「平社員シム・チャンミンの事件簿 前編」(開設半年記念)ユノ×チャンミンの短編
*問題があるお話なので、「何でも許してあげてもいい」と思われる方のみ宜しければご覧ください。最後まで不真面目に終わる話です。
僕たちの会社は山の中にある。けど結構大きい。
そこで自分達は、WEBを担当する部署に属している。
WEBは勤務時間なんて関係ない。
午前様なんてしょっちゅうで、社員は大体最寄り駅から出ている専用バス通勤だけれど、この部署のみんなは自家用車で通勤だから時間なんて気にしない。
今日も会社に泊まり込みでパソコンに向かって仕事を続けていた。
メンバーは部長のチョン・ユノさん、平社員のチェ・ミノ、イ・テミン、イ・ソンミンさん、そして僕、シム・チャンミン。
部長は今年30らしいけど、その若さで部長になったのは、真面目な仕事ぶりと、人当たりの良さからだろう。誰もが納得の部長だ。
それからミノは、後輩にあたるけど僕と一番仲が良い。爽やかなスタイルの良い好青年だ。女にはモテるけれど、最近少し生え際を気にしている。
テミンはこの部署のアイドル的存在だ。男だけど線が細くて、色が白い。お茶くみを良くしてくれる、可愛い奴だ。
ソンミンさんは、メンバー唯一の既婚者。ユノさんと同じ年だけど、ソンミンさんの方が少し若く見えるかな。
仕事に対する姿勢は実直そのもの。
僕、シム・チャンミンは、メンバー1のイケメンだと自分では思ってるけど、ミノのモテっぷりに負けるのが少し納得いかない。でも実は全く気にしていない。好きになった人以外にはどう思われようが気にならないのが僕だ。
あ、あと一人忘れてた。
一番隅の席のスイマ・ユメオ。この人はいわゆるオタク。いつも時間があれば脂ぎった手で女の子のフィギュアを眺めて、そのスカートをめくったりしている。でもみんな怖くて、あまり彼には触れないようにしている。
そんな僕たちで、今日も深夜まで残業だ。
でも、やっと僕の方はそろそろ終わりが見えそうだった。
「チャンミン、進行はどう?」
スーツがばしっと決まっている部長がやってきた。
デスクに手を置いて、僕を背後から覆うように覗き込む。
実はちょっとこれ、疑問なんだ。
見ていると僕以外にはしないし、でも特に僕を贔屓するようなそぶりもなく、ただ何となく僕にだけ距離が近いような。
「そっち」じゃないよな、なんて。部長にそんなこと聞けないけど。
「そろそろ仕上がります」
「ん、よくやった」
そう言って、僕の首をすっと手の甲で撫でた。
え、そんなことする?
思わず他のメンバーを見るけど、誰も気づいていない。
下手すればこれはセクハラにあたるのでは。
ま、まあいいか。
深く考えないようにしよう。
部長が窓際のデスクに戻り、隣の席のミノが声を落として言ってきた。
「先輩、見て下さいよ。またユメオ、フィギュア変えたみたいですよ」
僕は、隅のユメオに目をやる。
フロアーの一番隅の席で、手の脂で指紋だらけの眼鏡をかけ直しながら、持っている女子高生のフィギュアに話しかけている。
「きょ、今日はどんなパンツを履いているのか、お、俺様に見せてみるがいいさあ」
ユメオはオラオラ系だ。
その制服のミニスカートをぴらりとめくった。
白いパンツが見えた。
「ぐ、グフゥ!俺様は興奮したさあ!」
恍惚の表情を浮かべたユメオを、俺とミノは眺めた。
「あいつ、この前クライアントのいる前でも、あれしたらしいですよ」
「……いつも持ち歩いてるしな」
「おい、口じゃなく、手を動かせ」
向かいのソンミンさんにたしなめられる。
僕とミノは「すいません」と小さく呟きながら慌ててパソコンに向かった。
「お茶ですー」
にこにことした笑顔でテミンが湯気の立つお茶をお盆に入れて持って来る。
「ありがと」
ミノが言う。
「どうぞー」
僕のデスクにも置かれる。
「ソンミンさんもどうぞー」
そう言ってテミンが置くと、ソンミンさんが少し頬を染めた。
「あ、ありがと」
ソンミンさんはテミンには弱い。僕はもしかしてソンミンさんは本当はそっちなんじゃないのか、と疑っている。
いつもと変わらない僕たち。
でもそんな中。
事件は起こった!
