夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「Magic 3」キュヒョン×イトゥク


起きると、追い出すように外に出された気がするけれど、考えすぎだろうか。
友人だって、次は何をするかなんて別れ際に話すと思うのだけど。
また数日あけた方がいいだろうか。



「先輩。一口下さい」



にゅっと手が伸びてきて、ぼんやり見ていたスープを一さじ掬って行った。



「冷めてる」



「いたの?」



いつ来たのか分からない後輩を見た。
ミノは相変わらず、小さい頭で座高が低いのか、俺より背が高いのに目の高さが同じ位置で、正面に座っていた。


「声かけても、気付かなかったみたいなんで」


襟までボタンをきちんと留めたデザインシャツに飛ばさず、クリームスパゲッティ―を混ぜながら食べている。もう殆ど残っていない。


「あそう」


俺も自分のスープを飲んだ。冷めていても、美味い。ちょっとニットに飛んだ。春休みに入っても、色んな学部が一緒くたになっている校内は、まだ卒論を修正している四年生もいるのもあって比較的人がいる。
でも食堂は今日までだった。



「チャンミン先輩に聞きましたよ」



もう一度後輩を見る。



「何を……」



「今度、女装するって」



完食したこいつに後ろで熱いまなざしを送っている女子と一緒に、俺も見つめてから、言った。



「それ違うよ」



「あ、電話取ります。すいません」



かかってきた電話を取りながら、皿一式を持って後輩が行ってしまった。
少し眺めたあと、また一口スープを啜った。



「あれ怪しいな」



「お前さあ。俺、女装なんかしないんだけど」



横でかつ丼食い出した親友に抗議すると、「あ」と言ってその手を止めた。



「何だよ?」



俺は顔をしかめた。



「じゃあなに?キュヒョン、バレンタインにチョコ貰ったってこと?」



こちらに言ってから、また食い出した。



「……どこら辺から、じゃあとか言ってんの?」



食いながら、大きな目が笑った。



「じゃあお前は、バイト先の男に貰えたわけ?」



親友が何も応えず、黙々と食べ出したので、俺も残りのスープを飲んだ。


向こうの通路で、携帯電話を持っていない方の手で目元を抑えて佇むミノが見えた。


昨日のことで分かったのは、警戒心を抱かせると良くない。俺達は若いけど、本能のままに、突っ走ったらだめだ。
でも行動はしないといけない。
同性と言うのは、思った通りに難易度強だ。


数日後。


イトゥクの好きそうな映画が公開になったから、連絡した。
俺はそこまで好みではなかったけれど、上手くのってくれた。


コツンコツンという音が聞こえる。


一つ発見があった。軽快に聞こえるヒールの音も、重いものをのせるとそれなりに低くなる。



「待った?」



「いえ」



亜麻色の髪は今日もゆるく巻かれて、手入れされているのが分かる。奇異な目で見る周りの客も、俺もやっぱりその姿は慣れないけど、綺麗だと思った。
イトゥクは何となく、俺の手元に置かれた二つのカップを寂しげに見てから、



「行こうか」



と、てかてかに光った唇で微笑んだ。
センチメンタルな映画は好みではなくて、スクリーンを見ながらも、俺はいつものように隣が気になって、そっちに神経を集中させる。
暗い中なら、イトゥクが男とか女とか、そんなもの分からない。彼の言ったセクシャルは、もしかしたら、こういうものなのかもしれない。
俺達は案外それに気付いていないだけなのかもしれない。
だけどこんなデートっぽい空間で、繋ごうと手を伸ばせないのは、やっぱり相手が男だからだ。
ニューヨークの街中と、可愛い女の子と不細工な中年男を見ながら、そんな堂々巡りをした。


この恋が上手く行く可能性は、一体どのくらいあるのだろうか。



「音楽が良かったね」



「そうですね」



「あの映画のプロデューサー、自分も歌ってたの知ってる?」



何となく距離を感じながら、お馴染みになった海沿いの居酒屋に入って、カニのスープを飲む俺を見て、可笑しそうに言われた。
俺はそのえくぼに釘付けになりながら、口に運んだ。



