夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「Magic 1」キュヒョン×イトゥク

*この短編は『ちょこっと 』と言う話のスピンオフでございます。


◇                           ◇                         ◇                          ◇                            ◇





運命の相手に出会う確率を計算した数学者がいる。




その方程式は、宇宙の星の数から出発するのだから、俺達の住むここに来るまでに、かなりの可能性がそぎ落とされるのは容易に想像つくだろう。


0.01%どころじゃない。そんなのもすぐに分かる。


じゃあ、女だと思って声をかけた子が、女装した男だった可能性は、何パーセントだ?


俺は、頭の中でそれを解いている真っ最中だった。



「キュヒョン先輩」



「なに?」



でもそれは、中断させられた。



「冷めますよ、それ」



食堂で後輩と飯を食っていた。



「あ、本当だ」



俺は手元のスープを啜った。


少しぬるくなっていた。



「じゃあ、俺行くんで」



「え、もう行くの?」



昼休みはまだあるけど。俺は腕時計を見た。



「電話したいんです」



「何で、こんな時間に電話を?」



俺は立ちあがった後輩を見上げながら言う。自分も背はある方だけど、こいつはもっと高いから俺は口が少し開いた。



「やっぱり我慢が出来ないところあって。男だから」



「……そう」



何言ってるか、俺には全然分からなかったけど、何となく苛々しているようだったし、深くは聞かなかった。
この後輩も色々あるのかもしれない。


男には色々ある。


俺の場合は、男だから色々ある。


相手が。



「あれ?ミノいったの?」



焼肉ビビンバを持った親友に、隣に座られた。



「行った。なんか良く分からないところに行った」



スープは完全に冷めていた。けど美味かった。



「そうか。で。お前は今日も会うの?」



この親友は後輩よりも更に背がでかい。目が可愛い感じで大きいけど、超、男だ。


デカい手でわしわしと、飯を食っている。


俺は「会うよ」と言って、スープを飲み干した。



「その人、本当にゲイじゃないの?」



「多分」



「ゲイじゃないのに女装をして、女装をしないお前の胸をときめかせたんだ?」



「女装しない俺って何だよ」



親友が笑った。でもまだなんか悩んでいるようだった。いつからか、俺はこいつの方がゲイじゃないかと思っていた、女に興味なくなったし。
でももうそんなことどうでも良くて。


今は俺が、自分をゲイだったのだろうかと疑っている。


だから、こいつの話はあれから聞いていない。また何かあれば言って来るだろう。



「ミノもてるなあ」



向こうを見ながら呟くから、俺もそちらに顔を向ける。
何人かの女が楽しそうに、さっきの後輩に話しかけていた。あいつ、その電話とやらを早くしたくてたまらないだろうに。


八方美人なやつ。



「ミノも悩んでるみたいだよ」



「え、そうなの?」



俺は隣を見た。



「昨日、やりてー、って独り言、言ってた」



まじか。そう言うのあまり見たくない。あいつには、いつでもさらっと爽やかでいてほしい。


でもあいつも男なんだな。


俺達若いし。


また後輩に目を向ける。確かに、いつものでかい口で笑う笑顔になんとなく翳りが見えるかもしれない。女の子達が気付いているのか、知らないけど。



「やり放題だろ」



「どうだろう」



返されて隣を向いた。あ、こいつ、もう食い終わってる。



「ミノ一回も大学の女子とそういうのないじゃん」



親友は、まだ眺めている。どうやって食ったのだろう。



「お前と同類ってことかもしれないな」



冗談っぽくかまかけてみる。



「お前と、同類だろ」



きらきらした友人の目を見ながら、俺は黙った。


黙って、また計算をした。


二週間前のあるバレンタインデーに、俺は、映画館で隣に座った女の子に、何気なく声をかけた。
でもその子は、女装した女男だった。
俺達は飲んで、その男の部屋に行って、また飲んだ。
明け方、一緒のベッドで寝かせてもらったけど、俺は眠れなかった。
女装が取りさらわれて、すやすや眠るただの男を隣にして。
女装が趣味なだけで、ゲイじゃないと言う。それをなぜか残念に感じている自分がいて。


化粧してなくても、綺麗に見えた。


そんなことになる、俺みたいな男の確率は?



