夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ジル・ド・レの住んだ町5」ユノ シウォン チャンミン キュヒョン


「他のメインと取り換えます」



チャンミンは顔を上げた。シウォンはフォークとナイフを置き、ナプキンで口元を拭く。



「え……何でですか?」



シウォンはそれには何も言わず、瞳の大きな、目自体も横長で大きなそれをチャンミンに向けた。
チャンミンは、言葉を詰まらせた。
自分の皿に取り分けられた兎肉は殆ど減っていなかった。



「あ、いえ、とても美味しいです」



本当に、味は申し分ない。肉の臭みもなく、生クリームにマデイラ酒、キャビアの入ったソースの味も変わっているけれど、とても良い。
チャンミンは自分が食べていないと今気づいたように、口に運んだ。
彼は夜会で、シウォンに晩餐会に招待された。しかし、正直に言えば、チャンミンはあまりこの男は得意にはなれないだろうと思った。
だから返事に困り、口をつぐんだチャンミンの前で、もう一人の城主が「俺も呼べ」と微笑んで言ったのだ。
その瞬間、チャンミンの口から出た答えは、肯定だった。シウォンは、もう一人の城主をそこまで良く思っていないのかもしれない、件の話は、では日を改めてと言うことだった。
けれどそれとは別に、チャンミンは二人だけで、とシウォンに突然、夜会後に、晩餐会の招待を受けたのだ。


しかも、その日付は、夜会の次の日だった。



「急だったことは、謝ります。失礼でした」



「いえ、そんな」



チャンミンは首を振りながらも、視線を目の前の皿に向けている。
断ることができなかったのだ。もう一人が来る晩餐会には、出席すると言って、二人きりだと行けないとは言うことができなかった。
けれど、どうしても、あの妙な台詞を吐いて、自分に膝まづいた男の前だと、食が進まなかった。
それに、もう一つ、食が進まない理由があった。


チャンミンの頭に、あれからずっと、「もう一人」がいた。


それが時間を追うごとに、膨らんでいくような感覚に陥っていた。
けれど、チャンミンは増殖する記憶がなぜなのか、理解ができなかった。
今も、口を動かしながら、気が付くと、あの微笑を思い出してしまっている。
あの、目も。
とても冷たい……けれど、その印象が全く変わる笑みも見せる。
現れた像を振り払うように、意識を今に集中させる。


……しかし、本当にセンスがいい。


口腔内で味蕾に触れていく複雑なそれに、チャンミンはこの城主のことを考えた。
今日も、着ている服は昨日に引き続き一昔前のような型だけれど、
濃い紫色のフロックコートに緑の刺繍の入った白い絹のシャツはどこで発注したものか分からないほど、仕立てが良い。この城も、夜会で足を踏み入れた場所もそうだったけれど、このダイニングの調度品も全て元の雰囲気を崩さずに、軽薄さは一切なく新しく揃えてあった。
そして、今宵出された料理の数々、アミューズからメインまで、同じ水準のものを昔から食べている味だ。それに見たことも聞いたこともない、食材が使われていることもある。


「小食なほうですか?」


「あ、いえ……」


むしろ、夜会前の自分なら、どの皿もソース一滴残さずに平らげてしまっているだろう、とチャンミンは思った。彼はどちらかと言うと大食漢なのだ。


「あの」


「はい」


けれど、そう言うシウォンも、もう口をつけていない。それを視界に入れながら、チャンミンは聞いた。



「ここに来る前はどちらにいらっしゃったんですか?」



彼相手に話題は多くは浮かばなかったけれど、唯一疑問に思ったことだった。
どうすれば、こんなに沢山の目新しい食材を使う料理を知ることができるのだろう、とチャンミンは思った。
シウォンは口元の前で手のひらを合わせて、なるほどという風に数回頷きながら、唇の端を少し上げた。



「……いろいろと。ああ、パリにもいましたよ?」



シウォンは合わせていた両掌の指を組んでチャンミンに微笑んだ。その微笑みは、チャンミンが話を合わせられるよう、有名な町の名前を出した気遣いを持っていた。



「パリですか。自分も一度行った事があります。パリのどちらですか?」


「モンマルトルに」


「あの村は、良いワインが作られますね」


「ええ、景色もいいです」



チャンミンは、昔訪れた町を思い浮かべた。美しい風車と、ブドウ畑の広がる土地を。
けれど、遠い風景は、また思い出しかけた何かで混沌とする。
だが、見透かされていたように、話が続けられた。



「東にもいました」


「東ですか」


「スロヴァキア系や、チェコ系の人間の風俗の鮮やかさには、憂鬱がなくなります」


「ああ、列車で一緒になったことがありますが、目を引きますね」



チャンミンは少し表情を弛ませていた。それはほんの少しだけれど、彼の頭から「もう一人」を忘れさせるくらい自分と合った会話を、シウォンが出来る人物だと分かったからだった。



「酒は?」



「あ、はい」



殆どこれも手をつけていなかった赤ワインを、チャンミンは口に含んだ。
淡白な兎肉がこれで殺されないように濃厚なソースで味付けられているのがとても良く分かったものだった。


けれど、舌に残る美味な酒と、まだ味を覚えている目の前にある料理を思いながら、チャンミンは焦燥感に駆られた。



あの微笑が、やはり彼を襲って来る。



顔の弛みが消えていくのを隠すようにチャンミンはグラスにまた口をつける。
そんなチャンミンをじっと見つめて、シウォンが何も言わないのを見て、チャンミンは申し訳ない気分に駆られた。最初の不快さはなくなっている。けれど、彼が用意した料理も、酒もあまり喉を通らない。


だが、不思議さはある。


チャンミンはそれには違和感を覚えていた。
とても、凝っている料理や酒に関わらず、
このダイニングにはそれを感じないのだ。


本当に毎日ここで食事をとっているのだろうか。
これだけ美食家なのに、この部屋は、というよりも、
チャンミンが足を踏み入れた場所全てに、何か……生物的な汚れを感じないのだ。


チャンミンは、そっと、長い食卓の、向こう側に座っている、城主を見た。


食卓に置かれた蝋燭の揺れる炎の隙間で、動くことはなくなったフォークとナイフを見ながら、
彼は先程からどれだけ料理を口にしていたのだろうと、チャンミンは思った。けれど、それは全く記憶から取り出すことはできなかった。


途切れた会話に、チャンミンは、なぜか少し寒気を感じた。突風がカーテンで覆われた窓を叩きつける。けれど、暖炉で温められた部屋は暖かい。


チャンミンは手を組んだまま、自分を見つめている男と見つめ合った。




「チャンミンと呼んでいいですか?」



「……はい」



慣れあった呼び方はまだ少し自分達にはふさわしくないような気がしたけれど、チャンミンにはそう答える事しかできなかった。



「チャンミン。いつでも来てほしい、ここに」



その物言いが、哀しさをかすかに含んでいるのを、チャンミンは感じ取った。けれど何かを諦めているような、達観しているような微笑みは、落ち着きと自尊心の高さを感じさせた。




視線を泳がせながら、チャンミンは、今度は即答はできなかった。







つづく






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数人しか読者様がおられないこのお話ですが、寝物語に良いなと思い、時々0時に更新することに致しました。数人の奇特な読者様、私と一緒に夜を楽しみましょう。


↑記事がまるまる消えたので再投稿です。

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