夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「高い牛乳」SHINeeの短編


シャワーを浴び終えて、バスローブのまま、ベッドに転がった。


丁寧に乾かした自分の髪からいい香りがして、束の間、安らかな気持ちになった。


めちゃくちゃ疲れてる。


でも、キーに比べてそこまで髪型が変わらない自分の毛髪は少し赤茶けているものの黒く、傷んでないなとか、考えてにやけたりした。


キーは、メンバーの一人の名前。


五人組のアイドルグループの自分たちは、ツアーの真っ最中だった。


疲れたけれど、今日も上手くいったと、うとうとと目を閉じかけたその時、ドアがノックされた。


ベッド脇の携帯電話には、メッセージも入っていない。


間違いかな、と、ドアの方を見ただけで動かずにいた。



「ヒョン」



ノックとともに聞こえた。


すぐにスリッパを履いて、ドアを開いた。


やっぱりテミンだった。


末っ子が、このツアーで丸く切った艶々の黒髪を光らせて立っていた。「兄さん」の意味のヒョンと言われる俺は年上で、本当に兄弟のように接している。
まだシャワーを浴びていないみたいで、Tシャツの上に紺色のパーカーを羽織って、ジーンズ姿。


白い肌は、化粧が取られてもゆで卵の白身のようで、均等な薄さの唇は桃色。


何か持っていた。



「カフェで、舞台装置の人がみんなにって」



ホテルに併設のカフェで、テミンはマネージャーと二人で、ソロ活動の方のスケジュールを聞いていた。



「今から誰かの部屋で、試してみませんか?」



自分たちのツアーに携わる日本人のスタッフは、良く差し入れをくれる。地方にまわると、そこの名菓だったり。
もうこっちの活動も始まって長いけれど、まだそれは続いていた。



「そう。みんなで好きにわけたら良いから、俺はいいよ」



リーダーの自分は、みんなと階も違っている。



「でなに?」



テミンの持っているビニール袋をのぞき込んだ。



「牛乳じゃねーか」



今日のコンサートで、神戸牛と牛乳の話が出たからだ。これは完全にスタッフのジョークだな。



「でも、高いって」



「いやいや」



微笑んでいるテミンに顔を上げる。



「こんな時間にみんな牛乳飲まないだろ」



日付を越えている。
夕食を終えてから時間はたってるし、寝ているメンバーがいてもおかしくない。
自分のと本当に違うんだよね。ころころとした目が、身長はそんなに変わらないのに、上目でじっと見つめてくる。
それを眺めた。



