「少し暗い日々の帳を抜けて1」ユノの短編
俺はポケモンの免許だけは持っているユノ。
十歳くらいからマスター目指すやつが多いけど、俺は学校が楽しかったし、大学に行きたいのもあったからその道からは外れた。
大学卒業してからは会社員やってみたけど肌に合わなくて、今は工事現場で働いて、今年30になった。毎日体動かしてるのは気持ち良いけど、周りでマスターになってるやつとか見ると、そういう人生もあったのかな、なんて考えたりしてる。
今日は夜間の道路工事のバイトのために昼に寝て、夕方の今起きた。畳に敷いた布団から起き上がる。
「ラーメンまだあったかな」
最近買い物とか全然行ってないな。
「ある。買っといた」
これは俺が一年前はじめてゲットしたポケモンのウニョク。
長いこと行ってた現場の近くの公園で、「ああいるな」と思っていたけど、なぜか誰も捕まえなくて、ウニョクも何で自分が捕まえられないのか不思議に思ってたらしくて、休憩時間に俺がそこで飯食ってたら声かけられた。
俺、仕事中だったしカプセルとか持ってなかったけど、それを伝えたら「まあ、カプセルなくてもいいや」って言われて、俺の終わる時間まで待って一緒にアパートに帰った。
食費と光熱費はかかるけど、部屋も掃除してくれてたりするし助かってはいる。
「なあ、ユノ」
ラーメンも作ってくれた。
「なに?」
「俺も働こうかな」
「マジ?」
「やっぱ少しは入れた方がいいと思うし」
「あー」
家計ね。まあ、助かるけど。でもピカチュウとか働いてるの見たことないしな。そもそも働けんのかな。
「求人誌とか見とくわ」
「結構条件厳しいと思うよ」
「まあ見るだけ」
そう言ってウニョクはラーメンをすする。最初は敬語で話しかけてきたりなんかしてたけど、もうすっかり打ち解けた。
「じゃ、行くわ」
「うん、頑張って」
俺の平日が始まる。
作業着に着替えてアパートから現場に電車で向かいながら、すっかり夜になった車窓の外を眺めた。
生き物のように灯っていく沢山の明かりを見ながら、
今日もこの町のどこかで、
誰かがマスターになってんのかなって、
そんなことを思った。
『少し暗い日々の帳を抜けて』おわり
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気まぐれに続けると思います。