「チャンミンくんの恋人43」ユノ×チャンミン
ユノがドアから俺に向いた。
「先に寝る?」
聞くと、ユノが首を横に振る。
「掴むよ」
無言のまま頷いた小さな身体をデスクに置いた。
「ユノの服洗わされたりして」
立ち上がりながら見下ろすと、ユノが歯を見せた。
「どうしたんですか?」
ドアを閉めて、廊下を歩きながら隣のマネージャーを見る。
「うん、ちょっとな」
お互い酔いが残っていて、鼻の頭や頬が色づいている。
テーブルにはツリーや開けなかったワインが置いてあって、
ダイニングにはさっきまでの陽気が残っていたけれど、
マネージャーは何となく静かで、それにつられるように俺も口を閉ざした。
ソファーに向かうから、自分もついていく。
リモコンを、マネージャーが手に取った。
『緊急速報をお伝えします』
切羽詰まった声が聞こえたにも関わらず、俺はゆっくりそれに目を向けた。
音量が大分小さくされている。
二人とも立ったままだった。
俺は動けなかった。
『先月、ソウル特別市近郊で起きました人体縮小化ですが、縮小化された人々が先ほどから、相次いで元の身長に戻ると言う現象が起きており、この原因の解明を急いでいます』
俺は何も言葉を発さずにテレビ画面を凝視する。女性アナウンサーから、専門家らしい人間に映像が切り替わる。
『この化合物の良かった点は、その作用がまるで人体の為に作られたように体内に取り込まれた途端、各細胞に合わせた効果を発し、これは例えですが、まるで放射性物質の半減期のように周期があり、しかし放射性物質とは違って、同時にその作用を発揮し続けたこともあり負担が極めて少なかったのではないかと……影響はこの先未知ですが、一生涯出ないと言う事もあり得ます……ほぼ一か月で一斉に形態を変え、更にこれから体外に排出される可能性も……それでは、縮小化されたのち、元に戻られた方のお話を……』
声と共に日本語の字幕が出て、マイクを向けられた男性が映った。
パチ、と画面が消える。
リモコンを手に持ったまま斜め前にいたマネージャーがこちらを見ずに「ユノには言うな」と言った。
俺はぼんやりとしていた。
「まだ全員じゃないそうだ。ユノだけ戻らないなんてこともある。期待させてそうなったら可哀想だから」
呟くように言われた声を聞きながら、俺は消えたテレビ画面を見たり、視線を泳がせていた。
呆然と立ち尽くしていた。
どくどくと鳴る胸の音を感じながら、「分かりました。寝ます」とだけ言って、夢の中を歩いているような足取りで部屋に向かった。ドアを開ける時、一瞬躊躇ったけれど、
開けて入るとユノはデスクの上で、ブロックの部屋の壁に座っていた。
俺はそっと息を吐いた。
ユノが立ち上がる。
その正面に行く。
俺の表情を見て、不安な顔をして俺を見上げている。
「マネージャーの話、何?」
唾を一度飲み込む。
見下ろしながら、声を出す。
「特に、大した話じゃなかったよ」
俺を見つめて、ゆっくり片手を上げた。久しぶりにこれをされた気がした。
その手を摘まんでから、その顔を体ごと撫でる。
ユノが口角を上げたから、俺も上げた。
小さな手が俺の指を持った。
「ずっと一緒ってチャンミン言ったよな?」
俺が口角を上げても、何かまだ不安なユノが、離さないように俺の指を持って見上げている。
「おどすのは、やめて下さいよ」
その姿を見ながら、呟いた。
ふと笑われて、
けれど縋るように見つめられて言われた。
「でも、言っただろ?」
俺はいつの間にか笑みを忘れたまま、少し眺めてから、屈んだ。
屈んで目の高さが同じになった俺をユノが見る。
俺は、ハンカチに包まれた小さなユノを、目の前で眺めた。
「そうですね……言いました」
思い出したように口の端を上げて、またその顔を撫でた。
ユノが、にこっと笑う。
「寝ますか」
「うん」
電気を消して、ベッドに入って、俺は天井を瞬きも忘れて見ていた。
動悸は治まらない。
自分が何を考えているのか、何を望んでいるのか分からなかった。暗い中、デスクを見上げる。
でも何の変化もなく、ユノが顔を出すこともない。
そうだよ。俺がどう思ったところでどうなるわけでもないだろ。
酒飲んでいて良かった。
考えるのはやめよう。
俺はいつの間にか眠っていて、目を開けた。
もう朝なのは分かった。
無意識にデスクの上を見上げる。
俺はしばらく見開いた目で、
誰もいないそこを見つめて、
昨日のうるさい鼓動が戻って来るのを感じながら、視線をずらした。
俺のベッドの淵に腰をかけている、
Tシャツとハーフパンツ姿のユノがいた。
つづく