「……お前が……飲みたいんだろ」



テミンが口の端を上げて頷いた。俺はため息をつきかけて、やめる。



「テミンの好きに飲みな。残り朝にみんなで飲もう」



なんか結構量あるし。言い終えて、ドアを閉めようとした。



「ヒョンも今……せっかく高いやつだし」



テミンが伏目にしてつぶやく。



「でも、牛乳だからね」



と俺が言っても、まだ手に持ったものを眺めてるから、「じゃあ、飲もうか」とため息つくと、微笑んだテミンが部屋に入ってきた。



「ヒョンありがとうございます」



「仕方ないなあ」



壁際のテレビの置かれた横に、テミンがビニール袋をがしゃりとおろす。よく見ると袋は二枚重ねだ。



「あ、飲まないやつ冷蔵庫に入れた方がいいよ」



「あ、そうですね」



「どんなんあるの?」



そのまま取り出して、二人で確かめていく。



「こっちは瓶が多いのかな?」



日本で買わないから分からない。コンビニエンスストアのは紙パックに入っていた気がする。スーパーはどうだったかな。



「全部、瓶ですね」



「三人分くらいの量あるね」



「みんなで分けられそうですね」



「五本全部種類違うね」



印字を見下ろしてから、写真写真、と携帯電話を持ってきた。テミンも持っていて、二人で撮影する。



「じゃあ、テミン。どれがいいの?」



蓋の部分を摘まんで転がすように見ていた手を放す。まあ、みんなで小さなグラス一杯ずつ飲めそうだから、全部飲んでいいんだけど、さすがに一度にそんなにいらないだろう。



「俺も飲みたいの選ぼうか」



ローマ字のが美味しそうに見えるな。それを手に取った。



「それ美味しそうですね」



テミンが横から覗き込んだ。



「だよね?これ一緒に飲む?」



「はい」



二人用のソファーに場所を変えて、備え付けのグラスに注ぐ。



「あぁ。分かる!」



「濃いですね!」



テミンが嬉しそうに俺に言って飲み干した。俺は何回かに分けて口に入れる。



「なんかヨーロッパで飲んだやつに似てない?」



「イギリスですか?」



「フランス?ドイツ?どこか忘れた」



「もう一杯違うのも飲みたいです」



「うん。飲もう」



二人で考えて、また一緒の物にした。残り三本はみんなで開けよう。



「ちょっと違う!」



「違いますね!こっちの方がなんか甘い気がする!」



「俺、こっちの方が好きだな」



二杯飲んだら、テミンも気が済んだように、次も飲みたいとは言わなくなった。



「テミン」



俺は空のグラスを持ったまま、顔だけ隣に向けた。テミンは表情変えず、にこやかな顔でこちらを向く。



「あのさ。ちょっと、悪いこと考えたんだけど」



俺はにやりと片側だけ口角を上げた。俺だって、まじめなリーダーばっかりやってるわけじゃないし、こんなこともしてみたい。
なんとなく思いついた大したことのないドッキリを、この神戸と言う町で、テミンに持ちかけてみた。



「はちみつは?」



「温めたのに入れる時あるから多分ばれるよ」



俺たちは真剣な顔でソファーに座って腕を組んだり、手を組んで考えていた。



「じゃあ、なんか甘い匂いの。バニラ!」



「バニラエッセンスか!コンビニあるかな」



「あったら一つそれにしましょう!」



テミンがこっちを向いて笑った。



「これが日本の高い牛乳なんだよってさ。もちろんあとでちゃんと本物出して」



それで、コンビニの牛乳に俺達オリジナルの味を加えてメンバーに出すの。
俺の思いついたそんな悪戯に「酷いです」って、テミンが嫌がったら、「ごめん」と謝るつもりだった。
普段、俺はあんまりメンバーと一対一で過ごすのは得意じゃないし、最近彼女もいないし、人と話し込む感じなんて久しぶりだったから、ちょっと気分がハイになったと言うか。
まあ、全然話し込んでないけど。
そんな俺に、テミンはぱちくりと瞬きしたあと、



「やりましょう」



と言って、片手を差し出した。そうして、ソファーでかたい握手をした俺達は、この全然大したことない悪戯タグを結成した。


今はコンビニに行く前に、牛乳と一緒に買う「隠し味」を考えていた。



「自然なものがいいと思うんだ。ばれないけど、ちょっと変わってるみたいな」



テミンの出したバニラエッセンスは、出だしにするのには丁度良さそうだった。変わってないけど。
一人に一つ、三本の新しい牛乳に味をつけて出すことにしたから、三つの隠し味を考えていた。小さい瓶がコンビニにあればいいけど。



「……キムチ」



テミンが普段からは想像できない厳しい表情で呟いた。
時刻が一時を過ぎて、出されるアイデアもシビアなものになってくる。明日の練習開始時刻は遅いけど、買ったら早く寝なければいけない。



「そればれなかったら、俺メンバーの味覚疑うよ」



俺の出すアイデアも、



「バター」



「とけないです」



そして、俺達はツアー会議と同じくらい悩んだ。
それは言い過ぎだった。けど、すごく悩んだ。



「……納豆」



「高い牛乳が、腐ってると思われるよ」



趣旨が違うから、と俺が言うと、テミンがこちらに顔を向けたまま、また呟いた。



「……肉まん」



テミンはそろそろ限界かもしれない。と思った時、俺は思いついた。



「日本酒!」



「あぁっ」



二人して顔を輝かせる。


あと一つだ。


ソファーから立ったり、テレビをつけてみたりして30分すぎた。ちなみに高い牛乳は冷蔵庫できちんと冷やされている。



「……フライドポテト」



俯いて考えていたテミンが顔を上げた。


もう二種類で良いや、あとお前腹空いてるだろと言おうとしたとき、また俺はひらめいた。



「醤油だあ!」



「あぁっ」



俺達はホテル前のコンビニエンスストアに走った。
もちろん俺は着替えて走った。
コンビニには紙パックの丁度良さそうなサイズの牛乳が売っていて、メンバーがこの牛乳を知らないことを祈った。



