「少し暗い日々の帳を抜けて4」ユノの短編 ウニョク キュヒョン ヒチョル
俺の声に振り向いた。
「おー」
仲が良いのか隣のヤドンの肩にぽんと手を乗せて、目が隠れるぐらいの長い茶色の前髪を片側に寄せながら、こっちに歩いて来た。ここはクーラーがほどよく効いてみんな涼しそうだ。
少し離れた場所にある四角いクッションの様な椅子に座った。
「これ、観たいって言ってただろう?」
レンタルしたアニメのDVDを渡す。
「おー、わりー。ウニョクにも頼んだんだけど、借りられてたらしくて」
「聞いたよ。さっき見たらあったから」
ヒチョルは椅子に座らず俺の隣にしゃがんで、作業着姿の俺を、足の先から見上げた。
「なに?これから仕事?」
「うん」
「ふーん」
また前髪を横に流しながら、DVDに目をやっている。
ヒチョルは、三か月前、見ず知らずの女の子に道端でいきなり押し付けられたポケモンだ。
たまたま横を通り過ぎた俺に、すごい剣幕で「あなたにあげます」って言ってカプセルまで乱暴に渡されて走り去られた。
ヒチョルに理由を聞いたら、
「俺の好きなアニメの女の子の悪口言ったから、ギャラドスに似てる君が言うんだって言ったら怒った」
って、それは怒るんじゃないかと思ったけど、あっけらかんと言うヒチョルは全然気にしていないようで、
その様子を見るとポケモンとトレーナーにはやっぱり気持ちに違いがあるのかもしれないと少し寂しくなった。
ヒチョルは新種でそのままいればまたすぐ他の誰かが捕まえに来るだろうと思ったけど、なぜか渡されたカプセルに自分から入って、俺が持って帰ることになった。
「もう女はいい」と一言言ったのが印象的だった。
「なあ、ユノ」
「ん?」
「お前はそれでいいの?」
ヒチョルが手元のDVDを見ながら、脈絡なく言う。
「何?」
俺は眉を寄せてちょっと笑った。
こちらも見ないまま、大きくキツイ目をした整った顔立ちの中で、少し厚い唇を片側だけ上げて言う。
「相変わらず迷った顔してるなと思って」
「何だよ」
俺は噴出して笑った。
「まあいいや。あれ最終回だから見たいんだ」
ヒチョルが立ち上がった。
「じゃあ仕事頑張れよ」
俺の肩に手を置かれる。
折角来たのに、と思ったけど自分ももう行かないといけない時間だった。ヒチョルはまたみんなと一緒にアニメを見出して、ヤドンに見ていなかった話しの筋を聞いているみたいだった。
電車に揺られて、夜の町を見る。ぱらぱらと灯った明かりの中で、大きく目立つのはポケモンジムの明かりだ。
俺はヒチョルが何を言いたかったのか、何となく分かっていた。
つづく