夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「Xゲーム」レイ×ウニョク(クリスマス企画短編)


「ほんと、がっかりだよ」



さっきからこの人そればっかりだ。



「イーシン」



「はい」



「何で俺達こんなとこで練習してんだ」



「はあ。でも他に練習するところないから」



「そんなこと言ってんじゃねーよ!今日はクリスマスなんだよ!」



クリスマスイブのレッスンルームで、先輩アイドルのウニョクさんが振り返った。



「今の冗談だから。怒ったふりしただけだよ?」



「大丈夫です。わざわざ言わなくても」



「……韓国語上手いね」



何でこの人、こんなに話しながら踊れるんだろうと思った。
俺は上半身の動きだけで、完全に脚は止まった。
だけど音楽も止んだから、ウニョクさんも止まる。


俺はこの人を韓国語で「ヒョン」と呼んでいる。


――兄さん。


ここには沢山の「ヒョン」がいるから彼はウニョギヒョン。
韓国の方式にも大分慣れた。ヒョンは脱色してから青に染められた頭が、汗かくとかゆいと言って、今もちょっと掻いた。



「ヒョンも中国語上手いでしょう?」



俺は中国から来ていた。芸名はレイ、本名はイーシン。



「俺の中国語なめるなよ。%&#”$%&’」



「え、なんて言ったんですか?」



「だから、


外国為替って言うのは、景気が良い国ほど通貨の価格が上がるから、レートは上がるけど、そうなると輸出に不利になってくる。だけど仕入れは楽になるから物価は下がる。そうすると国内はデフレ傾向になるから、景気と為替は天秤のように変動するんだよ。


と、言ったんだ」



「……すごい。全然聞き取れなかった。っていうか、今言われてる韓国語も俺には難しかったです」



俺はすっかり動きのなくなった練習に汗をひかせてそう言うと、ウニョギヒョンはにやりと笑った。



「そう言いたかったけど、言えなかったんだ」



その表情のままの彼と、見つめ合った。



「……ヒョン。練習再開しないと」



「もう疲れた!ちょっと休憩!」



ヒョンは投げやりに言うと、彼だけが今回のダンスで使うステッキを床に転がして、座った。
この真冬にTシャツで踊っていた俺は、動かなくなると少し寒くなる。



「寒いな」



呟いたヒョンもTシャツだ。
あと数日で自分達の出演する音楽番組がある。
四つのアイドルグループから、ダンスに秀でたメンバーでダンスチームを作った。そのお披露目だった。


ちなみに、俺のグループからあと一人選ばれていて、二人で踊る場面もあって大変だ。
彼より得意なところはあると思っているけれど、才能は抜かれていると言っていい。それに足並み揃えないといけないからこうして練習してるんだけど。



「……シャイニーいいよなあ」



四グループのうちの一組だ。仕事組は今はここにいない。



「でも、仕事ですよ?」



「俺も結構忙しいのに。なんでこの時間は空いちゃったんだろうな」



「仕事の方が良いんですか?」



「んー……っていうか、仕事でも大体俺、踊ってるよね。そして、これも仕事だよね」



少し首を傾げて俯いている。目元が見えない。いじけている。



「じゃあ、良いんじゃないですか?」



「良くはないよね。この日くらいは仕事やめて、ぱあっと、デートとかしたいじゃん」



俺は黙って、自分達を囲んでいる鏡をちらっと見た。片目が前髪で少し隠れた、ウェーブのかかった自分の茶髪と顏を見る。デビュー前に矯正もしたし、男では綺麗な感じの顏な気がするけど女っぽくはないもんな。



「……彼女いるんですか?」



「いや、別れた」



「じゃあ全然ダメじゃないですか」



「流暢だな!」



ヒョンが顔を上げた。みんなといると穏やかなのに、俺には心なしか酔っ払いみたいになる気がする。後輩で、国も違うから独りでいる時とあんまり変わらない感じになるのかもしれない。