「……いえ、知りません」



「流行ったんだよ、一曲だけ。俺が高校の時に。洋楽にはまり出した頃」



いなくなったと思ったらこんなことしてたんだ、と聞きながら、すぐさま、携帯電話を取り出して調べたくなった。これで、イトゥクの年齢は分かるはずだ。


視界に入っていた艶めく唇が片側上げられる。
眉も上がっておどけた顔をされた。
さっき見た映画の女優より、可愛いと思った。



「知りたかったろ?俺の年齢」



言われて、黙った。何となくこちらを責めるように見据えられた、マスカラが塗られた睫毛の下の瞳は、自前だ。


ふと笑って、窓に向かれた。俺は止まった手を再開させて、スープを飲んだ。



「結構その曲好きで、夜中に良くギターで弾いて親父に怒られてたよ」



外に見えるのは、映画の夜景とは全然違う、工場のオレンジの明かりに照らされた寂れた防波堤だ。


イトゥクは、こちらに目を向けた。



「俺、音楽やりたかったんだ」



また手を止めた。今日は色んな情報が手に入るらしかった。



「どう……やりたかったんですか?」



「作曲かな」



「今からでも、やればいいんじゃないですか?」



あまり減っていない自分のグラスを見下ろしながら、イトゥクが鼻で笑った。



「いいよ。この生活も楽しいから」



女装がないと心が軽くならない生活が、楽しいのだろうか。
でも、そんなことを言えば今度こそ会ってくれなくなるかもしれないから、俺はまた無言でスープを飲んだ。
飲んだら出ようか、とイトゥクはそれ以上何も言わなかった。
明日は休日で丁度良いのに、家に行っていいか聞くことに大分迷った。けれど、そんな俺に仕方ないように「来いよ」と言われて、殆ど飲まないイトゥクと飲み直しながら、



「今日このままで寝ようかな」



と言われて、ぎょっとした。
これは相当警戒されている。
こちらをじっと伺う女装姿の男を、俺の良く開いた二重の目で見つめ返した。



「……どうぞ」



「嘘だよ」



苦笑されて、そのまま風呂場に行かれた。


すぐさま、年齢を調べようとして、なぜか親友に、『俺、今崖っぷち』と送った。
親友からは、『崖っぷちに立てるだけ良いじゃん』と意味深なことを返されて、そう言うのは望んでないし、何でこいつもうカミングアウトしないのだろう、と思った。
返事をせずに、後輩に同じ文章を送ると、『かつらが決め手だと思いますよ』と来て、まだ勘違いされていることが分かった。


否定する気にもなれずに、それを置いて、イトゥクのことを考える。


嘘はつきたくないし、このままだと、どんどん距離が置かれる予感がして、焦りが増す。


絶対に今の状態をキープさせないと。


これ以上、下心を見せたら終わりな気がする。

女装が解かれたイトゥクを見ても、ときめきとは違う高鳴りが治まらない。 
心なしか俺からも距離を取ってベッドに並んでいた。
こちらを向いて目を閉じているイトゥクを見つめて、むしろ背中を向けた方が良いと体勢を変えようとした時。



「キュヒョン」



呼ばれてどきりとした。でも半円になる目蓋は閉じられたままだ。



「……はい」



少しうつ伏せた体勢で、続けられた。



「お前、俺のこと好きなの?」



やばい。
やはりもっと日にちを開けた方が良かったのだろうか。でもその間に女が降臨したら洒落にならないし。



「……考えさせて下さい」



親友方式で逃げることにした。嘘は付けない。
イトゥクが噴き出して笑ったから少し緊張が和らいだ。



「寝ましょう」



薄暗い中で、明るい洗い立ての髪を、動悸を落ち着かせながら見つめた。
でもイトゥクはそんな俺に追い打ちをかける。



「俺、ゲイじゃないから」



俺の恋はもしかしたら、もう崖から飛び降りてしまっているのかもしれない。


痛んだ心臓で何も言えなくなって、逃げるようにイトゥクに背中を向けた。


そこで体を強張らせた。


うなじにさらりとした感触が触れた。


イトゥクが俺の背中に貼り付いていた。


慌てて振り向いて、その体を抱きしめる。



「じゃあ何でこんなことするの?」



言いながら、今までの交際の癖で、シャンプーの香りのする髪に思わず口づける。頭中に口づけるとイトゥクが「それ以上するなよ」と言ったけれど、それでも顔までしようとして、頭を振って抵抗される。
動きを止めて、その顔を覗き込んだ。



「お前の気持ちは分かったよ」



半円の目蓋の下で、やはりその瞳は俺を責めていた。


これはもしかして……


ゆっくりその体から腕を剥がした。



「もう遅いって。さあ、寝るぞ」



イトゥクが離れて、俺にくるりと背を向けた。


これはどうやら……


俺は、はめられたらしかった。













つづく

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