「Kiss me,baby.26」ユノ×チャンミン
御用達の個室の焼肉屋に、俺達は時間通り、二人とも店にいた。
気まずそうに目を合わさない緑のシャツを着たユノと向かい合って座る。今日もずっとこの調子だったらいたたまれない。
けれど、今この瞬間はきっと、ユノはそうはなれない。
「何食べます?」
黒の薄いニットの俺がメニューを差し出すと、ユノはしぶしぶ手を出した。そして、その手が止まる。
「チャンミン?」
ユノが俺を見た。
その顔が唖然としている。なんか懐かしいな、と思った。
ユノと前に来た時、その告白の瞬間、何も知らなかった俺が店員を呼んだ時も、そんな顔してたかも。
俺達は、久しぶりに目をじっと合わせていた。ユノの目は丸く開いている。最近知った黒い瞳を俺は眺めた。
「ヒョン、もう我慢できません」
と、言った俺に、
「何考えてんだ?」
と、眉をひそめて言われた。
「それはこっちのセリフです」
俺はいつかのユノみたく、責めた目で一瞥してから、店員を呼んだ。ランチメニューを頼む。ユノもメニューを拡げて多分どうでもよく簡単に決めて、注文は終わった。
「外して、チャンミン」
俺の手首を視界に入れて、目を見開いている片割れ、というか二人しかいないけどグループのリーダーを、表情無く見つめてから言う。
「片一方がつけることないんだからいいでしょ」
「俺もつけてたんだから、ダメだろ」
「腕時計はつけるものでしょ?」
「でもそれはダメだ」
「じゃあ、何でくれたんですか?」
ユノは黙った。
もう言わないんだ、
と、俺は思った。
「……チャンミンだって、嫌だろ?」
ユノが目をそらせた。
「こっち見て、ヒョン」
目をそらせたことを指摘されてユノが驚いたように俺を見る。
「嫌だったら、つけないでしょ?」
ユノが怪訝な目をしてから、声を出した。
「嫌じゃなくなったのは……何で?」
俺は肩をすくめた。
「分かりません。でも」
視線をユノに合わせた。その顔が俺の言葉を、固唾を飲んで聞いているのは分かった。
「ヒョンに見てほしかったからかな」
ユノも俺も、分からない。でも俺達はきっと探っている。そこに何かあるのかを。
テーブルに肱をついて、両掌を組んだ。自分でもその腕時計が目に入った。俺ももう見慣れたものだ。
「見たよ。見たから外してほしい」
「俺が見てほしかったのは、俺です」
ユノは見ている。目が離せないから。でもそれは保身のためかもしれない。
「それは……どういう意味?」
「そのままの意味。最近ずっと俺を見ないから」
俺は、ユノを逃がさない。でも、分からない。分かるのは、最初から、あり得ないはずの状況に陥っている自分達がここにいることだけだ。
つづく