「Kiss me,baby.17」ユノ×チャンミン
――ルール①俺が1分でも遅刻したら、ユノにキスされること。
「じゃあスタジオ空いたら、誰か呼びに来ると思うから、軽く胃に入れといた方が良い」
控室に入ると、ソファーの前のテーブルに用意されていたサンドイッチや果物を俺に指すように見て、マネージャーが出て行く。
俺はソファーにバッグを置きながら、コートを脱いだ。
適当に着てきた灰色のニットと、紺色の薄いデニムパンツは全然合っていない。
そして普段、自分が付けているのが手首に見える。
胸が痛んだのと同時に、向かいのソファーに座っていたユノが立ち上がった。
「また……遅刻しちゃったね、チャンミン!」
潤んだ瞳で頬を赤らめて首を傾げている。
同じような灰色のシャツと黒のジーンズで、そっちは合っていた。
手首には……
そりゃついてるよな。
「らしいですね」
喉のつまりを感じて、立ったまま、顔を背けながら水のペットボトルを手に取った。
ユノが俺の顔を見て、表情を変えたのが分かったけれど、一口飲んで目をそらしたまま言う。
「では、手早くお願いします」
ユノが小さく噴き出して笑った。
「チャンミン。何かあったろ」
俺は視線を下げたまま、もう一口飲んだ。
「それはあとから言います」
ユノが落ち着いた口調で言った。
「いいから、先に言えよ。どうした?」
ユノを見る。面白そうな笑みを含んで俺を見ている。ペットボトルの蓋を閉めてソファーに置いた。
「なくしました」
「何を?」
答える前に俺が視線をそこにやったのを見て、ユノの面白そうな笑みの目元が変わる。
口角は上げたまま、俺を責めるような目で一瞥して、視線を下げた。俺はそのユノを凝視する。
「そっか」
と、呟いたあと、ユノが笑った。
「ひどいなあ、チャンミンは」
笑ったまま、ソファーに座った。喉のつまりで、声が出ない。自分が酷いことをしたと良く分かる表情だった。俺は考えていたことを、絞り出すようにして声に出した。
「同じものを、俺が買います」
ユノが目の前の食物を見て微笑んだ。
「いいから。それより座って食べろよ」
凝視していた目でその顔を見直す。
「ルールがあるでしょ?ヒョン」
「今日は気にするな。いいから食べな」
ユノは目の前を見て、その奥の俺を見ないまま穏やかに微笑んでいる。
「良くないよ。ルールはルールだよ」
俺は自分の失態とユノの態度にやるせない不快感で声が尖る。
ユノの微笑みが貼り付いてくる。
「今日はいい」
「そんなのだめだろ」
声を荒げた俺の前で、その顔にも苛立ちが混ざって来る。でもやっぱり俺を見ない。
「俺が勝手に作ったルールだよ」
「俺も納得したルールだよ」
ユノが苛立った息を吐いた。
「じゃあ、来いよ!」
ユノの座っている隣を叩かれる。
つづく