「眠れない夜のエンジェル13」ユノ×チャンミン
~~このお話は、真夜中に起きているあなたに贈る、真夜中のお話。
こんばんは、みなさん。
僕の名前はシム・チャンミン。
僕は、『眠れない人の悩みを聞くエンジェル』です。
今日も良い夜になりましたね。
僕は今から、東京都は港区で、子孫であるチャンミンのパートナーのユノ氏と、チャンミンの代わりに仕事をすることになったのです!ちなみにチャンミンは大将に預かって貰っているのです!
ユノ氏が居酒屋の前で突っ立っています。
「ユノ氏、そこにいたら迷惑になりますので、早く行きましょう」
僕はもうばっちり暗記したのです。
開いていた口を閉じて、思い直したように、ユノ氏が頷きました。
「分かった。俺が何とかする」
自分に言い聞かせるように頷いています。
エレベーターでどうやらこの雑居ビルの上へ向かうようです。
「あの、チャンミン」
「はい」
待っている間、隣のユノ氏が神妙な面持ちで顔だけこちらに向けました。
「俺に全部話合わせてもらえる?」
「はい。僕は何も分かりませんので」
僕はアイドルではないのです。来たエレベーターに乗り込みます。
「チャンミン」
「はい」
ユノ氏が僕に向かって拳を突き出しました。
「頑張ろうな」
僕は空中で止まっている拳を見て、この人のやる気を感じました。
「な?」
ユノ氏が拳をまた見せてきます。
「はい。頑張りましょう」
ずっと空中で止まっている拳を見ながらも、僕はしっかりと頷きました。
僕はやると決まればやる天使なのです。でも実際は「眠れない人の悩みを聞く」天使なのです。
なぜかユノ氏が気まずそうに拳を下げました。
「まあいい」
ユノ氏が正面に向き直りました。
「すごい、頑張らないといけないかもしれないけど、頑張ろうな」
「はい。頑張りましょう」
ユノ氏の緊張が僕に伝わってきます。そんなにすごい頑張らないといけないのでしょうか。凡人の僕には分からない難しさがどうやら現場にはあるようです。
子孫チャンミンと出会って僕は何だか忙しいのです。
「あの、チャンミン」
「はい」
「それ、飛べるの?」
「それ?」
ユノ氏がユノ氏の背中をつんつんと指差しました。
「ああ!羽!」
「そうそう」
「結構飛べます」
「……そっかあ……いいなあ」
エレベーターが開きました。
「チャンミンさんっ!!」
待機していたスタッフのような方々が一斉に僕を見てパイプ椅子から立ち上がりました。
けど、動きを止めました。
どうやらもうここはスタジオのようです。向こうに三脚が見えます。
「チャンミン、服が締め付けられて苦しいからこれに着替えたんです。これしか近所に売ってなくて」
「……近所って……こんな真夜中に……」
スタッフの一人が呆然と答えています。
「……いや、そんな問題でもないんですけど……」
気が抜けたように喋っているスタッフさんの向こうのドアが開いて、見たことあるマネージャーさんが走って来ました。
「チャンミンっ!!だいじょ……」
マネージャーさんが固まりました。元気そうで何よりです。
「……チャンミンなのか?」
僕はマネージャーさんから、ユノ氏を見ました。
「チャンミンですよ」
ユノ氏が答えました。
「……そうか……チャンミンか……」
マネージャーさんも呆然と佇んでいます。
何だか全員が呆然と立ち尽くしています。
僕はちょっとドキドキして来ました。
こんなに人が大勢いる悩み相談は初めてなのです。
つづく