「お前だって彼女の一人や二人いるだろ?」



この人、本当に面白いな。



「……お前の笑顔は可愛いな」



「格好いい方が良いです。ヒョンと同じく彼女はいません。作る時間ないです」



「じゃあ何?俺たちアイドルなのに二人共彼女いないの?」



「……そうですね」



「ユノヒョンいるかな?」



「さあ……」



「ドンへは最近怪しい」



「はあ……」



「テミンはいるよな?」



「さあ……」



「ってか、あいつらどこ行ったんだよ!」



ヒョンが壁にかけられた丸い時計を見た。
休憩時間が終わっても戻ってこない。



「ユノ兄さんは多分まだ喫煙所ですけど、ドンへ兄さんは切れた縄の代わりがまだ見つからないんじゃないですかね」



「お前の相方はどうしたんだよ!」



ヒョンがこちらに向いた。



「……まだトイレだと思います」



俺と同じグループのもう一人は腹の調子が悪いらしくて、トイレにこもっていた。



「地獄だな」



ヒョンがまた冗談ぽく、うな垂れて呟いた。



「そうですか?」



「そうだよ!」



大袈裟に顔を上げた、少し目蓋の厚い目を見ながら俺は言う。



「俺には天国ですけど」



その目が瞬く。



「……お前の天国はどうなってるんだ」



ヒョンの言葉に噴出して笑ってしまう。



「……お前の笑顔は可愛いな」



じゃあ、俺と付き合えばいいのに。


とは言えなくて、鼻白んだ気持ちになりながらも「どうも、ありがとうございます」と返した。


このところ、この新しいチームの練習で自分達はずっと一緒だったからなのかどうかは分からなかった。
今まで彼女もいたし、目の大きな女っぽい子がタイプなはずが、この……俺と一緒だと公式ではしてるけど、何となく若干低く見えるくらいの身長の、つぶらだけど奥二重などっからどう見ても男の先輩に、時々自分の男の本能がくすぐられる気がしてる。
他の先輩と違ってあんま後輩に奢らないし(俺はそう言うのどうでも良いけど)。こんな酔っぱらいみたいなのに……
俺達のグループが、今重要な時期でこの事務所には珍しいそうだけど、恋愛禁止令が出て女の子と遊ぶ機会なんてないからか。まあ、時間なくてそんなこと無理だけど。俺には言葉のハンデがあって、そう簡単にはいかないし。だからか?


色が白いからか。
細いから?
同じ白でも自分とはちょっと違う。透き通るようなきめの細かい。唇も艶々してる。


本当は俺に気遣って、休憩させようとしてるのも知ってる。俺がいなければ今も黙々と練習してるだろうことも。
彼等のグループの中国遠征組に入ってるけど、あまり中国語が得意じゃないのに、俺に頑張って話しかけて来ることも。中国語じゃないけど。
クリスマスの練習は、本当に嫌そうだけど。


本心は今、ここで襲ってやりたい。


言えないけど。年上だし。男だし。



「お前のダンスは腰使いがいやらしいな」



また床を見ながらぶつぶつ言ってる。



「はあ」



「ユノヒョンの次にいやらしい」



「はあ」



「えっちだ」



本当に、襲ってやろうかな。



「よし、イーシン。クリスマスっぽいことしようぜ」



「どっからそうなったんですか」



「でも、クリスマスっぽいことってなんだ?」



話聞いてくれてない。



「よし、ゲームしよう。ゲーム」



「はあ」



でも、二人しかいないし、ゲームになるようなものも、このレッスンルームには何もなかった。



「じゃあ、イーシン、俺達にあるのはこのガムと水だけってことか?」



「あと財布とボールペンと勉強ノート、iPodがあります。携帯のゲームは一人用です」



「俺なんかiPadと漫画もあるぞ」



「……で、何するんですか?」



俺達は鞄からぶちまけた中身を見つめた。本当にユノ先輩たちは何をしてるんだろう。ウニョギヒョンは、青色の髪を揺らしてじっとそれらを眺めたあと、「よし」と言った。


俺は期待せずに見ている。



「じゃあ、どっちがこのガム大きく膨らませるかしよう」



「このガム膨らまないやつですよ」



ミントの。



「そこをやるのがクリスマスだろうが、イーシン!」



「……」



俺、この人好きなのか嫌なのか分かんないな。



「じゃ、噛もう。貰っていい?」



「どうぞ」



二人で口に入れた。まだ練習の方がクリスマスっぽい気がした。



「あ、そうだ。罰ゲーム決めないとな」



「負けた方が勝った方の言う事を聞くでいいんじゃないですか?」



「……よし。お前なかなかやるな」



くちゃくちゃとガムを噛んで、ヒョンが「もういいだろう」と言った。



「じゃ、俺からな」



ヒョンが赤い舌でガムの形を整えているのが分かった。
俺はそれを目にして、この人に優しい罰ゲームを単純に考えていたのに、一瞬で消えた。欲望が刺激された。



「行くぞ」



ぷっと膨らまそうとして、緑色のガムがその口からこぼれた。



「じゃ、俺の勝ちですね」



「待ってよ待って!」



「勝負で待ったなしです」



「流暢だな!」



でも、「一応聞いてやる、とりあえず言ってみろ」と顰め面で言われた。それも演技でしているのが分かる。どうせこの人は俺が自分と同じく相手が困ることは言わないと思っている。