「ありがとうございましたー」



俺たちは渡されたビニール袋を持って、キャップを深くかぶって、マスクをした状態で、こそこそと、自動ドアを出た。



「僕こういうことしてみたかったです!」



用心した格好とは真逆に声を弾ませて、テミンが体を寄せて言う。わが弟ながら少しハスキーな、不思議で可愛い声だった。低くて強い自分のと、かなり違う。



「うん!俺もー」



でも俺も可愛く言ってみた。



「テミン」



ホテルのエレベーターの中で、マスクを下げた。テミンもこちらを見ながら下げた。



「あのさ、朝、どうせ俺の部屋来るじゃん?今日隣のベッドで寝てもいいから」



テミンが目を真ん丸にする。
俺には珍しい提案だったからだ。
悪戯心で子供の頃に戻った気分と言うか。



「でも、人いたら疲れ取れないし、明日のために部屋帰った方がいっか」



あまりにも驚いた顔をしてるのを見て、何となく我に返って、言いながら前を向いた。だけど、ダウンジャケットを着た俺の腕がぐいと掴まれた。
振り向くと、ほぼ同じ背のテミンが目尻を下げて笑っている。



「なんか感動したんです!」



本当に昔みたいだと、腕を組んだままテミンが懐かしそうに呟いた。
まだ宿舎が一緒だった時、同室だった頃を思い出している感じだった。
俺も懐かしくなって何となくにやけた。



シャワーを浴びてもう一つのバスローブを着たテミンが「オニュヒョン」と向こうのベッドから呼んだ。



「なに?」



「せっかくだから一緒に寝ませんか?今すごく嬉しいんですよ」



明日は9時起きで、6時間は寝られる。
普段なら、人と一緒には恋人とも微妙なほどだったんだけど。
でも、ダウンライトに照らされたテミンの笑顔を見ていると、今日くらいと苦笑いした。



