「食卓風景」ユノ×チャンミンの短編
「一口ちょうだい、チャンミン!」
「はあ……」
ユノのこの癖は別にいいけど、何で?と思う。
「あの、同じ物食べてるんですけど」
「でも、チャンミンの方が美味しそうに見えるから」
何て隣の芝生が青く見える人なんだろうか。
別に食べさせるのはなんてことない。
でも俺はいつも、「えー」とか「何でですか?」とかそこに、もうワンクッション置く。
するとユノは「お願いお願い」とか「えーいいじゃん!」とかそこに、また一工程加えるから、やり取りは長くなる、
のを繰り返している。
不毛だけれども、なぜかこのやり取りは俺たちの儀式のようなものだ。
でも、俺はふと、今日は新しさを求めたくなった。
人は目新しい物に飛びつくもんだし、ユノにも新しい風を感じさせることができるだろう。
と言う事で今日は、これがどれだけ続くのかを、試してみることにしました。
「チャンミン!一口ちょうだい!」
はい、きました。
ちなみに何を食べたいとユノが言っているかと言うと、
何と俺が作った「粥」を二人で食べて、一口食べたいと言っている。
でも、「これのどこに違いが出ると思うんですか?」と言う、言い争いは今日は避けます。
あくまで、このいつものやり取りがどこまで続くかということに専念しようと思う。
それでは。
「えー」
「いいじゃん!」
「何でですか?」
「だってそっちの方が美味しそうに見えるから!」
「明らかに同じものですよこれ」
あまりにもだから、避けようとしたのに入れてしまった。
「でも食べてみないと分かんないじゃん!」
ユノが戻してくれた。
大体ここらへんでいつも俺が折れるから、ユノはもうスプーンを突き出して食べる準備に入っている。
けど、そうはさせません。
「えー、いやですよー」
ユノの表情に変化が出た。
「いいじゃん!なんで!」
え、本当に嫌なの?と言う疑問が顔に出たけど、ユノの「いやまさか」と俺を信じて疑わないポリシーが続けさせた。
「だって同じ物です」
また避けるのをやめてしまった。
そのちょっとハラハラした顔を見ると思いつかないから、セリフが。
「え、でも!でも!」
ユノの表情が更に「いやまさか」な感じになってきた。
「おかしいですよー」
「え、でも!でも!」
だめだ。ユノが思考停止に陥った。
同じセリフを繰り返して、これ以上の変化を望めない段階に入ってしまった。
「分かりました」
「え!」
その顔がぱあっと明るくなった。
「いや、やっぱりおかしいと思います」
「え、でも!でも!」
うん、やっぱりこれ以上ダメだそうだ。
「じゃあ、どうぞ」
「え!」
俺が最後あまりにもあっさり受け渡したので、呆然としてしまっている。
仕方なく、俺はユノのスプーンを取って、俺の粥を一口その口に運んであげた。
ユノは何も言わずそれを口に含む。
「美味しいですか?」
「美味しい」
固まって瞳を丸くしたまま、ユノが言う。
今日は頑張ったからもう一口ご褒美。
それで、ユノはいつもの笑顔に戻った。
「じゃあ、明日からも頑張りましょうね」
「何を?」
「次は俺から行ってみるんで」
「何を?」
ユノの知らないところでも、俺はいつも頑張っている。
そんな俺たちの食卓風景。
『食卓風景』おしまい