「Mi envulti vin en tiu profanda forsto.1」ユノ×チャンミン
心臓の音を聞くと、世界は深い森の中に閉じ込められてしまう。
体現していた。
遭難ではなく、それは外部の者に、はじめならば自分に、現在は他人に、そこには必ず意識が、思惟が、在って、閉じ込めた人間を惑わせてしまう。
緻密に出来ている。
奸計に踊らされる。いいえ、違う、それは純粋なとてもレベルの高い意識下に存在している。
だから解けるし、だから、解けない。
誰も見たことのない現に来ている。
地面は舗装もされていない土で出来ていて、いかにここが荒涼としているものか良く分かった。自分は何をしているのだろう。
でも足を進めるしかできなかった。
昨日、二人の人間がここに入るのを見た。
でも、出てきたのは一人。
何でこんなところに……
眩しいくらいの爽やかな白いシャツが最後の姿だった。
一度も話したことはないけれど、彼は有名人だ。
警察に言った。
でも見つからない。
「ほら言ったじゃん」
誰かが言った。
その人はきっと僕の言葉を信じたのだろう。
水の粉が、まとわりついて濡らす。
霧が出て来た。
朝早く来たけど、関係ない。
まるで気温が上昇したようだ。
着ていた長袖のTシャツが湿った。
良かった。
プラスチックの大きな容器が指に食い込むのを感じながら思った。
喉に入って、細胞に浸透する。
あと一本持って来ても良かったかもしれない。
重たいか、と懸念したけど。
こんな時でなければ遠足気分にでもなるのだろうか。
もう緑は色を濃くしている。
広葉樹ばかりの、
――夏の初めに来た森。
何本かの幹に手をつく。
硬いウロの感触も久しぶりだ。
じゃり。
踏み鳴らす土の音と、
鳥の声だけが知覚できる音。
白く漂うもやがまるで標高が違う様な錯覚を覚えさせる。
前が見えないほどではないけれど、
もっと光が欲しい。
地面まで明るくしてほしい。
でも、その必要もなくなった。
じゃり。
音と一緒に終わりが来た。
着いてしまった。
「あそこに入ってはだめ」
誰かが言った。
ぎゃあ。
山鴉が崩れかけた頂上に一羽止まっている。
餌でも、そこに、あるのかもしれない。
割れた窓から暗闇が見える。
誰かが立っていた気がした。
でもそんなはずはなかった。
こっちを見ていた気がした。
でもそんなはずはなかった。
鉄格子の入口も、ただの柔らかい鉄の塊になって、地面に積もっている。
大丈夫。
だって、言っていた。
そこでは、
何も見つからなかったと。
もう建物の入り口のドアは倒れていた。
コンクリートに粉々になった硝子が散乱している。
中が見えた。
階段が上へ続いている。
懐中電灯が必要だったかもしれない。
奥は暗い。
足を進める前に、一度振り返った。
でも、白い霧に閉ざされて後ろが、
見えなかった。
自分は、まるで閉じ込められたようだ。
深い、ここに。
つづく➡