「This is love comedy.25」ユノ×キュヒョン
「一番最初に言いたかったんです。おめでとうって」
呟きながら、その瞳が揺れた。
「言ってよ」
「でも沢山メッセージが来てました」
「読んでないよ」
「確かに読んでませんでした」
それを見てたのか。
「なんでですか?」
キュヒョンが眉をひそめた。
「何でだろうな」
苦笑しながら、その目に入らなかったメッセージの原因がこのキュヒョンなのが自分でも可笑しくなって、今度は噴き出して笑ってしまう。その俺を見て、キュヒョンまで、段々笑顔になる。
「何で笑うんですか!」
怒りながら笑っている。
その姿が無性に可笑しくて、キュヒョンもつられて二人で腹を抱えて笑っていると、
ペットボトルを片手に持ったマネージャーが来て、俺達を満足そうに見て頷きながら、「そろそろ出番だよ」と言われる。
そうだよ、マネージャーに口封じするの忘れてたよ。
「飲み物だけでも飲んでいけよ」
「いえ。もう時間が」
「そうか。悪いな」
一緒に外に出た。通りの向かいにタクシーが見える。
キュヒョンと向かい合う。
何となく、自分達は見つめ合った。これでもう、次はラストだ。
キュヒョンは微笑んでいる。
俺はちょっと、不自然な笑顔だったかもしれない。
「頑張れよ、ミュージカル」
少し首を傾げてこちらを見てから、「はい!」と、言ってにこりと笑った。
「じゃあ、また連絡しますからちゃんと出て下さい!」
「分かった分かった。気を付けて帰れよ」
キュヒョンが歩き出す。少し歩いて空を見上げて、俺に振り返った。
「ユノヒョン!なんか雪降りそうですね!」
俺も空を見上げて「そうだな!」と声を大きくして言うと、にこにこと笑いながらまた歩き出す。
「キュヒョン!」
呼び声に振り返る。
「ありがとな!」
手を振って歩いて行く。腕時計を見ると、あと少しで日付が変わる頃だった。
おいおい、あいつ忘れてないか?
「ユノヒョン!」
満面の笑みでもう一度振り返った姿に俺は苦笑した。自然と出た笑顔だった。
「誕生日おめでとうございます!」
なぜか、胸が詰まった。
後ろからマネージャーが「出番だぞ」と声をかけてきたのにも、返事が出来ずに、タクシーの窓からも手を振っていたキュヒョンを、俺はただぼうっと突っ立って見送った。
それから一時間半ほどで、撮影が終わって、移動車に戻る。携帯電話を見ると、多分あのあとすぐにタクシーの中でかけたんだろう、零時ちょうどに留守番メッセージが残されていて、耳にあてた。
恥ずかしそうに小声で歌うバースデーソングが聞こえる。
最後に「誕生日おめでとうございますユノヒョン」と再度言われてメッセージは終わった。小さな声でもよく聞こえた。
かけ直そうかと思ったけど、起きて待っていそうで、メールにした。
『ありがとう。明日電話する。おやすみ』
やっぱりすぐ返信が来る。
『絶対電話してください。おやすみなさい』
と来てまた笑った。
今電話が出来なかったのは、俺に度胸がなかったからだ。でもそれは何の度胸なんだろうか、良く分からなかった。
胸の詰まりは収まらない。自然ともう一度耳にあてる。これなら自分がどれだけ感動しているかも、自覚しないですむ。
そのバースデーソングが何回か再生された頃には窓の外には雪が降っていた。
つづく