「そういうこともある 3」ユノ×チャンミン
~Yside~
携帯電話を見ると、メッセージが数件と電話がかかって来ていた。
それに返す気にもなれず、服を脱いでいく。
とりあえずシャワーを浴びたかった。
面倒くさかったけれど、そのメモのせいで思い出したようにスーツをおざなりにハンガーにかけて、シャツはソファーに投げ捨てる。
酔いは、シャワーから出る頃にはすっかり醒めていた。
水の入ったグラスを持って、シャツを床に払ってソファーに寝転がった。
癖になっているテレビのリモコンを手に取り電源を入れる。
壁の時計を見ると面白い番組は一つもない時間帯だ。
それでもつけたまま、ローテーブルにさっき置いたメモを手に取った。
思わずため息を漏らす。
怒ってるだろうな。
この性癖の人間には珍しくない、相手からだった。
そっか、今日だったか。
すっかり忘れていた。
お互い特定の人間はいないけれど、身体だけの相手。
時間が合わなくて殆ど会わないし、もう潮時かなと思うんだけど、今独りになったら、更にあいつのことを考えそうで怖かった。
あんなに酔ってたんだから、もう寝てるだろう。
恋をするっていう感覚なんて、久しぶりで、舞い上がってるんだ。
前の恋人と別れた時、長く付き合っていた相手だったから、振られた時はかなり参った。
どうせ結婚できないんだから、身体だけの関係でもいいかなんて考えるようになったけど、今は良く分からない。
でも、ノンケで部下。
まあ、上手くいこうなんて思ってないけど、時々、こうやって一人の部屋にいると、あの笑顔を思い出す。
あんな可愛い笑顔が、この部屋にあればいいな、なんて思う。
ぼうっとしてしまって首を振った。
30男が何考えてんだよ。
気持ち悪い。
だけど、実家を出てからもう10年。
同期はどんどん結婚していって、不思議に思われる中で、「相手がいないんだよ」とか言って自虐的な台詞を言うのに疲れても来た。
このまま、独りでここにいるのかと思うと、時々酷い焦燥感に駆られる。
偽りの結婚なんてことも、考えたり。
でもそんなの自己満足以外の何物でもない。
二連休か。
休日出勤がないのも久しぶりだ。
ああ、それでか。
持っていたメモを見る。
謝りのメッセージだけ入れておこう。
くしゃっと潰してゴミ箱に投げると、そんな俺をたしなめるようにそれはゴミ箱から外れた。
また溜息を一つ。
そうだ、この前取引先で偶然会った大学の同級生。
今度飲もうなんて言っていたし、あいつに連絡してみるか。
少し笑みを取り戻すころには、もうソファーの上で俺は口を開けて寝てしまっていた。
つづく