「Kiss me,baby.21」ユノ×チャンミン
昨日は夜じゅう、悶々とした。
それはもう面白いほどに。
まず、報告するかどうするか、あの過去のやりとりを眺めながら悩んだ。
あんな顔見たことなかったし。
今まで何度も喧嘩はしたけど。本気で親の仇のような顔で見られちゃって。
あんな目で……キスされちゃって。
唇の感触も指の感触も。
どれも最悪だった。
極めつけの、外されていた手首のあれの光景も、全てが、俺を悶々とさせた。
一番最悪なのは俺かも知れないけど、ユノだって相当だ。
そして、寝不足。
今日も一日中、俺を見ないユノの手首には、違う腕時計がつけられている。
でも……言えなかった。
なんて言うんだよ。
多分あったんで、つけて下さいとでも?
俺からすれば、同性の俺のことが好きなユノが用意したペアの腕時計なんて、人前でつけてほしいわけはないし、自分だってつけられなかったんだから。
言い出せない。
そんなわけで、俺はその懐かしささえ覚える、以前は良く付けていたユノの腕時計を視界の端にいれて、今も帰りの控室で悶々としていた。
でも、そろそろ来る。
その時にさりげなく伝えることはしよう
「チャンミンさん!ユノさん!」
ノックされて、入って来た、女子力の高い後輩と、マネージャーもついでに入って来た。
「はい!リュックです!チャンミンさん大分酔っ払ってたから、預かったんですよ!」
愛用のリュックが手元に戻った。まあ、気になるのは中身だけど。
「ありがと。でもその女子力のおかげで俺が一体どんな目にあったか……」
「おわびにチャンミンさん今日は奢って下さいよ!」
立ち上がったユノがこちらを見た。今日初めて仕事以外で俺のことを見たかもしれなかった。何となく安堵する。リュックの中に、あれが入っていることをさりげなく言おうと思った。
でも、その前にユノが、
「お疲れ、チャンミン」
と、まるで気を利かせたような微笑みを浮かべて俺に言って来たので、俺は声を出せなかった。
「え、ユノさんも一緒に行きますよね?」
「いや、やめとくよ。チャンミンにちゃんと奢ってもらえよ。じゃ、またね」
笑って、手を振りながらユノが出て行く。
別に俺とこの後輩の仲を勘違いしたんじゃないだろう。そこまで察しは悪くないはずだ。
自分がいると、俺が楽しめないと思ったんだろう。まあ、俺が女が好きだと分かってるんだし、彼女も作れと言ってたのもあるんだろうし。
俺は出て行く後ろ姿を見て、何も言えないまま、
ただ、そんなユノを、
……相当だな、と思った。
つづく