「いいよ。おいでよ」



テミンが更に笑顔になって、こっちに来た。掛け布団から出た乾かしきれていない黒髪がぱらぱらと動いた。



「ちゃんと乾かした方が痛まないよ」



彼と違う健康的な色の自分の手で、その髪をつまむと「今度から乾かしますよ」って、体を寄せてきた。



「なに?」



少し身構えると俺の頭が触られた。



「髪多くてもハゲる時はハゲるんですよ」



と、恐ろしい予言をして眠そうに目を閉じた。別に多くないし、普通なのに。



「おやすみ」



笑いながらテミンの後ろに手を伸ばして、ベッド横の電気を消した。





~~ジョンヒョンの場合~~




「なんか小さくない!」




黄色い稲妻模様の入った黒いトレーナー姿のジョンヒョンが、テミンの持ったパックの牛乳を見てから、顔を上げた。パーマでふわふわの色の薄い前髪がバウンドした。



「3パックあったんですよ」



みんなもう飲みました!と目を輝かせたテミンが、同じくトレーナーとジーンズ姿で、ジョンヒョンの部屋のグラスを彼に渡した。



「オニュも飲んだの?」



涙袋の膨れた切れ長の目が俺を見た。



「うん」



「高い味した?」



「結構ね」



俺は適当だった。



「でもこれ一人じゃ多いよね?」



ジョンヒョンが渡されたグラスをテミンに向ける。



「僕もこれなら飲みたいです!」



「え?」



「飲んで下さい!」



この部屋備え付けのグラスにもう一つ、テミンは注いだ。パックは空になった。



「朝食の時に持って来たらみんなで飲めるのに」と言いながら、ジョンヒョンが口をつけた。



「ん!」



濃い眉がぴくりと寄った。本当にちょっとしか入れてないからあまり違いはないかもしれないけど。



「あぁ!」



ジョンヒョンが、また一口飲んだ。



「なんか分かるーっ!」



彼には分かったようだった。
口をつける前にテミンが俺にグラスを差し出したから、一口飲んだ。



「あぁ!なんか分かる!」



俺にも分かった。
だけど、これは高い牛乳ではなかった。


テミンも飲んだ。



「僕にも分かりました!」



ほくほく顔でテミンとジョンヒョンが飲み干した。
安い牛乳も、高い牛乳の味がすることが分かったところで、



「あとで言うね」



と、ジョンヒョンに別れを告げた。



「え?何を?」



そんな彼を置いて、次の部屋へ行く。




~~ミノの場合~~



「これ、なんか見たことありますけど」



長袖のTシャツを着たミノが、牛乳パックから顔上げて、テミンに眉を寄せた。
これはさっさとすまさなければいけないと思った。



「そう?似たのが結構あるみたいだよ」



手足の長い、メンバー1高身長な男を、俺もテミンも見上げた。リハーサル用の普段着でもモデルみたいだった。いや、モデルの仕事してるし。
化粧無しでも、変化がない、大ざっぱな顔をしてるのに、なぜかイケメンな男を他所に、テミンに目で早く注ぐように指示をする。



「ヒョン達は飲んだんですか?」



「うん、テミンと飲んだよ」



ジョンヒョンの時と同じように、もう一つグラスにそそいだから、俺はテミンに「はあ?」と目で抗議した。


でも、楽しそうにそれを持ち上げて、「自分が飲むから」と言うふうにこちらを見たテミンに口をつぐんだ。
酒だから香りは悪くないかもしれないけど、どうだろう。俺は眉間を寄せる。


ミノが「ありがと」と彼に言った。



「じゃあ、乾杯」



さりげなく言ったテミンに「おい」と口にしそうになった俺に構わず二人は乾杯して、ミノが先に飲んだ。



「ん?」



ミノがグラスを見た。



「なんかこれ」



もう一口飲む。



「発酵してる味がする」



テミンも飲んだ。



「本当だ!!」



おい、とまた口にしそうになりながら、俺もテミンのグラスに手を伸ばして、ちょっと飲んだ。



「本当だあ!」



俺も声を上げたあとに、テミンにグラスを返した。



「日本人こういうの好きなのかな。マッコリみたいな味する」



ミノの的確な感想に、やはり二つの民族は似ているんだなと納得したところで、俺達は退散することにした。



「あとで全部言うから」



「何をですか?」



イケメンモデルを置いて、最後の部屋に移動した。




~~キーの場合~~



「これコンビニ売ってない?」



ミノよりも早くことを進める必要がある。テミンに頷くと、すぐさまグラスを二つ取ってきた。



「おい!」



二つのグラスを見て今度は声に出してしまったけれど、テミンはにこにこと牛乳を注いでいく。白いドットのついた黒シャツのキーが訝し気に牛乳パックを注視している。
ツアー中、何回色を変えるのか。金髪になった髪が痛み始めている。



「俺が見た時は売ってなかったよ。売ってたとしても値段が違うし」



「それ何かの呪文?」



小さな奥二重が俺に猜疑心を持って見たところで、牛乳はそそぎ終わった。



「なんか色ついてない?」



「色付きのやつらしいよ」



微笑んで答えた俺の前で、さっき醤油を入れ過ぎたテミンは、またグラスを持った。怪しみながらグラスを持って、飲もうとしているテミンをキーは見つめている。二人は同時にグラスを傾けた。



「かっらっ」



キーが飲んで言った。



「塩かれーよっ!!」



続けて叫んだキーに上手く遅らせてテミンが飲んだ。テミンの顔が歪む。
そして、グラスを俺に差し出した。



「飲まねーよ!」



でもテミンがころころの目を上目遣いにするから、仕方なく一気に飲んだ。



「しょっぱ!」



その後、珍しく朝食を一緒にとることにした俺達5人は、ホテル併設のレストランに集まった。



「で、これが高い牛乳です」



ぽかんと口を開けている三人にテミンが笑いながら、テーブルの上に瓶の牛乳を置いて行った。


イケメンモデルが、



「馬鹿じゃないっすか」



と、呟いたところで、このエピソードは終わるんだけど、俺はあれから一人行動が減った気がする。何となくメンバーと一緒にいたいと言うか、何となく、あんなに一緒にいても楽しかった誰かを、今日も部屋で待ってしまうと言うか。
ちょっとこれ危なくない?
と思うんだけど、「やっぱり高いの美味しかったね」って、今朝も一緒にご飯を食べて、お互い牛乳片手に言った相手が、「今日も行っていいですか?」って言ってくれたのが満更でもなかった……



と言うか。














『高い牛乳』おわり

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