夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「人魚の声を聞かせて1」ユノ×チャンミン ユノ×キュヒョン チャンミン×イトゥク


もしも願いが叶うなら
吐息を白いバラに変えて
逢えない日には 部屋じゅうに
飾りましょう 貴方を想いながら
Daring, I want you 逢いたくて
ときめく恋に 駆け出しそうなの
迷子のように 立ちすくむ
わたしをすぐに 届けたくて
ダイヤル回して 手を止めた
I'm just a woman
Fall in love……




小林明子「恋におちて」引用








一生に一度しか起きないような幸運があったとすれば、それは間違いなく、今自分がこの人間と想いを通わせていることだ。


出会っただけでもそうかもしれないのに。



「早く来て下さいよ」



うん、待って、と返事をしながら、リビングを出た。明かりのついている廊下から急ぎ足で部屋に入る。
今日、購入しておいたものが、作曲用のパソコンの上に置いてある。
家政婦は来てくれているけれど、寝室の掃除は軽くにしてほしいと言っているせいか散らかるのが早い床の上に置いてあったバッグを、廊下から入る明かりだけを頼りにしていたのもあって、踏んづけながら、それに手を伸ばした。
小さな紙袋をひっつかんで中を覗いてみる。
初めての誕生日だった、こうなってから。
俺の誕生日までは、出会って、沢山の苦難の日々を過ごして、アイドルの自分達は、二人だけのグループになって、そこまでの奇跡だった。
だけど一週間前に、そこから更に、もっと信じられないような、男同士の自分達がお互いしかいないと気づいた気持ちが、加速して、更に不思議な、恋人関係になった。
神様を信じているから、これがだめだとは思わなかった。
同性同士の恋愛に罪悪感を感じるよりもこの相手しかいないと思った気持ちを自分にくれたことが、全てだと思った。
巡り会って、恋におちた。
自分の誕生日と二週間ほどしか変わらないけれど、今までの二人とは違う、恋人の誕生日。だから用意してみた。
前からこのデザインいいなと言っていたから大丈夫だと思うんだけど。
ブレスレット。
喜んでくれるだろうか。


「何してるんですか?もう一缶開けちゃった」


「ごめん」と言って後ろに隠しながら、ソファーに座って自分に振り返る相手に近づく。俺の部屋にも大分慣れたみたいだ。こんなことになるなら、あのまま二人で住んでも良かったかもしれない。ご飯もケーキも仕事で食べてしまって、あとは飲むだけだった。


「ヒョン。これ原曲日本のって知ってました?」


「そうなんだ。知らなかった」


缶ビール片手に指差されたテレビではバラエティ番組がやっている。流行りの音楽が流れていた。
ビールを飲んだら次に開けるつもりらしく、テレビの前のローテーブルには赤ワインのボトルが置かれていた。俺の分もグラスが出されている。


「あのさ、チャンミン」


立ち尽くしていた自分の方を恋人が見上げた。前髪ごと最近伸ばしているボリュームのある黒髪が、シャワーを浴びたばかりでまだ湿っている。着ているのは、きっちり自分で用意してきたTシャツとスウェットパンツだ。


「これ」


持っている紙袋を見せた。
くりっとした大きな目が自分を眺めている。二歳年下だから、年上の自分のことを兄さんと言う意味で「ヒョン」と呼んでいるけれど、184㎝の自分より身長も大きければ、顔の大きさもそれに見合っていて、格好良すぎるほどの顏の中身なのも、こうなってからは、年下なのに圧倒されることが良くある。その横に広い唇がゆるんだ。
僕に?と言って、手を伸ばして取って行く。自分の手は空になった。
二人になってからまともにプレゼントをあげたことはなくて恥ずかしいし、反応を見るのが怖い。
でも気になって見ないわけには行かない。
チャンミンが紙袋の中でリボンで巻かれた明るい色の小箱を取り出した。
開いた口元に笑みを浮かべて俺の方を見る。


「開けて」


俺が言うと、チャンミンはリボンを解いた。
小箱を開く。
大袈裟に「わあ」と大きな口を開けて目を輝かせた。
こちらの顔もゆるむ。


「これ、欲しいって言ってたやつですね」


「うん」


「すっげー!嬉しい!」


うん、と微笑む。チャンミンが俺に向いた。


「じゃあ、つけて下さい」


そう言って拳を作った腕を手の甲を見せる様に差し出した。
テレビは同じバラエティ番組が何年か前のヒットチャートを放映している。
腰を屈めながら俺は箱から銀のブレスレットを手に取って、不器用な手つきでチャンミンの手首にあててみる。


