「夢の続き36」ユノ×チャンミン
「え、一緒に……?」
三分経ったカップ麺の蓋をぺりぺりと剥がしていた手を止めて、こっちを見た。
俺に目を向けたまま、「ふーん」と止めていた手を再開させる。
全部蓋を剥がし終えて、下を向くと、紙の蓋を二つに折りたたんで言う。
「なんか、もう何言われても驚かないと思ってたけど……」
とセリフに反して全くの無表情のまま、
「まあまあ驚くもんだね、あは」
とまたこちらに向いて、キュヒョンは白々しい棒読みの笑い声をあげてみせた。
俺は構わずに、学食の焼きそばを口に入れる。食堂を囲うように植えられた大きなイチョウの木が黄色の葉を窓からのぞかせている。
「でもその条件だけで大丈夫なの?お前だって苦学生だろ」
いきなり声を低くして、キュヒョンが通常モードに切り替えて言う。
「向こうも条件を出してきた」
焼きそばを食いながら今度は答えた俺に、声を上げる。
「ほお」
「全部の光熱費と、一緒に食べる時は食費を出すって」
「光熱費なんて知ってたのか」
頷きながら言って、キュヒョンが箸で掴んだ麺を口に運んだ。
「それから、」
「うん」
俺は、思い出してもちょっと奇妙で、躊躇いながらも口にした。
「家にいる時……ご飯全部作るって」
残りの焼きそばを箸で寄せる俺を、キュヒョンが顔を上げてみる。
「……それはあれ?記憶をなくした料理人だったってオチなの?」
「でも料理作ったことないって」
「お前んとこ大丈夫かよっ!」
本当は、家賃もあるだけ出したいと言われたけど、そうするとユノは一人暮らしの為の貯金が全くできなくなるから断った。俺の名義で働いているから、金額的に週3~4日しか働けないし。
そして、キュヒョンが言うように、俺もユノがそういう感覚があるのが意外だった。
知らないうちに、ユノは日払いにしてもらっていた。
「まあ、風邪が治って良かったよ」
と、キュヒョンは言った。
俺の話に驚いていたようだったけど、多分俺がユノを見捨てたら、仕方なくユノと同居したのはあいつだろう。ああ見えて、結構優しいから。
そう思うと、俺はユノを……
思わず苦笑する。
俺はユノを……
……キュヒョンに預ければ良かった、って家路につきながら思った。
自転車をこいだまま、目を細める。
でももう決めたことだ。男は引き際が肝心。
それよりも帰って家がなくなってたらどうしよう。
あ、なんかすごい不安になってきたな。
大丈夫なのか?大丈夫なのか?俺の部屋と俺の未来!
って思ってるうちにアパートに着いた。
……良かった、家はある。
でもドアの前に来ても食べ物の匂いがしない。
スーパーの場所は教えたけど。
これはどういうことだ。
匂いのしない料理なの?
そんな料理はあるの?
……いや、得体の知れない匂いがするより全然いい。
むしろご飯なんかなくていい!!
と、鍵を差し込んだと同時にドアが開いた。
「いったっ!!」
ドアが直撃した顔を押さえる。
「あ、やっぱりチャンミンっ!お帰りっ!!」
黒目をいっぱいにしたユノが俺の指の間から見えた。
只今17時45分(ユノの退役まで485日)