「This is love comedy.26」ユノ×キュヒョン
一か月半はゆっくりと過ぎていった。
キュヒョンのミュージカルは、その心配を他所に連日満員のようで、いたるところで広告や特集記事を見かけた。
それでもキュヒョンからは、今何しているかというメールや電話が、一日に何度も来ていて、俺には珍しく、まめに返していたと思う。
二人のスケジュールはやっぱり合うことはなくて、連絡を取り合うだけのまるで一昔前の恋人同士の様な付き合いのまま、とうとう俺だけがしていたカウントダウンはゼロになった。
午前中に、空港に到着した。
俺は日本でのプロモーション活動の最中で、夜の飛行機で、また日本に戻る。
今日は午後に、撮影を終了したドラマの記者会見があった。その後は、久しぶりの完全なプライベートな空き時間だった。
会見は無事終了して、マネージャーに言っておいた通り、移動車でミュージカルの会場に向かってもらった。手の中の携帯電話は空港に着いてから見ていない。
ここ数日、キュヒョンからの電話はメールで返していた。
どんな内容にも関わらず、俺からはミュージカルの励ましの内容だった。
俺とキュヒョンは今日、元の関係に戻る。
所詮ミュージカルの為とはいえ、恋人の真似事をしてきた俺達だから、キュヒョンだって、少しは寂しく思うかもしれない。心の準備をさせるというのは言い過ぎだけれど、距離を置いた方がいいだろうと思った。だから、メールに留めておいた。
会場から少し離れた場所で、車をとめてもらって、俺は歩き出した。
久し振りに、一人で外を歩くのは気持ちが良かった。
あんな真似事の恋人とはいえ、その先にあいつがいることにも俺は嬉しくなった。
でも、その関係を断ち切らないといけない自分を想像して、上昇した気分はそれ以上上がらなくて、むしろ足取りは重くなった。
あんなに寒かった気温が大分緩まっているのが分かる。
季節はもう変わろうとしている。
厚手のコートの下は、薄いニット一枚でも全く問題ない。
会場が見えると、キュヒョンがうつったポスターが見えてくる。自分がその男と付き合っているなんて妙な気持ちになる。
いや、まあ妙もいいとこなんだよな。
こんなにこいつのうつったものを見るのははじめてで、本当に人気は上がったんだなと再確認した。
ここにいるのはキュヒョンのファンが殆どだったから、すんなりと会場に入って、満席の場内を見渡してから、本当に最前列のど真ん中に用意されていた、自分の席に着いた。
まだ十五分ほど時間はあって、ここで携帯電話を開く。
やっぱり俺が空港に到着したと同時にキュヒョンから電話とメールが来ていた。それから
三十分前、本当に来ているのか、安否確認のメールが来ていて、そうだ、悪かった、と慌てて「今会場に到着したから頑張れ」と返信した。
即電話がかかってきて、これは取った。
「どした?」
言ったと同時に、数日分のキュヒョンの小言が聞こえる。
俺は耳を離すことなく、口元を弛ませながらそれを全部聞いた。
一通り言い終わったところで何か喋れと言われた。
「頑張れよ。キュヒョン」
元気のいい返事が聞こえて通話が途切れた。
時間だった。
開演の合図と同時に、照明が落とされる。
最初に登場した役者も舞台の世界では有名人だ。
でもやっぱり、キュヒョンが出てきた時、目をひいた。俺はまるで、あいつのファンのように見つめた。歌声を聞いた。
自分達のあの変なはじまり。
キュヒョンがあの頃、どれだけ練習していたか、その成果を目の前で見ていた。
勿論キュヒョンは、観客席の俺には一切目もくれずに、演じ続ける。俺は完全な観客で、それで良かった。
スポットライトに照らされた自分の恋人は、誰よりも、魅入らせて、楽しませた。
つづく