「Kiss me,baby.29」ユノ×チャンミン
だから、口を先に開くのはユノだった。
「でも、ダメだ」
俺は自分の良く知っているリーダーを表情無く見つめる。解決案を見出したユノは、顔を上げてこちらを見た。
「本当に俺が悪かった。でも、努力すれば、俺達は大丈夫だよ。女が好きな元に戻れる。だからこれで気持ち切り替えて行こうな」
リーダーが板に付いた口調で有無を言わさない、口角に力を入れた頷きを見せられる。
「はあ、何が大丈夫かは、全然分かりませんけど」
何ともないような顔に変えて、自分もおざなりに頷く。ユノは、そんな俺から逃げるように顔を背けて、小さく息を吸い込んで吐いた。
「そう言う事だから、俺行く」
踵を返したユノに手を伸ばす。
肩を掴まれたユノが、分かっていたように睨んで振り向いた。
「本気で言ってんの?」
そう言って覗き込んだ俺の口元を上目遣いに睨まれる。
「当たり前だろ。じゃあ後でな」
肩を回して俺の手を剥がすと、「本気」で、逃げた。
振り向きもせずに消える。
俺は、いなくなった後ろ姿をそこに眺めて、静止していた。
個室には、一人きりになった。
本当に呼んでやろうか、
と、思って手首を見る。
一時間もない、時間的に無理だ。
目に入ってしまったそれを、舌打ち混じりにはぎとり、ジーンズのポケットに入れる。
首の後ろを乱暴に撫でた。
「何が当たり前だよ」
聞こえない位にぼやいて、短く息を出す。
あのリーダーが考えていることは、今は手に取るように分かった。
でもユノは分かっていない。
……近づけば目が行くくせに。
撫でていた手を止める。
胸の内から、体内から、狂った振り子のように音を立てて刻んでいる。
でも自分だって気付いたのは今だ。
つづく