「これも原曲日本のですね」


チャンミンは俺がなかなか上手く出来ないのを大人しく眺めて言う。


「どれ?」


「さっき流れてたの。すごい昔のですよ」


俺は自分が上手くつけられないことに笑いながら、


「聞いてなかった。歌ってみてよ」


と横目でテレビを見た。目に入ったのは、その歌の情報ではなくて23時59分と言う時刻だった。


「サビだけですけど」


言ってチャンミンが息を吸い込んだのが分かった。


けれど、その声は出されなかった。


俺がその口を唇で塞いでいた。


そして、ゆっくり離す。


「ごめん。チャンミン、誕生日おめでと。間に合ったかな」


俺はぱちぱちと瞬きしている大きな目から、またテレビに目を向けた。0時ちょうどだった。


「日付変わる前に言いたかった」


照れながら、チャンミンを見た。
呆然としていた。
俺は笑って、「ごめん、歌ってよ」と言いつつ、自分の手元に違和感を覚えた。さっきまで恋人に俺がつけようとしていたアクセサリーが消えている。
思わず床を見る。
けれどない。
俺が首を傾げながらチャンミンを見ると、まだ大きな目を丸くしている。


「チャンミン。ブレスレットさ」


横に広い唇が開いて、まるで酸素を求める魚のように動いた。


「どした?喋れよ」


小さく噴き出して笑いながら、その様子を見る。
でも、チャンミンはさっきまで俺のプレゼントをつけようとしていた手で、喉を抑えた。
顏は真顔だ。自分もそうなった。
チャンミンは抑えながら大きな口で何度も「あ」と言う風に開く。
聞こえるのは、囁くような空気の漏れる音だけだ。
眉間を寄せる俺に、チャンミンは繰り返す。


「声……出ない?」


恋人は頷いてそれから、周りを見廻した。


「待て。マネージャー呼ぶから。大丈夫だ」


高鳴る鼓動を抑えながら、後ろの食卓の上に置いてあった携帯電話を取りに行くと、その携帯電話を見て、チャンミンもついて来た。
俺がマネージャーに電話しようと画面のロックを解除するのを見た後、チャンミンが手を伸ばした。
何か言いたいに違いないと、そのままそれを手渡す。
チャンミンが俺をまじまじと見ながら、カレンダー機能を開いた。そのメモを利用して文字を打っていく。
俺も一緒に覗き込んでいた。
でも眉を潜める。理解が出来ずに自分まで言葉が出なくなった気がした。
隣に立つチャンミンの顔を見る。
 向こうも自分を見ている。
 心臓が音を立てて来る。


 画面には、


 「ここはどこですか?」


それから、


 「あなたは誰ですか?」


と、書かれていた。













リーダーが振り向いて、「今日、チャンミンの誕生日だろ?」と言った。
俺は口の端を上げて返事をする。


「そうですね」


金色に近いさらりとした直毛の茶髪が夜の車内で揺れている。個々に分かれた座席で、隣の位置に座っているメンバーは先ほどから夢の中だ。


「何かした?」


単体ではない久しぶりのグループ活動で、宿舎組の移動車の中は俺達以外みんな寝ている。夜遅くなっている上に疲れきっていた。
そんな中、前の座席の横から、顔だけつきだしてこっちを見ている。比較的元気そうで、休憩時間に上手く寝られのだろう。


「一昨日プレゼントあげましたよ」


「何あげたんだよ?」


いつもはそんなことないのに、時々まるで悪戯っ子のような、幼い表情をする。他のメンバーを起こさないような小声がそれに一役かっていた。


「内緒です」


化粧を落としても艶々とした唇の口角が上を向いて、口全体が三角になる。イトゥクの頬にえくぼができた。本名はジョンスだから、「兄」のヒョンをつけてジョンスヒョンと呼んだり、トゥギヒョンと呼んだり。


「あれ?この後飲まないの?明日から休みじゃん」


笑っていた口元が戻る。化粧を落としても綺麗に半円になる目蓋が更に上がって目が丸くなった。


「飲まないです」


俺の上げた口の端は、きっとこのマスクで分からないだろう。


「なんで?」


話題のチャンミンは、同じ事務所の、同じくアイドルをしている自分の親友だ。去年の彼の誕生日は他に仲の良い後輩も呼んで明け方まで酒盛りをしていた。


「そろそろ俺を卒業してもらわないと」


真顔で言った俺の冗談を聞いていない早さで、イトゥクが言う。


「あ。あいつ彼女出来たな」


またえくぼが出来る。悪戯っぽく笑っている顔を見て、何も言わず、俺はまた微笑んだ。返事のしない自分に確信したように、にやけたまま、イトゥクは前を向いた。俺も窓の外に微笑を浮かべたまま、目を向ける。
ここ数日襲って来ていた強い寒波が去って、その忘れ物のような残雪で、外灯の少ない中でも外は白けている。
車は宿舎に着いた。
全員厚手のコートや丈の長いダウンコートで姿で車を下りる。