「いつ来たの?」



「さっきです」



「何で嘘つくんだよ」



化粧をした顔ががはっと笑った。笑わなければ、亜麻色の長い髪をした可愛い女の子に一瞬は見えるのに。一気に男になった。
でも、なにか塗られた唇の横にぽこっとへこむえくぼが目に入ると、いや、全体的にもなんだけど、やっぱり俺は胸がざわついて、手元に置かれた二つの空になったジュースのグラスにそっと視線を落とした。



「行く?あっちでお茶する?」



映画に誘うくらいしか思いつかなくて、もう三回この人と映画を観ていた。最初いれたら四回だけど。


でもいつも指定される時間は、この人が会社から一旦帰って、この格好に着替えて来る一時間半を計算に入れた待ち合わせ時刻だ。


それで間に合う映画だから、問題ないけれど……



「だって、お前といたら一人でより堂々としてられるからさ」



一人の時も、結構堂々としてる気がするけど。
まあ、それで俺と遊んでくれるなら良いんだけど。
女装するより、俺に早く会いたいと思ってくれないかな、なんて思う俺が可笑しいのも分かっている。



「お前が来るから、酒が増えたよ」



楽しそうに言ってくれるのにかこつけて、家に上がり込むのも三回目。


最初いれたら四回目。



「次入れよ」



そして、タオルで濡れた髪を拭きながら、男の姿になるのを見るのも。
髪が少し短く切られている。そんな金髪に近い色で、働ける会社ってどこだよと調べたけど、結構あるんだよな。
綺麗に半円になるその目蓋に長い睫毛は、自前だ。



