夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「世界最後の日」ユノ チャンミン 誕生日記念短編


「世界最後の日に誰に会いたい?」



見慣れた顔は、そう言った。
俺が少し考える間、ユノの黒っぽい目は、静かな水面のようだった。
夜の水面。
動きがなかった。
それから俺は、誰もが言うだろうと思った無難な答えを出した。


「お母さん」


俺の口がその言葉を紡ぎ終わる前に、ユノは消えた。
消え方は、不思議だった。
頭の斜め上から、黄緑色の光に変わっていった。
光の点に変わった側から背景に消えて行った。
何かを思い出させた。
蛍。
頭の半分が蛍の群れになって、その斜め上から光り終えると、次はまだ人間の部分との境界が蛍になる。
そうして、どんどん光り終えた部分が消えて行った。
あっという間だった。
俺はその間に、瞬きをした。
0.3秒の間に、ユノはいなくなって、それから、世界は動かなくなった。
俺はそこにいた。


外側に電気のスイッチがある地下のスタジオだったから、ユノに呼ばれた時、俺は重い防音扉を開けたあと、暗闇から声が聞こえて驚いた。
スイッチに手を伸ばそうとして、「つけないで」と言われたから、そのまま入った。
理由がきっとあるのだろうと。
「兄さん」
と、呼ぶと、「ここだよ」と言われた。
兄弟のようだけど、自分達は兄弟ではなかった。
長く一緒に仕事をしているパートナーだ。
自分達の仕事の待ち時間で、楽屋に一緒にいたのに、ふいと出て行かれた。
煙草を吸いに行ったのだろう。
いつものように、気に留めなかった。
そして、携帯電話にメッセージが入った。
スタジオ番号、一人で来てと言う言葉。
俺が告げるとマネージャーは、「何か、打ち合わせだろう」と呟いた。
スタッフと一緒かと思っていたら、ユノも一人だった。
廊下から漏れる光だけでは、広いスタジオの奥までは届かない。
珍しく、何のセットも置かれていなかった。
がらんどうに、影のようなユノがいた。
自分達の黒いビニール素材の衣装も、そう見せていた。
お互い似た長身だったから、同じ影が二つ並んだみたいになっていただろう。
目が慣れると、かすかにユノの表情も見えた。
小さな顔の中の、線に見えて高い鼻筋、小さくまとまった端正なつくり。
でも、モノクロだった。


「なあ、チャンミン」


ユノが言う。



世界最後の日に誰に会いたい?



いくら待っても、誰もネタ晴らしをしてくれずに、スタジオから出ると、何もかも動かなくなっていた。
廊下の電気は普通に通っている。けどスイッチを入れて消しても、明るいまま。
走っていたように脚を曲げて、動かないスタッフが廊下に立っている。
声かけても返事をしないマネージャー。
手元の珈琲の湯気が、立ったまま、消えない。
珈琲は温かった。
掛け時計の針が止まっている。
俺の腕時計も、秒数0コンマの後まで止まっていた。
ソファーに置いていたコートを着て、エレベーターのボタンがきかないから、階段で地上階に上がった。
蝋人形のように、何かをしたまま固定した人達を尻目に、外に出た。
光が遮断されたスタジオ内とは打って変わって、外はまだ明るい昼間だったけれど、瞬きしたまま動かない人、動かない車、空中で停止した鳥。
画面の切り替わらないテレビ。
繋がらない携帯電話。
音も聞こえない。
自分以外、何も動かない。
止まった世界に、一人きりだった。



向こうに見える漢江の水面はどうなっているのか。
交差点を渡る自転車のかごに乗せられた犬が、怯えて固まっている。
飼い主のコート姿の女性は気にせず晴れやかな表情でペダルを踏んだまま、止まっている。
ニュートンは木から落ちる林檎を見て、万有引力を発見したと言う。
俺は、焼き栗屋の空中に浮かんでいた焼き栗をかじってみた。
焼き栗は俺にかじられた。
そのまま手に取ることも出来た。
でも皮がついていたし、飲み込まなかった。
時の止まった焼き栗が、自分の胃の中でどんな効果をもたらすか想像ができなかったからだ。
俺は少しそこら辺を歩いて、それからすぐに戻った。
もしこれが再び動き始めた時に、俺だけ時間が流れていると言う可能性があるからだ。
自分だけ老いるのなんかご免だし、終わりになんかさせない。
久しぶりに、堂々と表に出て、こんなに人間はいるのかと改めて実感した。
何一つ動かないけれど。
何も動かない中で、一つだけここからいなくなったものがある。
この狂った世界は、その人間のせいだ。
まずスタジオに入って、呼んでみた。
だけど、あとかたもなくやはりそこには何もない。
じゃあ、と楽屋に戻った。
コートを着たまま、貼られてある鏡で、人より大きな背の全体的に作りの大きな自分の顔が、今のところ見た目には変わっていないのを確認してから、珈琲の紙コップ片手に動かないマネージャーの横で、ソファーに座って、リュックを取り出す。
そのリュックを開けて、パートナーの所持品をテーブルに出した。
消えたパートナーにしか手がかりはなかった。
そしてこれが現実なら、ユノは、本当に消えたんだ。
重力がないように、物は空中に留まるから、下に押し付けていく。
俺は眉を寄せた。
押し付けた手の下に、ユノらしくない厚い本があった。
その表紙に、小さい短冊のような付箋が貼ってある。



――チャンミンへ。



訝しみながら、それを剥ぐと、題名が現れた。




『時空の虫食いに入る方法』












つづく





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当ブログの萌えはどこにいってしまったのか。続きは12日か、チャンミン氏の誕生日に。

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