「じゃあ、今日は良く寝ろよ」


内緒話を共有したような顔でイトゥクが俺に言って、仕方なく苦笑しながら「はい。ヒョンも」と返事をして、同じ部屋のメンバーとエレベーターをおりる。彼は他のメンバーと上がって行った。
手早くシャワーなど済ませて、メンバーに「おやすみ」と言い合って、自室に入ってテレビをつける。いつもは下着一枚で寝るけれど、何となく悪寒を覚えて、数日の気温の変化で風邪でも引いたかと、パジャマを着た。
さっきから聞いたことのある歌が流れている。歌うことを職業にしているからだけではなく、ありふれた曲ばかりだからどれも知っていた。
テレビと電気を消した。
静まり返った部屋の中で、ベッドに腰かけながら、携帯電話を見た。
思ったより遅い時間だった。
チャンミンにはもう「誕生日おめでとう」とメッセージを打ってあるから問題ない。
今頃は、……恋人といるだろう。
チャンミンから最初、その名前を聞いた時、冗談かと思った。
自分達と違って、二人組のアイドルグループをしている親友のパートナー、好きな人がいる、と言われたその相手は男だ。
言われてみれば思い当たる節はあったけれど、仲が良いで片付けられた。まさかそれが恋愛感情だなんて思いもしなかった。
でも見ていると、その相手も、親友と同じ気持ちなのは直ぐに分かった。初めてノーマルな嗜好の人間同士が同性で惹かれ合うのを見た。ほどなく付き合い始めたのが、ついこの間だった。相手の誕生日と三日しか違わない俺の誕生日には、まだ二人は仕事上だけのパートナーだったのに。
俺も背は高い方だけれど、あの二人は輪をかけて高いし、スタイルも顔も良いからか、見ていて嫌悪感はわかない。親友の恋路だし、相手も昔からずっと知っている彼のグループのリーダーで、中身の良さを知っているからなのもあるだろう。
まあ、実際目の前で男二人で絡み合われたら、確実に引いてしまうけれど、勿論そんな機会はない。
携帯電話を見たものの、ここ最近はそういう友人の恋愛事情で特に連絡をとるわけでもなく、自分も忙しく、たまたま間が空いているけれど、早く恋人を作らないと、と思いながら、そのままベッド下のコンセントに繋げた充電器に、それを差して床に置いた。
最後に見た時刻は、0時きっかりだった。
今日、染め直されたばかりの栗色の髪に、何気なく手を置いてから、横になろうとした。
けれど、瞬間、耳に聞こえて来た。
消したはずのテレビの音が。
懐かしのランキングをまだやっている。再び昔の歌が、鼓膜を揺らしている。
でもそれは、自分の国の言葉じゃなかった。
まるでさっきまでの番組が……訳されて流れているみたいだ。
可笑しいのはそれだけじゃなかった。
先ほどまで、後ろ髪に置いていた手が、下げようとして空中で止まっている。
どん、と心臓が大きな音を出す。
最初、拘束具かと思った。誘拐でもされたのかと。
自分の手首に、銀の輪が連なったシンプルなアクセサリーをつけている人間と、その背後の眺めに、訳が分からなくなった。
見たこともない、少し散らかった部屋で、足元のテーブルにキャンドルの火が揺れている。


「できた」


と言って、微笑みながら、曲げた腰を伸ばして、俺を見下ろしている。
俺の手首には銀のブレスレットがついた。


「遅くなってごめん、誕生日おめでとう」


と、言われた。
腰を掛けたまま唖然として見上げている俺に、ユノヒョンはふと笑った。緩くパーマのかかった色の抜けた短い髪まで同じだった。
親友と真逆な小作りな顔。細く高い鼻筋、小さいけれど切れ長の存在感のある目、高い身長。


「なんだよ、さっきの歌わないの?」


端正な顔が笑って、「じゃあ」とまた腰を屈める。懐かしい曲達が流れている。
その顔が近づいて、柔らかくて、温かい感触が、自分の唇にした。
それから、俺の唇から唇を離した。
目と鼻の先で言う。


