「This is love comedy.23」ユノ×キュヒョン
それでもって次の日。
電話の向こうでキュヒョンが喚いている。ちなみにあいつはやっぱり覚えていなかったようで、店のことは言われなかった。これは別件。
「だから、遊覧船で十分だったんだって!何もしなくていいから、お前は舞台に専念しろ。もう切るぞ」
聞こえて来る声が一段と大きくなったけれど、切る。切った途端、また振動する。
「ヒョン、いい加減にしないと現場まで来ますよ」
「来ないよ、仕事なんだから」
俺もキュヒョンもこれから一か月以上睡眠もまともに取れないほどスケジュールがつまっている。
「でもチャンミン、絶対言うなよ」
「ファンからどうせ漏れますよ」
「事前に分からなければいいんだよ」
俺の誕生日の番だった。
当日もお互い仕事だけれど、仕事で良かった。あいつも時間が割けないのが分かってるから、あんなにしつこくスケジュールを聞いて来るんだろう。
プロなんだから仕事に影響させないとは思うけど、一日くらいは睡眠時間さえなくして祝いに来てしまうかもしれない。あいつの祝い方なんて、ご飯くらいじゃ済まされない。
俺はもう借りを作れない。返す時間がない。
「どうしたってキュヒョンはやると思うけど」
チャンミンが目の前のローテーブルの上で振動する携帯電話を見ながら、ソファーの背にもたれかかって、独りごちる。
その向かいのソファーに座って俺は頭を抱える。
そう。
あいつなら絶対やる。俺も分かってる。携帯電話の振動が止んで、それを見た俺とチャンミンの目が合った。
「トイレ行こ」
目をそらしながら、溜息をついてチャンミンが楽屋から出て行った。
ドアが閉まると、深く腰をかけなおす。
ソファーの肘掛に肱をのせて頬杖をついて見つめる。
キュヒョンと対照に、俺はあいつのスケジュールは大体把握していた。
あいつの誕生日のこともあったし、本来の仕事以外に俺に仕事が入ってなければ、もしかしたらまだどこかで会えていたかもしれないとも思う。
でも俺と誕生日が三日しか違わないなんて、こんなに知り合って長いのに、あいつとこうなってから、初めて知って、というか知ってたかもしれないけど完全に忘れてた。
あの壮大なデートに加えて、誕生日祝いまでされてしまったら、最後の日しか残されていない俺には返せる場がない。キュヒョンは当日じゃなくてもどこかでするつもりだったんだろう。だから仕事がたて込んで、ほっとしているところもあった。
物理的に不可能なら、それだけで回避できることがある。
けれど、
キュヒョンのスケジュールを把握している俺は、自分も慌ただしくなってきてる今、
その忙しい仕事の合間に電話一本かける、その空いた時間がどれだけ貴重かも知ってる。
しかもこんな真昼間で、自分もその電話がとれるなんてことは本当に稀有な事も分かる。
また前屈みになる。
息を吐いてから頬杖をついていた手を伸ばした。
それを手に取って、通話ボタンをスライドさせる。
もう仕事に入ったかもな、と思ったところで相手が電話を取った。
「キュヒョン?」
会話が途切れてたとは思えないくらい同じ調子で喚いている。
「分かったから、そんなに叫ぶなよ」
一通り責められて、やっと本題に入る。
「俺の誕生日は、とゆーよりもさ、本当に会えないんだよ。だからしなくていいんだけど、でもしてくれるなら、会わないで、全くお金かけずにしてくれ。分かった?」
一層声が大きくなって、耳を離す。
楽屋に入って来たチャンミンが、俺に意外そうな顔をしながら向かいのソファーに座った。
「悪いけど、それ以外はやめてくれ。頼むから」
それでも喚いていて、目を瞑る。
「頼むよ、本当に。いや、ケーキはもういいから。お前好きだなケーキ」
言いながら壁掛け時計を見て、自分の腕時計を確認する。目が合ったチャンミンが小さく頷く。
「悪い、もう切るぞ。そういうことだから、じゃあ、あんまり無理するなよ」
まだ色々と主張していたけれど、今度こそ切らないといけなかった。切るとほぼ同時にスタッフが呼びに来る。チャンミンと立ち上がる。
廊下を歩きながら、チャンミンが俺の顔をふと見て笑ってまた前を向いた。
「なに?」
「いえ」
「なんだよ?」
「久しぶりに見たなと思って」
「何を?」
すれ違うスタッフに会釈しながら歩いていく。
「恋人をなだめているヒョンを」
スタジオの入口まで来てチャンミンと足を止める。
「キュヒョンだけどな」
言ってその顔を見ると、チャンミンもこちらを向いた。
「知ってますよ」
向き合った顔があまりにも真面目で、何も言えずに、その俺を見て残念そうに笑うとチャンミンが先にスタジオに入る。
その後ろ姿を見ながら、珍しく自分は弟の後ろから入った。
つづく