「Happy Yellow Birthday!~エピローグ2」D.O レイ ユノ ウニョク スホ チャンミン ソンミン
「その檸檬がこれなんです」
楽屋で後輩に見せられたユノは、ソファーに腰かけたまま瞳の大きな目を瞬かせた。
「え、イーシン?なに?」
イーシンが本名であるレイは、今朝シウミンに「なんかギョンスが怒るからこれ誰かにあげて」と言ってそれを持たされた。彼はまたドラマの撮影に行ってしまい、シウミン抜きの音楽番組の収録になってしまった。
同じくドラマの出演をしているギョンスだが、今日は一緒に現場にいる。今朝の一件は、しまいには言い争いにまで発展し、彼の顰め面には磨きがかかっていた。
自由に行き来出来るドアのない楽屋たちが並んだ廊下に立って、こちらを、ちらちらと伺っている。
「これが、いじるとギョンスが怒る檸檬です」
レイが申し訳なそうに眉を下げて言った。
「いや、何で捨てないのか俺には全然分からないんだけど」
ウニョクがユノの後ろから顔を出した。彼ら二人は違うアイドルグループだけれど、ウニョク所属のグループは数人がこの楽屋に遊びに来ていた。
この楽屋の主であるユノとパートナーのチャンミンはソファーに腰かけたままそれを見つめた。
「ふーん」
ユノは目の前のテーブルに置かれた紙袋から長い指でそれを一つ摘まみあげ、良く人から小さいと言われる顔をギョンスに向けながら、自分の頬に近づけた。
ギョンスの目が見開いたのを見て、噴き出したように笑う。
「本当だ」
「どれどれ」
ユノより少し背の高いチャンミンも横から一つ手に取り、それをつるつるとしている自分の頬にあてた。ギョンスが飛び込んできた。
「やめて下さい!」
血相を変えて来た姿に、口を開けてチャンミンは見上げた。
しかし、もう一度チャンミンは同じことをした。ギョンスは奪い取ろうと手を伸ばす。
「ギョンス、ギョンス」
ギョンスは呼ばれてユノに振り向く。
彼等のかなり先輩でもあるユノが、自分の手に持っていたものを、目を輝かせながら頬につけた。
ギョンスは口をつぐんでそれを見守った。が、「やっぱりだめだと思います」と手を伸ばした。
「だから何でなんだよ!」
スホが楽屋に飛び込んできた。
「何で対応が違うんだよ!」
全員既にきらびやかな衣装に着替えている。
笑って、自分の手に持っていた檸檬をギョンスに渡そうとしたユノから、後ろのウニョクが奪った。
薄ピンクの唇でそれにキスしようとしながらギョンスの方を見る。ウニョクの白に近い、色の抜けた金髪がさらさらとなびいた。
ギョンスは「うう」と歯を食いしばって耐えている。
「おい!」
スホがギョンスに声をかけた。
「ギョンス面白いね」
ウニョクの隣から手が伸びて彼と同じグループのメンバー、ソンミンがそれを取った。小作りな唇にそれを近づける。
「うう」とギョンスは歯を食いしばっている。
「とめろよ!」
スホはギョンスの肩を掴んで揺らしたあと、自分も紙袋から一つ取り出して、その檸檬にキスしようとした。
「ふざけないで下さい!」
ギョンスが怒鳴ってそれを取り返した。
「なんなんだよっ!!」
スホの叫び声がこだました後、スタッフが呼びに来て、全員がステージへと向かった。
彼等の背中を見送るように、
檸檬は今日もぴかぴかとその姿を黄色く光らせている……
『Happy Yellow Birthday!エピローグ2』おしまい