「俺の小さいんだからさ、お前自分の持って来れば?」



渡されたTシャツを貰う手を止める。



「それって、同棲ってことですか?」



「お前頭どうなってんだよ」



俺はノンケなんだってと、笑ってダメ押しされて、閉口する。
確かに俺も自分で良く分からない。
実家離れるなら、親に言わないと、とかも考えた俺。
本当にどうしよう。



「イトゥクさん」



ベッドの中で、目を瞑った相手に、今日が終わるのが嫌で、話しかける。



「なに?」



「この前言ってた、嫌なことって聞いて良いですか?」



眠たげにまばたきしている顔が、困ったように微笑んだ。



「大したことじゃないよ」



「大したことじゃなくて、あんな格好なかなか出来ないですよ」



噴き出して、笑われた。



「うるさいよ。キュヒョンも大人になれば分かる」



自立と言う意味では俺はまだ大学生だし、出来ていないから何も言えなくなった。


笑っていたイトゥクが眠気が醒めたようにこちらを見たから、小さく息を呑んだ。



「キュヒョンは就活したの?」



「しましたよ。決まりました」



「そっかあ。おめでとう」



そこを踏み込んで聞かないから、俺だって聞けないんだよ。


電気が消えた暗闇に紛れて顔をしかめる俺の前で、話は終わったとまた閉じられた。



「女装って……どんな気分になるんですか?」



「心が軽くなる」



閉じた目蓋を見つめる。暗くても綺麗だった。



「俺以外に、男に声かけられたことありますか?」



この人が言うように、俺は子供なのだから、やっぱり今日が終わるのは嫌だった。



「あるよ」



「は?」



自分のはっきりした二重の目をもっと開く。開かないまま寝ようとする相手に対して、元から無いに等しい俺の眠気は、欠片もなくなった。



「なんだよ。悪い?」



月明かりの中でえくぼが見える。
あるかもしれないと思ったから言ったのに、いざ聞くと、何で自分がこんなに反応しているのか分からないほど焦っている。



「それで……ついていったりしてないですよね?」



「俺はしてないけど、ついてこられたね」



片肱で支えて、上半身起き上がる。鍛える回数は筋肉の出方で相手の方が多いのが分かるけど、体格差で俺の腕の方がたくましく見えた。色は白いけど。



「何なんだよ」



目を開けて、笑いながら見上げられた。開けてくれたのは良いけれど、気は全く休まらない。



「ついて来られて、断りましたよね?」



「そう言う感じじゃないよ」



「どういう感じ?」



何で俺はこんなになってるんだろう。心臓がばくばくして、久しぶりに焼きもちらしきものをやいている。



「お前みたいなんじゃないから。この話は終わり。寝ようキュヒョン」



背中を向けられた。切りたての髪が、月光にも白っぽく見えて、さらりとした。



「俺みたいじゃないってどんなんですか?飲みに行きました?」



「だからそう言う感じじゃない」



相手も完全に目が覚めたらしい。声が起きている。



「何でそんなに言えないんですか?」



「結構言っただろ」



「最後まで言えばいいじゃないですか」



「相手は複数だよ。女だと思って俺に声かけて、男だってすぐ分かって、からかって来たんだよ」



「イトゥクさん……男に興味ないですよね?」



「なんだよそれ」



俺の焼きもちは、思っていた展開と違ったから、少しおさまって、それでも保険をかけた。
俺の質問に、声と顔を弛ませた相手を見ながら、上半身もベッドに倒す。



「……それで、その後は?」



静まってきた心臓を感じながら、ほっと息をついた。



「笑って対応してたけど、しつこかったから、逃げたら結構殴られて、服剥がされたよ」



暗闇の中で、息をついた体が強張った。



「俺に挿れようとしてたけど、同じもんついてるからさ。そいつらたつわけなくて、そのまま、俺を放ってどっかに行ったよ」



静まった心臓が一気に脈打った。頭に血がのぼって、叫びそうになる。
まあそんな感じ、と仕方なさげに溜息をついた体を後ろから抱え込んだ。



「ちょっ」



力を入れて抱き締めすぎて、これじゃあ襲ったやつらと変わらないじゃないかと思った。けど、抑えがきかないから、本当にやつらと変わらない。



「警察には?」



抱えたまま、呆然と茶色い後頭部に投げかける。



「言えないだろ。俺、会社員なんだから。苦しいよ、何なんだよ」



イトゥクが苦笑しながら身をよじって、俺の腕から逃れるためにこっちを向いた。


そのまま再び抱き締めた。



「おいっ、俺は女じゃないんだから。そういうの良いんだよ!」



胸を押されてもがかれて、更に力を入れる。俺の首元に温かい息がかかる。



「女装してる人が言えないでしょう」



「それとは話が違うだろ」



「何で……それでまだ続けてるんですか?」



怒り狂っている音が自分の胸から聞こえている。それはきっと腕の中の人にも伝わっているだろう。


返事がないから顎を引いて、表情を伺った。


少し顔を上げてくれて、目が合った。


大袈裟に、半円の目蓋の目に睨まれあとに、その眼差しがまた仕方なさそうにゆるんだ。


見とれかけた。



「恐く、なかったんですか?」



質問を変えると、月明かりに光った唇が開いた。



「……殺されるような感じはしなかったし、痛いのは痛いと思ったけど。それより、情けなかったな」



本当に。全部、情けなかった。


と、こぼされた。


自分がこれだけ怒りや、不甲斐なさを感じると言うことは、やっぱり俺は……


俺が黙ってしまったから、今度は少しそらされていた相手の顔が、こちらを見た。



「キュヒョンは、日に焼けないの?」



話題をいきなり変えられたことや、自分を見て、穏やかな声を出されたことに、怒りに震えていた体が、違うざわつきに変化していく。


線をつけて上がる目尻のせいで、いつも微笑を浮かべているように見える、どこか切ない目。



「あんまり……外に出ないから」



その胸の音を聞きたくて、間にある腕をどけてほしいと見つめ続けた。でもそれはやはり伝わらなかった。



「目がぱっちりしてるし、鼻高いし、掘り深いし、本当イケメンだな」



見つめ合ったまま、「女の子の恰好も似合うよ」と微笑まれる。



「……そう言う趣味はないです」



似合わないだろうし。



「残念だな。せっかく女装仲間になれると思ったのに」



なってたまるか。


俺がなりたいのはそんなもんじゃない。


でも、そんな事を言えば、もう次はないのも分かってる。



「……このまま寝て下さい」



その腕に抱き締め返してほしい。


綺麗な唇をどうにかしたい。


今俺はすごくラッキーなことになっているのに、心は晴れない。



「寝れないって」



「後ろ向いてもいいですから」



手を弛めない俺に、諦めて後ろを向いたイトゥクが、俺の腕の中で、眠る直前に言った。


さっき答えてくれなかった理由を聞きながら、こうしていると、どっかに行っていた眠気も戻ってきた。



「あんなんでやめないよ。刺激的なんだと思う。舞い上がってストレス発散してんだろうな。本当に軽くなるんだ」




魔法みたいに。












つづく

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