「麒麟14」キリン×リョウク
「サソリに気を付けて」
キリンに言われて、駆け出そうとしたのをやめた。
一緒に歩いて行く。
でも近づいたら、もう嬉しくて、
「走っていい?」
と、キリンに聞いた。
「サソリと蛇に気を付けて」
蛇まで言われて、僕はまたキリンと一緒に側まで歩いた。
「ラクダがいっぱい!」
大きなプールのように青い泉をラクダが囲っている。
ひょうたん型の周りには、ヤシの木が茂っていた。
これが緑に見えたんだ。
「入っていい?」
「うん」
こんなことろで水浴びできるとは思わなかった。
僕はラクダに見られながら、被っていたスイカも巻いていた葉っぱも取って、中のTシャツと下着ごと、入った。もう日焼けしてもいいから、とにかく冷たいものにあたりたかった。
「うわあ、気持ちいい!!」
キリンはふぉふぉふぉと笑って水を飲んでいる。
一番深いところまで行ってみると腰くらいの水位だった。
本当に澄んで真っ青に見える。
「ねえ、この水飲んでいい?」
またキリンに近づいた。
「それはやめた方がいいかな」
「え、じゃあ水飲めないの?」
キリンが横を向いた。
その方向には見慣れたスイカが幾つか転がっていた。
「またあ!」
僕は後ろ向きで水中にダイブした。
泉に入ったまま、割ったスイカをむしゃむしゃと食べた。
「苦いね」
バナナはもう食べてしまってない。
一玉は食べたかもしれない。
やっと喉の渇きが癒えた。
べとべとだった頭の先から足の先まで洗う。
周りのラクダ達は、何も言わず泉の中心にいる僕を眺めていた。僕もそんなラクダを眺めながら体を洗った。
「綺麗になった」
「じゃあ、行く?」
「うん」
また葉っぱを巻いて、折角頭も洗ったのに、食べたばかりのスイカを被って歩き出した。
「あ。このココナッツの中のジュース飲めるよね!」
周りのヤシに気付いて、キリンに言った。
「こぼさずに割るの難しいよ」
少し考えてみた。
「うん、そうだね」
僕は苦いスイカを抱えてまた歩き出した。
遠くにジャングルが見える。
ほっとしながら足を進めた。
その僕の横を、さっと何かが横切った。
「うわっ。かわいい!」
子犬?毛がふわふわしている。
「でも耳が大きかった……」
「フェネックだよ」
「フェネック……」
こんな過酷な場所にあんな生き物がいるなんて。
周りを良く見ると、植物もぽつぽつと生えている。
とげとげした尻尾の大きな黄色いトカゲにも出くわした。
「僕の砂漠ってこんなイメージ」
キリンを見上げて言う。キリンは僕を見つめてから言った。
「価値観はそれぞれだね」
さらさら舞う砂を浴びながら、キリンの返事が何だか可笑しくて、
僕はこんなに笑ったのは、久しぶりだと思った。
つづく