「Kiss me,baby.19」ユノ×チャンミン
ユノに勝手に決めつけられた通り、別にしたくもなかった歯磨きをした。
いや、思考が停滞していただけで、したくは……なったかもしれないけど。
白い泡のついた唇を見る。
怪訝な目で眺めてから、雑念を断ち切るように口をゆすぐ。
タオルで拭いて、それでも鏡の中の口元を見てしまう。
あれは、キスした感あったぞ。
最初の変なキスとは違う。あれはきっとそうそう忘れない。
まだ、溶け合ってるような気がする。
録音スタジオに入ると、スタッフと笑いあってるユノがいる。
俺が入ったのに、気付いているくせに、気付かないふりをしている。
その日、一日中ユノは、俺がいることに気付かないふりをしているようだった。
それでも、パートナーなんだから、短い会話はするし、一緒にいさせられる。
距離が近づけば、俺は思い出して、確かめてしまう。
またあんな目をしているかどうか、俺はずっと確かめてしまう。
あの哀しんだ瞳が焼き付いて、離れなかった。
でもユノはずっと、ユノだ。
帰り、また控室に二人だけになった。
向かいの側のソファーに座って、俺を見ない。
「ヒョン」
「なに?」
俺はその顔を確かめるように伺っている。
「キス……しましたね」
表情の無いユノが視線を下げたまま、そうだね、と口角を上げて、続けて言った。
「でも忘れろ」
俺は口を閉ざした。
話題に出せば、またあの、今にも泣いてしまいそうな、哀しい目をするのかもしれないと思ったけれど、ユノは表情を変えない。
別にあんな顔をさせたいわけじゃない。平気なのかどうか確かめたかっただけだ。
黙ったまま、自分も無表情で目の前のユノを眺める。
視界には、
最近見慣れた唇や、強く掴んできた指も入って来て、
一緒に、自分の唇と指の感覚も思い出された。
目を背けようとして、でも、できなかった。
ユノの手首に、
ついていないのを見て、
そこに釘付けになった。
「あ……」
思わず声を出したと同時に自分達のマネージャーが入って来る。「帰ろう」と声をかけられて、ユノは立ち上がった。
俺はいなくなったユノの、その手首の場所を誰もいない空間に見つめて、
反応は大分遅れた。
つづく
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上がった記事を見ると、あまりにも短かったので伸ばしました。失礼いたしました。