えるように元から上がっている口角を上げた。



「今日はチャンミンがすごかったんだぞ」



そう呟きながら、すっかり食べてしまって、床を舐めているのを見て、
キュヒョンは、もう一つのサンドイッチに挟んだ茹で鶏も取り出した。



「大体、俺はそんなに動物は好きじゃないんだからな。覚えておけよ」



「ニャア……」



「よし」



キュヒョンは頷きながら、自分に向かって顔を上げたそれに、かじっていたパンの中のハムと、
鶏肉を小さくちぎって与えた。









つづく




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一話にするつもりでしたが、あまりにも長くなったので二話に。

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