だから俺は思いっきり近づいた。


びっくりして後ろに背中をそらした体を捕まえて、腰を抱いて寄せる。止められない気がした。



「え?」



奥二重の目がぱちぱちしている。その顔の前で形を整えたガムに息を吹き込んだ。


二人の顔の間で、綺麗に丸く膨らんで小さな音を出してはじけた。



「じゃあ、俺の望み言います」



「お、おう。でもちょっと近すぎない」



「キスします」



「お……おおっ!?」



目を見開きながら、俺から離れようとする体を腕で固定する。



「お前それ!どっちも罰ゲームになってるから!」



俺は笑った。



「笑顔は可愛いのに可愛くないっ!」



「ウニョギヒョン。ちょっと黙って」



「どういうこと、どういうこと?これが国の違いか!」



「黙って下さい」



冗談で必死に切り抜けようとしてるな。
俺は口の中のガムをどうするか迷って、仕方なくそのままにした。眉根を寄せているのも前髪が長くて見えない。困った顔が分からなくて良かった。
ヒョンが観念したように、呟いた。



「……お前、そっち?」



ヒョンが意を決した風だったから、俺も応えた。



「そっちって意味が分かりません」



「お前!分かってんのに!」



顔を寄せる。ウニョギヒョンは騒ぎまくるだろうと思っていたけど、黙っていた。
あー、優しさ出してきたな。
し辛くなるんだよ。
本当は、ヒョンが言うほど俺は、この国の言葉は上手くなかった。それをいつもからかうふりで、優しくフォローしてくれてる。
やっぱり俺は惹かれてる。
悪いけど、この機会を失えばこんなチャンスないと思った。



「すいません。します」



これで色んなものが終わっても良い。ガムみたいに、自覚が膨らんでしまった。


ちょっと怯えたつぶらな目と見つめ合いながら、近づける。


唇の先が、触れた。


それからもう少し。艶々した唇を食んだ。でも同じミントの味しかしないし、もっとと、開いた穴に舌をいれてみた。でも絡ませるほどはせずに、舐めた。その体が気持ち悪さを覚えたのか、ぴくっと動いた。
自分の下半身に熱がたまっていくのを自覚する。
ヒョンがぴくぴくしているのを腕で感じながら、長くはだめだと理性が働いて、舐めていたのを口から抜いた。


未練垂らしく、また一度軽く口づけてから抱き締める。溜息を吐いた。



「俺のこと嫌いになっても良いんで、しました。せっかく優しくしてくれたのに、ごめんなさい」



腕を解いて、後ろに下がる。距離を開けた。


ヒョンは呆然としていた。


あー……


やってしまった。でも抑えられなくなる気がしていたし、仕方がない。
久しぶりのキスは気持ちが良かった。



「おーい。飯だぞー」



ユノ先輩とドンへ先輩が大量のご飯を持って帰って来た。買いに行ってくれていたらしい。



「ヒョン。もう元気出して」



その肩に手を置いた。するとウニョギヒョンは呆然とした表情のまま、



「お前が言うな」



と呟いたから思わず笑った。俺の顔を見てヒョンはそれ以上言わなかった。



飯も食って、長い練習を終え、帰り支度をする。トイレにこもっていた俺の相棒もちゃんと途中から参加して、一緒に帰ろうとしていた。


先輩たちが先に帰って行く中、俺は何となくさっぱりした気持ちでその姿を見送った。レッスンルームの扉の向こうにダウンジャケットを羽織ったウニョギヒョンが消えた。



「ヒョン。腹壊してすいません」



隣から声がして、俺は笑った。すると、その途端、さっき閉じた扉が開く。


駆け足のウニョギヒョンが正座してスライディングした。


俺の前で止まる。あっけに取られている俺の相棒と、固まった俺の前で艶々した唇を開いた。



「明日の練習も来るよな?」



俺は少し考えたのち、



「はい……」



と答えた。すると、またその口が動いた。



「あと、俺以外の奴の前で笑うのちょっとナシ」



そう言われて、少し驚いたのち、



「それは難しいと思いますけど」



と、答える。俺の隣で訳分からずに俺とヒョンを交互に見ている相棒を他所に、ヒョンは顔を真っ赤にしながら、



「ちょっとそう思っただけだよ!じゃあな!」



と、勢いよく出て行った。日付が変わるクリスマス前夜のレッスンルームは、もう寒さは感じなくて、炎が灯ったような温かさに変わった気がした。



「……笑ってるし」



隣の相棒にぼそっと言われて、俺は明日も罰ゲームをさせてくれるなら、その命令も聞いてもいいかもしれないと、そんなことが出来るのか分からないプレゼントを、サンタクロースに祈った。







『Xゲーム』おしまい

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