「チャンミンくんの恋人53」ユノ×チャンミン
「ヒョン」
もう風呂は出ているだろう、ユノの部屋をノックした。
ドアが開いて、髪も乾ききった下着一枚のユノが出て来る。
俺より先に慣れた、平然とした顔が用件を言われるのを待っている。
さっき泣いた自分の目がなぜかここで潤もうとしたのを感じて、唾を飲み込む。
「……部屋、出来たんで、持って行って下さい」
「遅かったから、くれないのかと思った」
ユノが笑った。
そんなことを考えていることも、知らなかった。
ユノがクローゼットを開けて、黄色の夏っぽいTシャツを着る。
三段きっちり収まったプラスチックの収納ケースが中に見えた。
その引き出しがプールに使われることはもうないだろう。
「ドア開けといて下さい。二人で持たないと壊れるんで」
四隅を片側ずつ二人で持って、俺の部屋のとは違う入って正面の黒いデスクの上にある、作曲用のパソコンに接続された鍵盤を動かしてそこに置く。
「ここ邪魔じゃないですか?棚とかに……」
手を離して、正面のユノに姿勢を伸ばしながら話す。
「いいよ。どうせ忙しくて何もしない」
ユノは懐かしそうにそれを見下ろしている。
風呂上がりで、体全体が上気している。
小さい時には見えなかったこともあるんだな、とふと思った。
「じゃあ、何か上に掛けた方が。掃除面倒くさくなるから」
「気にしないから大丈夫」
話すことがなくなって、
ここから出ないといけない、と思った。
「……お休みなさい」
「うん」
顔を上げて微笑まれる。
俺は立ち尽くしたまま、平然としているユノを眺めた。
「どした?チャンミン」
「いえ……じゃあ」
小さかった時の寝る前の俺達が頭をよこぎっただけだ。
俺のデスクの上にあれがあろうがなかろうが、寒々しさは変わらなく見えた。
むしろ思った通り、無くなった分酷い。
忘れるのは嫌だ。
でもきっとこの、
分身がいなくなったような悲しさは、
記憶が薄れた方が早く癒える。
いつか笑って話せるようになる時まで、消えていてさえほしかった。
そのくらいなぜか今が一番辛かった。
ベッドに入りながら、電気のリモコンを手に取って、押す。
寒々しい部屋が暗くなった。
目を閉じる。
「俺がチャンミンの友達と恋人と家族になる」
脳裏で誰かが言った。
懐かしかった。
つづく