「平社員シム・チャンミンの事件簿 中編」(開設半年記念)ユノ×チャンミンの短編
「ガイシャは?」
「スイマ・ユメオ。趣味はフィギュア鑑賞、自宅はふもとの駅近く、両親と住んでます」
「両親との仲は?」
「まだ調査中ですが、時々会社に母親から夕食は何がいいかと言う電話がかかってくるので良好だと」
「なるほど」
ミノが顎に手を置いて、頷きながら呟いた。
「あのさ、ミノ。僕そっちやっていい?」
「あ、すいません」
雷がピカピカと光る中、僕は手に持っていたノートとシャープペンシルをミノに渡した。
ミノは僕がメモをした特徴を読んで、ふむふむと首を揺らしたけれど、この情報はミノ含め部署の全員が知っている。
「チャンミン何か分かりそうか?」
部長が僕達の様子を腕を組んで見ながら言った。
「はい」
答えた僕に、部長とミノが向いた。
「これを見て下さい」
僕はユメオが持っていた女子高生フィギュアを、あまり触らないよう親指と人指し指と中指で摘まんで、自分達の顔の高さで掲げた。
固唾を飲んで二人が見つめる。
僕は、二人の前でその制服のミニスカートをめくった!
雷がピカッと光る。
ピンクの下着がさらけ出された。
ゴロゴロゴロと音がして、また暗くなる。
沈黙が流れた。
「で?」
部長がそれを見つめながら僕に言う。
「きっちり履かされているということです」
暗い中、ミノが少し眉間を寄せて、
「で?」
と、言う。
「停電が起きる前、僕とミノがユメオを見た時、このパンツは白だったんです!」
僕が力強く言うと、
部長も眉間に皺を寄せて「……で?」と、首を捻りながら言った。
「こんな小さなパンツ、暗闇の中で綺麗に履かせるのは難しい。普通なら停電になった瞬間、パンツを履かせる手を止めるでしょう!つまり!」
僕は二人を鋭く見た!
カッと、雷光が僕を照らした。
「これは停電前に履かされていたということです!」
また、ゴロゴロゴロと音がして、暗くなった。
静寂に包まれる。
ミノと部長が動きを止めて、少し思案して、
「で?」
と、同時に言った瞬間。
「え?来れない!?」
僕達はデスクの方を向いた。
「この天候に加えて、山道で落石!?」
ソンミンさんが携帯電話に声を張り上げていた。
「ふざけるな!こっちは人死にが出てんだぞ!!」
ソンミンさんは実直そのものだ。
「どういうことだ」
部長が詰め寄る。
「警察がこの嵐で動けないそうです」
電話を切って、首を横に振ったソンミンさんがため息を吐いた。
僕達は呆然と立ち尽くした。
「お饅頭ですー」
テミンが給湯室から頂き物の饅頭の箱を持ってきた。
「饅頭でも食ってちょっと落ち着こう」
部長がネクタイを弛めながら、気を取り直すように言った。
僕達はソファーに集まった。
ろうそくの明かりの中、饅頭を食べて、お茶を飲んだ。
「もうちょっと何か食べたいな」
ミノが呟く。
確かに食べると今まで感じなかった空腹を感じた。
「食堂開いてたらいいのに」
「自販機で買えよ」
僕にソンミンさんが言った。
「じゃあ行くか」
部長の声で、食堂と売店が併設されている二階にみんなで階段で下りた。
「あ!食堂開いてますよ!」
テミンが指をさして、僕達は目を丸くしながら足早に向かった。
「あらあら!」
食堂の名物おばちゃん、といっても年齢は多分自分達と変わらない、キュヒョンさんがろうそくの灯る調理場から顔を出した。
「キュヒョンさん!どうしたんですか!」
テミンが嬉しそうに駆け寄る。
「それが、新作のメニュー作ってたらすごい時間経っちゃって、それで落石で帰れないでしょう?仕方ないから残業組の為に食堂開けたのよー」
おほほ、と低い声で笑った。
キュヒョンさんは金髪で身長が180くらいある。
実はこの人男なんじゃないかと、僕は疑っている。
しかし、おかげで腹も満たされ、非常用電源で動いている売店横の自販機で菓子も買って、フロアーに戻った。
「……俺達、ユメオ置いて飯食いに行っちゃいましたね……」
ミノがろうそくに火をつけたままだったフロアーを見て呟いた。
「仕方ない。非常事態だ」
パンケーキを食べた部長が深刻な顔でソファーに座った。
「早く犯人を見つけないと」
ビビンバを食べたソンミンさんもソファーに座って、頭を抱え込んだ。
「そうですね」
ミノも座って頷く。
「お茶貰ってきましたー」
テミンが食堂から、やかんに入れたお茶を持って来てくれた。
そして、なぜか僕達はロッカーの上に置いてあった、年末のビンゴ大会の景品だった人生ゲームが目に入った。
二時間後。
「くそっ!何で結婚できないんだっ!」
「あ!俺、家立った!」
ゲームでは結婚ができないソンミンさんの横で、部長がマイホームを手に入れた。
「僕、子供できました!」
テミンに子供ができた。
その時!!
「お疲れ様です」
巡回の警備員が懐中電灯を片手に入って来た。
「あれ?人生ゲームですか?懐かしいなあ」
「いやあ、これ景品なんですよ。一緒にどうですか?」
爽やかな笑顔で部長が言った。
警備員も加わって、更に戦いは白熱した。
「くっそ!何で俺は結婚できないんだっ!」
ソンミンさんが頭を抱え込んでいる。
「あ、俺マイホーム建てます!」
ミノがマイホームを建てた。
「俺、結婚します!」
警備員が結婚した。
「ちょっと休憩にしよう」
部長が目頭を揉みながら言って、休憩に入った。
懐中電灯を借りて、僕はトイレに向かった。
夜のトイレは三大薄気味悪い場所の一つだ。
鏡に懐中電灯を照らした時の怖さと言ったら、年末のビンゴ大会でユノ部長に景品は僕が良いと言われた時に匹敵する。
僕はおどおどしながら用を足して、トイレから戻ろうとした。
その時。
給湯室から声がした。
慌てて懐中電灯を落としそうになる。
音を立てないよう、震えてくる手で僕はドアを開けてみた。
「あ……ソンミンさんダメですっ」
「テミン君もう我慢できないんだ!」
「あ、ダメですっ!ソンミンさんっ!」
僕は、そっとドアを閉めた。
見なかったことにしよう。
休憩時間が終わって、みんなさっきの場所に座ってゲームを再開した。
少し元気がなくなったテミンが、
「お茶、入れますね」
と、言ってみんなにお茶を注いでくれた。
とても気になるけれど、聞くのは野暮だ。
「じゃ、次、僕です」
僕はサイコロを振った。
「チャンミンそれ、俺の……だぞ」
部長に耳元で囁かれて、わたわたと駒を戻した。
「しかし、俺達、何か忘れてませんかね」
ミノが窓の外の嵐を見ながら呟く。
その言葉と同時に、全員が動きを止めた。
「あ」
僕が声を出した。
「そうだ!こんなことしてる場合じゃないぞ!!」
部長が立ち上がる。
「待って下さい!!俺がまだ結婚していません!!」
ソンミンさんが必死に言うので、仕方なく、僕達はもう一時間ゲームをやって、ソンミンさんを結婚させてあげた。
つづく