夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ジル・ド・レの住んだ町8」ユノ シウォン チャンミン キュヒョン


まだらな、光が、揺れている。


暖炉と、あまり使われない台所を背後にして、この不必要なものが何もない、仕事一筋の友人が、自分の反応を待って首を傾げた光景が、段々と遠ざかるのを感じる。
今朝も猫捕りに精を出していたのだろう、土埃の少しついた栗色の髪の毛と、白い肌、傷のついてしまった手の友人を、チャンミンはまるでそこにないように見ている。


先刻の様子が、揺れている。


髑髏の踊る、狂気じみた画は、まるで自分とあの人のようだ。
この、とても純粋な空間とは異質だ。


今晩0時に、やってくるかもしれない人間を、どうしても、拒否しなければいけない。


同性に心を奪われてしまったかもしれない。
同性で……性の欲求を覚えてしまったかもしれない。


もしこの友人がそれを知ってしまったら、
自らも男であるこの友人が知ってしまったら、
面白そうにこちらを見ている、この眼差しを、変えてしまうかもしれない。


失って、しまうかもしれない。


チャンミンは、目の前のキュヒョンを、震える瞳で遠くに見ていた。



「チャンミン。どうした?」



面白そうに輝いていた目は、その返事の遅さに輝きを失ってきている。
更に間が空いたら、友人の異変を察知しようとこの親友は、可能な限りその綺麗な二重の目を向けて来るに違いない。


「うん。変な……話だな」


チャンミンは、返事をしながら、手の中の茶褐色の液体を口に含んだ。
紅茶は、冷めていた。
チャンミンは、背筋が冷めるのを感じた。


「もう一杯くらい作れるぞ」


キュヒョンの元から上がっている口角が上げられる。予定外に現れた自分と、引き続き会話が出来ることの訴えと嬉しさをその微笑みと台詞は表していた。



「ああ。もらおうかな」



それを見つめながら、チャンミンも口の端に力を入れた。飲み干したコップを、傷のついた白い指がもぎ取る。
鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌で、鍋に茶葉を入れる友人の後ろ姿を眺める。
あまり日の当たらない部屋でも、台所には昼間の薄明りが差し込んで、その姿を柔らかく映し出した。
いなくなって、しまうだろうか。
全く予想がつかない。想像もつかなかった。


「キュヒョン」


「なんだ?」


振り返った微笑みを、チャンミンは迷ったように見た。まだそこに存在するのか確認するように、無意識に声をかけてしまったが、次の会話を用意していない。あの男を、受け入れさえしなければ、そこにいてくれるのだから、何も恐れることはないのに。
チャンミンは、死の舞を踊る自分達の影を振り払うように先程の話題を思い出した。


「その……お嬢さん方は今は?」


「ああ。ひどい二日酔いで次の日は寝込んだそうだけども、今は元気だ」


こぼさぬよう湯気の立つコップを見ながら、自分の分と片手に一つずつ持って友人はまたテーブルについた。
チャンミンは「そうか」と言って、微笑みながら、それを受け取る。キュヒョンは満足そうに頷きながら、また顔を上げて言った。



「あの、橋の近くの教会だ」



その瞳の美しい輝きを眺めながら、まだ湯気は立ち上っているのに、チャンミンはその温かさと自分とに、いつの間にか出来上がって行ってしまう、目には見えない層の様なものを感じていた。




彼も、なぜミサも出来ないあの教会にいたのだろうか。




いくつか存在する中で、一番町外れの、あの古い教会に。




それはとても他愛ない理由なのだろうけれど、チャンミンは、自らの及び存ぜぬところで自分を逃がさないような、とても強い網が仕掛けられているような気がしてしまっている。
休む隙も、考える間も与えない。でもそれは、全て自身だから、かかってしまうのだともチャンミンは思っていた。




食事は、とうとうその日一日、まともに出来なかった。



屋敷に戻って、茶と共に、甘い菓子を一口摘まんだだけだった。



使用人が心配する中、昼にキュヒョンの家で嫌と言うほど食べさせられた、と言っても自分でも、空々しいものを感じた。けれど、どうすることもできなかった。


時が立つにつれ、動機は増すばかりだった。


チャンミンは、寝室の窓際に立つ。光沢のあるカーテンの隙間には、揺らす葉もない影のようなマロニエの木が見えている。火もない外は月明かりだけでは、ほぼ色の無い世界だった。


使用人も寝静まった中、音で風のあるのは分かった。


暖炉の上の置時計を、横目に見た。静寂は、自分の胸から響く心臓の音と、突風で感じない。


自分をからかっただけなのだ。


チャンミンは、思った。


けれど、動機は収まらない。それどころか、体中の血液が沸き立っているような、騒ぎを感じる。



とても、恐ろしかった。



酒でも、飲めばよかったかもしれない。


時計の横に置かれた、ブランデーの硝子瓶を見る。あれでも一気に飲んで寝てしまおうか。
チャンミンは少しも面白いと思っていないのに、胸から息を出して一笑した。




その時。




狼の遠吠えを、山の向こうに聞いた。


それと同時に、窓の外に、夜鷹か、猛禽類が羽ばたくのが見えた。


さざ波のように、野生の喧騒は夜の野山中に拡がっていく。
チャンミンは、普段は気になることがない、眠らない獣達のざわめきに胸が騒ぐ。


そして、それらが、息を合わせたように、一斉に静まり返った。





鬼火が見えた。





闇に浮かぶ小さな炎は、窓の外に目を凝らすチャンミンの視界に、どんどんと形を成していく。




それは馬車の灯りだった。









つづく

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