「鶯 最終回」ユノ×キュヒョン
短かったんだから、忘れるのも早いだろう。相方の親友なのがタチが悪いけど、このコンサートが終われば、しばらく見ずにすむ。
ベッドに寝転がる前に、窓の外のネオンが目に入った。新鮮な夜景が拡がっている。
本当に、新鮮と言うか、斬新だったな。久しぶりにした失恋は、怪奇過ぎて、むしろ、あんなことなかったんじゃないかと思える。でもあいつの部屋まで追いかけて、やっぱりもう少し待ってくれって言いそうな自分もいて。そんなことしないけど。まあそれくらい、俺はあの短期で嵌ったと言うわけだ。大体同じホテルなのも珍しかったんだよ。
しかし、俺が好きになったのはキュヒョンだったのか、それとも鶯だったのか。
そりゃ、キュヒョンか。
鶯には悪いけど、鳥が出て来ても、俺は好きになれないよ。じゃあ、俺はあいつの外見を好きになったのかと考えると、なんせ男だしな。今はすごくあれが欲しいとは思うけど。俺が心を奪われた瞬間はきっと、あの時。
「夢がありますよね」
時々、大事な場所にある感覚を共有する人間がいるけど、そういうとこで気が合う人間とキスとかしたらダメだな。俺は、これからは気を付けないと。
まあ、こんな珍事、もう起こることないか。
シャンプーと甘い香水の香りが残ったベッドに横になって目を閉じる。
ああ、結構きついかもな。あの口ともうキスできないのか。俺もしかして、男もいけたのかな。
「ユノさん、ユノさん」
呼ばれて目を開けた。
声の方に寝返りを打つと、隣に、自分と同じくらいの大きさの、鶯がいた。
「うおっ」
飛び起きた。
「え、ウグ、ウグイス?」
こんな巨大な鳥を見ることがなくて、緑色の羽の細かさとかくちばしの感じとか見入ってしまう。
「はい、その節は」
硬そうな細い足が、布団に穴を開けそうなほど、めり込んでいる。
「あ、えっ……えっ?」
「やっぱりこういうのはきちんとしておかないとと思って」
「きちんと?」
「はい、こちらでもと」
そう言って、長いくちばしが、俺の唇をそっとつついた。
「では」
俺から離れて、すうっと緑の体が消えて行く。
あ……土下座……した……
窓の方を見ると、もう外は明るかった。
半信半疑のまま、何となく、さっきの鶯を考えたのか、カーテンと窓を少し開けた。新鮮な夜景は、どこにでもある風景に変わって、外の喧騒が入って来る。太陽が顔を出している、爽やかな夏の朝だった。
すごかったな。
まだ少し早いけれど、鶯の姿を思い出しながらシャワーを浴び終えて、朝食でも取るかと、Tシャツとジーンズに着替えて、携帯電話を見直した。
『起きてますか?』
と入っていたメッセージに、どきりとしたのと同時にドアがノックされる。
訝しみながら扉を開くと、メッセージをくれた相手だった。
大きな瞳がちらりと俺を伺い見る。
「あ……さっき何か」
俺が言いかけたその時、
ホーホケキョ
と、窓の外から声がした。
ああ、やっぱり良い声だな、と思ったら、
「褒めちゃダメっ」
いきなり目の前の人間が口を開いて、俺は反対に口をつぐむ。それから、「……です」と、つけ加えられた。
洗い立ての栗色の髪からシャンプーの匂いがする。
「あれは、少し前俺から出て行ったウグイスなんで問題はないんですけど」
白い顔を赤くしたキュヒョンが、続けた。
「褒めるのは、今日から俺の声だけにして下さい」
その手を引っぱって、ドアのこちら側に閉じ込めて、抱き締める。
「さっきウグイスにキスされたよ」
栗色の髪の毛がかかる耳元に、そう囁いた俺の口を、
嫉妬したように、啄まれた。
『鶯』完