「チャンミンくんの恋人20」ユノ×チャンミン
マネージャーが帰って来て、三人でニュースを見ながら、夕食を食べた。
「一日なら実家帰って来てもいいよ」
明日は俺の専属のマネージャーが俺を迎えに来て、帰国する。
元々は日帰りのスケジュールだったけれど、俺達には今、一週間の休暇が与えられていた。
でもリミットはそのくらいだろう。それ以上はいらない噂を呼ぶ。
「いえ、大丈夫です」
けれど、それも断った。
マネージャーは明日丸一日ユノと過ごすために、仕事を詰めて今日も事務所で作業をしていたし、自分の休暇にもなるはずなのに帰国はできない。ユノなんかこの部屋からも出られない。
テーブルの上のユノが、俺の作った椅子に座って、マネージャーの買ってきたお好み焼きをラップに包んで手で食べながら、俺の顔を何も言わず横目で見ている。
俺もユノが何も言わず自分を見ているのを、眺めた。
「美味しいですね」
と言うと、ユノが頷いた。
「もう一パックあるから、明日も食べれるよ。ユノ、サラダも食べろよ、残していいから色んな野菜食べて」
今日は湯船にお湯を張って、俺も入った。
ユノの入った洗面器が目の前に浮かぶ。あんまり揺らさないように両手で持っていた。
酔いそうだと言われたから。
二人とも、もう髪も洗って濡れている。
「気持ちいい?」
ユノはさっきからあまり喋らずに、また三角座りをしている。
目の前の俺を見ない。
「うん」
「あったかい?」
「うん」
ユノの髭を指で触った。少し細くて柔らかいサボテンの針みたいにちくちくとした。
「やっぱ切ろっか」
「なあ、チャンミン」
ユノは触ったことには触れずに思いつめたような顔をしている。
「なに?」
その視線を膝位の水面に泳がせて、呟く。この距離と、風呂場だから聞き取れるくらいの声だった。
「俺も、チャンミンの仕事について行きたい」
そんなこと出来ないのが分かっていてユノは言っている。
俺は触った手をまた洗面器に添える。
「そんなの出来ないですよ」
「うん」
「空港通れないし」
「うん」
「誰に見られるか分からないし」
「うん」
「何かにぶつかるかもしれないでしょ」
最後の「うん」は少し間が空いた。
三年ほど前。
自分達にすごく困難な時期があって、その頃、ユノが俺の単独の仕事現場に来たことがあった。
あの時の感じに似ている。でも似ているけど違う、俺を励ますように、俺を見守るようにの意識がそぎ落とされてる。年上で、リーダーのユノの意識がそぎ落とされた言葉。
体が大きかったユノなら、これは思いもつかなかった台詞。
「すぐ帰って来るから」
そう言った俺をユノが見た。
ユノからすれば巨人と見つめ合っている。
でもその目は巨人じゃなくて、俺を見ている。
ユノが手を伸ばした。
洗面器の淵まで来ても手を伸ばすから、良く分からずに顔を近づける。
俺の鼻を触った。
触って撫でると、にこっと笑った。
「そろそろ出ますよ」
「うん」
大きな男に触られるのは不快だけれど、
これは別に気にならなかった。
つづく