「愛してるよ、キュヒョン」


ふわりと笑う顔に俺は、さっきの感触を残した口を開いて、言おうとして固まる。
見開いた目で、目の前の人間を見ながら、顎を動かす。
アクセサリーのつけられた手で喉元を抑えた。
相手が、眉を潜める。
まるで、呼吸が出来ないみたいに驚いた形相のまま、顎を何度も動かす。
だけど、自分の声帯から出るのは空気だけだ。
はっ、はっと息だけが出て行く。


言いたいのに。


ここはどこだと。


そして、


あなたは親友の恋人だろうと。


奇異な夢でも見ているみたいだ。



声が、出ない。











目の前の光景が信じられない俺よりも目を丸くしている相手を見る。
久しぶりにメイクをしていない顔を見たと思った。
でも、自分には、俺の手首についているそれを、恐る恐る触れる姿も含めた全てだった。
発狂しそうだった。
俺はソファーに腰かけていたけれど、同じなのはその体勢だけで、何もかも見たことのない部屋だった。
だけど、この目の前で膝立ちになって俺のアクセサリーを凝視している人間は、前から知っている。
練習生の頃から仲良くしているし、自分の親友の所属するアイドルグループのリーダーだ。
大分年上だけれど、自分より背が低いし、肌も気を使っていて、男なのにどことなく綺麗で可愛らしい。
彼が目を丸くしているのはきっと、その手に持っていて、俺の手首に今まさしく巻き付けているものが、同じ場所に、同じものが既につけられているからだ。
二つの銀のブレスレットが自分の手首に光っている。
俺は言った。


「トゥギヒョン。俺、ユノヒョンの部屋にいて……ここどこなんですか?これ、どういうことなんですか?」


ソファーに腰かけている俺を、床に膝立ちになって見上げている相手に言う。もう装着されたからか、俺の手首から手を離したイトゥクが、上目で不安そうにこちらを見るその顏を、片手で何度も撫でるようにした。


「トゥギヒョン、顔がどうしたんですか?」


イトゥクは何も言わずに繰り返す。


「何ですか?喋って下さい」


俺が言うと、艶めいた唇を開いて、音を出さず何か自分に言っている。


「トゥギヒョン?どうしたんですか?」


でも、俺は分かった。その口を良く見ると、言っていることが。


『トゥギって誰?』


眉間を寄せた俺は、少し考えて、そのまま、


「あの、言っていることは分かったんですけど、喋って貰えませんか?」


と言うと、後ろの硝子のローテーブルに、使い込まれた分厚いメモ帳とボールペンが目に入る。それを泣きそうな表情のイトゥクが、素早く振り返り、とった。
テーブルの向こうには、今まで見ていたものより、小さい型のテレビが置いてある。見たことのないそれもそうだけれど、その音が耳に入って、俺は再び目を見開いた。
良く自分達が活動する国だから。
何が話されているかまで分かる。
全部、日本語だ。
そして、そのバラエティ番組は、日本語の曲で、昔のヒットランキングをやっている。
呆然としながら、イトゥクを見た。
つぐんだ口を歪めて、恨めしそう目をして俺に手渡した、メモ帳には、


『俺の名前はジョンスだよ』


と、書かれている。


『俺話せないでしょう?』


チャンミン!と殴り書きの文字が、紙を破りそうなほど凹ませている。その後に、続いている。


『失声症なんだから』


浅い呼吸をしながら、俺は何度も瞬きをした。でも自分は寝ているわけではないみたいだ。
そのメモ帳を持ったまま、顔を上げた。部屋を見ながら立ち上がる。テレビの脇に、柔らかなダウンライトがついた部屋。
スウェット姿のイトゥクを残して、硝子テーブルの、多分俺に用意したこのアクセサリーの空き箱が開かれたまま、それも残して、目を走らせた。暖房器具の表示と置いてある小物を見る。
ここはきっと日本だ。


だけど……


きっと、二人暮らしをしている様々な家具や小物。壁に貼られている写真達。


壁際に近づいて目を凝らす。


どの写真も、楽しそうに、仲良く笑って、抱き合っているものもあった。


俺と、イトゥクが。


俺は自分の恰好を見た。全く同じ、俺が用意した、自分のTシャツとスウェットを着ている。


来るときと、全く同じだ、ここに。


動悸がする。倒れそうだ。



ここは。



この世界は。










つづく





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「いい加減遊んでないでミノ子を書いて下さい」と言う皆さまのお声、ちゃんと届いております。次は必ずや。

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