「眠れない夜のエンジェル10」ユノ×チャンミン
~~このお話は、真夜中に起きているあなたに贈る、真夜中のお話。
こんばんは、みなさん。
僕の名前はシム・チャンミン。
僕は、『眠れない人の悩みを聞くエンジェル』です。
今日も良い夜になりましたね。
僕は今、南極大陸で、大陸の調査員ウィリアム・トッティ(27)の眠れない悩みを伺っているところなのです!
「ほんと、こんなに寒いと思わなかったんです」
ウィリアムは、視線をテーブルの上に落として、深刻な顔で溜息をつきました。
「……確かに」
僕は天使になってからはどこでもこの姿で過ごすことはできるのですが、寒さは感じるし、なぜか風邪だけは引くので、調査員の住んでいるこの建物の中に来るまでは、久々に凍り付くかと思いました。
まだ羽は少し冷たいです。
あと、久々にペンギンを見ました。
「しかし、ここはとても暖かいですよ?」
僕はウィリアムの入れてくれたホットミルクを飲みながら、今日は風邪を引いてしまうかもしれないと思いました。
「でも、一歩外に出ればあんなに寒いと思うと……夜も眠れなくて……」
「なるほど……」
これは予想以上に難しい悩みのようです。
「僕の祖国オーストラリアはとても暖かい国です。だからこんなに寒いのはちょっと」
「なるほど……」
僕はホットミルクを飲み干しました。
「……分かりました、ウィリアム。では、出なければいいのです」
「え……?」
ウィリアムは僕の顔を小首を傾げて眺めます。
「ここから、出なければいいのです。そしてここを、オーストラリアと思えばいいのです」
「え、でもどうやってここをオーストラリアと?」
僕の顔を見つめて唖然としています。僕はそんな彼の顔を見ながら、真剣に問いました。
「ウィリアムにとって、オーストラリアと言えばなんですか?」
「ママ……とコアラかな……」
「分かりました。では今からママとコアラを持って来ましょう」
僕は短く一度頷きます。
「本当、ですか?」
「ええ。ただコアラはここまでの道のりで命を落としてしまうかもしれないので、ぬいぐるみにしましょう」
それはとても可哀想だから。
「そ、そんなことが?」
「待っていて下さい」
そう言うと天使チャンミンは、白い羽をぱさぱさと動かして、基地から飛び立ちました。
凍るような寒さの中、一生懸命飛んで行きます。
――――オーストラリア。ケアンズ。
天使チャンミンは、オーストラリアの上空を、ぱさぱさと白い羽を動かしながら、くまなく飛び回りました。
あ!いました!
僕と同じ天使を一人見つけました!
それからあと二人見つけて、天使チャンミンは彼らと一緒に、防寒具を着させたウィリアムの母親と、各地で交渉して手に入れたコアラのぬいぐるみを紐でつるして南極大陸まで運びました。
「ママーー!」
「おお、息子よ!」
「本当に来てくれるなんて。信じられないよ!ママ!」
「パパを説得するのが大変だったのよ、ウィリアム」
ウィリアムの代わりにママと言う新たな調査員も見つけ、彼の部屋はコアラのぬいぐるみでいっぱいになりました。
「外に出る時は、防寒具を着るので、ママとはきっと分かりませんよ」
天使チャンミンは涙で頬を濡らしているウィリアムに微笑みかけます。
「これで、眠れますね?ウィリアム」
ウィリアムは涙を流しながら、何度も頷きました。
「ありがとう……チャンミン!」
「いえ、これが僕の、いえ、僕たちの使命ですから」
天使チャンミンと、三人の「眠れない人の悩みを聞く」天使が微笑みます。
「ここでもう大丈夫ですよ。ではおやすみなさい、ウィリアム!」
四人の天使が基地から出て、飛び立ちました。
「おやすみなさい、チャンミン!でも多分、ママとばれると思うー」
基地の中から叫んだウィリアムの言葉は、舞い上がった天使達には聞こえません。
白い羽をぱさぱさと動かして、天使達は南極大陸から北上します。
「いやあ、お疲れさまでした」
「本当に。寒暖の差もありますしねえ」
「しかし、ペンギン可愛かったな」
「本当にみなさんありがとうございました」
まだ夜は終わっていません。四人は別れを告げて、真黒な夜空を、またそれぞれ思い思いの場所へ飛んで行きます。
あー、大変でした。
今日は風邪薬を飲んでおいた方がいいかもしれませんね。
でも、今日も上手く眠れない人の悩みを聞くことが出来ました。
僕はうふふと笑いながら、先ほども来たオーストラリア大陸で体を温めていました。
けれど、そんな僕の耳に聞こえてきたのです。
(ご先祖様ーーー!もうダメですー!)
この声は!
そうです!僕の子孫の声です!
どこだろう、どこだろう。
これは海の向こう、
日本からだ!
まだ少し冷えている白い羽をぱさぱさと動かして、天使チャンミンは日本にやってきました。
――――東京都。港区。
つづく