「麒麟5」キリン×リョウク
「僕アイドルなんだけどさ。肌大丈夫かなあ」
キリンは黒い瞳を動かしているけど大きな目全部が真黒であまりよく分からない。
そして答えた。
「水分をしっかり取った方がいいと思う」
僕も考えながら瞳を泳がさせる。どこに動かしても星空と目の前のキリンだ。
「……何でそんなこと知ってるの?」
「人間の60%は水でできてるって聞いたから」
「映画とか見たことある?」
「何で話変わったの?」
「ねえ、他のキリンともそんな話するの?」
キリンが黙った。
僕は何で黙ったのか分からずに、話題を変えようかと思案する。
人間相手じゃなくても、こういう風になるんだ、と思った。
「誰とも話が合わなかったから。僕は」
そうかな、と僕は少し頭をひねった、星空の様な黒い瞳を見ながら。
そんなこと……僕は全然思わない。
僕も何となく黙った。
「何か喋って」
柔らかそうな口元が動く。
「こんなに誰かと話しができたの初めてなんだ」
サバンナの、黒い夜空が白み始めるまで、僕らはずっと話していた。
「え、これスイカじゃん!」
完全に夜が明ける前に僕たちは歩き始めた。
キリンが言った通り、すぐに水分が欲しくなった僕は水をお願いした。
「多分、水は飲めないから。とりあえずこれがいいとは思うんだけど……」
「嬉しい!十分だよ!」
サバンナを抜け、少し砂漠化した大地に転がる沢山のスイカに僕は心を躍らせた。
「ん……でもね」
首を曲げて、こちらを見ているキリンの足元で、僕はもぎ取った大きなスイカを地面に叩きつける。赤い果肉の欠片が散乱する。
「あの………それなんだけど」
「いただきます!!!」
かじりついた僕は口を開けて固まった。
キリンが、欠片を持ったままの僕の顔を覗き込んだ。
「どう?」
口を開けたまま何も言えない僕と目を合わせてから、首を曲げてキリンが俯いた。
「そう。……それ……すごく苦いんだよね」
「遅いよっ!すごく苦かったよ!」
僕は砂漠の真ん中で怒鳴った。
「でも、これ毒はないから」
「毒みたいな味したよっ!」
怒っている僕を、また首を上げてキリンが覗き込んだ。
「苦過ぎて僕たちは食べられないけど、人間なら食べられるから」
「人間も食べられなかったよ!」
つづく