「きゃああああ」
テミンの悲鳴がフロアーに響いた。
突然、真っ暗になったフロアー。
停電だ!
その瞬間、どこかでばりばりと落雷の音が聞こえた。
「落ち着け!バックアップ取ってるか!」
部長が叫んだ。
「取ってます!」「取ってます!」全員が言った。とりあえず一安心だ。
実は天候が崩れやすいこの地方は停電がしょっちゅう起こる。
普段からこまめにバックアップを取る癖をつけていた。
フロアーに小さなライトが灯る。
非常用電源が入っている。
それと同時に、部長の後ろの窓を、大粒の雨が叩きつけた。
「……嵐がくるな」
部長が呟いた。
けどもう嵐は来ている。
「期日が明日なのはソンミンだな。いつ復旧するか分からんが、復旧次第、全員でサポートだ」
「大丈夫です。もう出来上がりました」
流石、ソンミンさんだ。部長がソンミンさんに強く頷いている。
窓を強い風がごおっと揺らした。
「よし、ちょっと休憩に入ろう。長くなるようなら、仮眠を取れ」
テミンが給湯室から、ろうそくをつけて持ってきた。
「おお、ありがとな、テミン」
部長がほっとしたような表情を見せた。
「いーえー」
みんなろうそくを取り囲むようにソファーに集合する。
「ん?」
部長が声を出した。
「おい、一人いないぞ」
部長が言った、
その時!
「きゃああああ」
テミンの悲鳴がフロアーに響いた。
みんなが声の方を見る。
部長が向かう。
それに続くように僕たちもソファーを立った。
テミンはユメオの席にいた。
その前にはデスクチェアーの上で上を向いてだらりと座っているユメオの姿があった。
「し……死んでる」
テミンが言った。
フロアーに戦慄が走った。
「そんな、嘘だろ」
ソンミンさんが呟く。
「おい、ユメオ!ユメオ!」
部長が肩を叩く。けれど、その手がだらんと落ち、カラカラとみんなの前で何かが床を転がった。
ピカッと稲妻が光る。
ミニスカートの女子高生のフィギュアがみんなの目に映った。
履いていたパンツが、ピンクになっている。
着替え……させたんだ。
「ユメオ、そんな……」
ミノが、うっと嗚咽をこらえた。
テミンがしくしくと涙を漏らす。
「待って下さい!」
僕の言葉にみんなが向いた。
僕は見た!
あの雷が光った中、ユメオの首元を!
「見て下さい!!」
僕は、そこを指さした!
またピカッと光る。
そこにはくっきりと何かが巻かれたような跡がついていた。
「ユメオは、殺されたんです!」
みんなが唖然と見る。
「おいチャンミン、何言ってんだ」
部長が呟く。
「いえ部長、こんな跡さっきまでありませんでした!そして、このフロアーには僕たちしかいません!」
僕をみんなが見つめる。
カッとまた稲妻の光が照らした。
「つまり、犯人はこの中にいる!!」
ガラガラガラ、とどこかに雷の落ちた音がした。
「その犯人を暴きます!」
僕は後ろを向いた。
後ろは壁だ。
そして、片手を腰に置いて、顔だけ振り返ってポーズをつけた。
「このイケメン平社員、シム・チャンミンが!!」
つづく