「眠れない夜のエンジェル6」ユノ×チャンミン
~~このお話は、真夜中に起きているあなたに贈る、真夜中のお話。
こんばんは、みなさん。
僕の名前はシム・チャンミン。
僕は、『眠れない人の悩みを聞くエンジェル』です。
今日も良い夜になりましたね。
僕は今、ポルトガルはリスボンで、カルロス・ジョアン二(57)の眠れない悩みを伺っているところなのです。
「俺は何度も言ってやったさ。あのりんごは雨に弱いぞって、でも仲間は俺の忠告を無視して始めちまった。確かにここは雨が少なかったよ。でも俺はそれでも……」
カルロスはそう言いながら、おいおいと泣き始めました。僕はそっとその涙をテーブルに置いてあった布巾で拭いて上げました。
「だからって雨量が600mm超えるなんざ、思いもしなかったんだ。俺は大馬鹿者さ、つられちまいやがったんだ」
僕は何も言わず聞きながら、彼の涙を拭いてあげます。
けれど、カルロスの涙は留まるところを知りません。
「来年は新しいのを植えようと思ってる。でも来年まで食いつなげる気がしねえよ」
「ではカルロスさん。それまでに何かお仕事をされるのはいかがですか?」
「俺にできる仕事なんかないさ」
うう、と嗚咽を漏らしています。
「ありますよ、カルロスさん」
カルロスが顔を上げました。
「りんごです。違うりんご農家で働くんですよ」
カルロスの涙が止まりました。僕は最後に顔を濡らしていたものを布巾で拭いて、微笑みました。
「さあ、もう眠れますね」
「ああ、本当だ。その通りだ!ありがとうなチャンミン!」
「いえいえ。これが僕の使命ですから」
「やっとこれで俺は眠れるよ!」
「はい。おやすみなさい」
天使チャンミンは微笑んだまま、玄関のドアを開けて飛び立ちます。
「おやすみチャンミン!でもこの布巾、テーブル拭いてたやつだったんだよねー」
カルロスの言葉は、舞い上がった天使と一緒に夜空に消えていきました。
白い羽をぱさぱさと動かして、天使チャンミンは今日も月のない、真黒な夜空を飛んで行きます。
あー、嬉しいなあ。
今日は上手く眠れない人の悩みを聞くことが出来ました。
あと二件くらいは回れるかもしれません。
僕はうふふと笑いながら、ヨーロッパ大陸を飛び回っていました。
そんな僕の耳に聞こえてきたのです。
(ご先祖様ーーー!助けて下さい!)
この声は!
僕の子孫の声です!
どこだろう、どこだろう。
ん?
これはヨーロッパじゃないな。
これは海の向こう、
アメリカからだ!
白い羽をぱさぱさと動かして、天使チャンミンはアメリカ大陸にやってきました。
――――カリフォルニア州。ロサンゼルス。
つづく
2016/04/05 01:00公開