夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「ぼくらが恋した貴方へ 2(夜の散歩)」(D.Oの場合)スホ


ギョンスは、これは自分のことを知らないなと思った。0時ちょうどの深夜の居酒屋で、気分が悪くなり、外に出たところで、遭遇した。
明日から数日休むことが出来るライブの打ち上げだから深酒をしたわけではなく、疲労のせいだ。トイレの前に並ぶ見知らぬ外国人に、これはどうにかやり過ごすべきだと酔った頭が警鐘を鳴らした。
けれど、酔っているから、警鐘も眉唾だった。しかしギョンスは、もう何度か来ているこの外国の街で、その光景に、酔いが醒めたようになった。
「あ、ごめんね」
と、良く分からず夜風にあたろうと、外に出てしまった身体に言われた。その前に少し後ろによろめくほどぶつかって。
その女性と。
でも、正面からではなかった、後ろ姿とだった。こちらに笑いながら言った顔は、ぶつかるのもこのせいと分かるほど酔っていた。
白目の澄んだ大きなそれの、瞳をゆらりと動かしながら、ギョンスは見つめる。奥二重で切れ長の、大きなそれで見守った。
自分の国なら、と思った。
酔っていても分かるはずだ。いや、自分を知っていたらこの国でも、歓声を上げられるだろうと、ヒールのあるサンダルが、おぼつかない足取りで離れて行くのを眺めた。
ファンではないことに落胆しているとはっきり自覚していた。
彼女は、前方で待つ何人かの女性に合流すると、
「店で飲むなんて久しぶりだった」
と、ほがらかな声を出した。そのまま女性たちは笑いながら歩いて行く。
ギョンスは後ろ姿を暫く眺めて、それから、一歩踏み出した。
真新しいスニーカーの底が、アスファルトにじりっと音を出した。
夜風と一緒に、向こうから来る男たちはみんな肌が自分よりも焼けている。
そして、「ごめんね」以外の言葉が聞き取れなかったギョンスは、前を歩く女性たちの会話も分からなかった。
日本語の勉強を、もっとすれば良かった。
ついて行きながら、ぼやけた頭で思った。
だけど、「ワンピース」という言葉が彼女の隣の女性から出て、ギョンスは奥二重を少し丸くした。
この国で有名な漫画かもしれないと、自分も良く知っている名前が出て、波を描いたような上唇ともども口角を上げた。
だが、
「私は動物のお医者さん読んでたよ」
と、肝心の女性から言われた言葉は分からなかった。
が、ギョンスは、声だと思った。
優しい出し方をする声が良いと、分からない言葉には気落ちしたものの、耳を澄ませた。
その時。
「おいっ」
知っている声に呼びかけられて、足を止める。
後ろを向いた。
「お前、何やってんだよ」
怒りをあらわにした顔のグループのリーダーがいた。
くっきりとした二重の上で、太い眉が上がっている。ギョンスはぼうっと見た。
暑いと感じる自分達以外、半袖のTシャツを着ている人間はさっきからいない。さっきの女性の恰好を思い出そうとしても、もううやむやになってしまっている。
ギョンスは振り向いた。
タクシーに乗ってしまったのか、見当たらなかった。
「聞いてんのかよ?酔ってんのか」
また、前を向く。
ギョンスは黒い瞳を動かして、言い終えた口を突き出して睨んでいる男を眺めた。
「酔ってます」
と、呟いた。
全体が黒っぽく見える両目が、仕方なさげに斜め上に視線をそらせた。
溜息をついて「行くぞ」と手を繋がれる。
スーツを着たサラリーマンが、通り過ぎながら、怪訝に見て来た。
ギョンスは手を引かれつつ、それをなぜかと思った。
ああ、肌が、俺達は白いからだと、ずかずかと前を歩く男のTシャツの背を見た。
「待って下さい」
「なんだよ」
足を止めて向かい合う男にはさっきまでの不機嫌はなかった。
「俺達の、色が白いから、変な目で見られる」
ギョンスはとつとつとこぼした。
「ああ?」
太い眉を寄せて、不快な声を上げた彼の向こうでで、赤提灯をつけた屋台が音を出しながらひかれていく。
「こっちにも色白い人いるだろ」
「でも」
言いながら、ギョンスは酔いで次の言葉が出て来なかった。
「白くて変に見られたんなら、止まってどうするつもりだったんだよ」
はきはき喋る口調で、店でそっちも結構酔っていたと思っていたのに、兄さんは、ふりをしてたんだと、ギョンスは思った。彼の方が年上だった。
それから、確かに、と瞳を揺らしながら思った。
「こんなの絶対やめろよ。お前だけ名古屋から出られなくなるぞ」
そう告げる真剣な表情を見ながら、ギョンスは「ナゴヤ」と繰り返して、波を描いた唇で微笑んだ。
ふふっとそこから空気が漏れた。
呆れ顔で見て来るのも可笑しかった。
「行くぞ」
諦めたみたいに、手を取って、踵を返される。
今度はさっきより歩調は穏やかだった。
斜め前で夜風を切って行く姿を眺めて、ギョンスは瞳を横を通り過ぎる、停まった屋台に動かした。
「つけてる」
「あ?」
一言答えて引かれている者の足が止まったので、自分の足も止まったのも気にせず、ギョンスはそれを見つめた。
太い眉をひそめて、手を繋いだまま、もう一人もそちらに向く。
屋台には、既に二人のサラリーマンが着席している。
店主と彼らの間で、四角くくり抜かれた鍋に湯気を立てて煮えているものの中から、何種類かとって、彼らは酒のあてにしていた。
一人が食べているのは三角に切られたこんにゃくだったが、熱そうに口に入れる前に、白い取り皿に添えられたどろりとした液体をつけている。
「なんかつけてる」
ギョンスはまた呟いた。
「なに?」
自分達の国でも有名な物だから煮物の名はギョンスは知っている。けれど、ああいうものはつけない。
「味噌だろ」
そう続けて言った、同行人にゆらりと瞳をまたギョンスは動かした。
「味噌?」
「さっきの店でもあったろ。メニュー見なかったのかよ」
「美味しいんですか?」
「さあ」
「食べてみましょう」
ギョンスが足を踏み出すと、「おいっ」と繋いだ手が引かれた。
目をやると、自分を信じられないように見ている。
「行くぞ」
そして、また手を引かれた。
彼の切る風を受けながら、ギョンスは夜の街並みを眺めた。
先ほどの女性はこのどこかにいるのだと思った。
「兄さん」
「ん?」
一本道ではあるけれど、いつの間にか大分歩いていたことをギョンスは知る。良くこのリーダーは自分を見つけたなと思った。
「俺、好きな人できたかも」
また立ち止まられた。
黒っぽい目がぎょっとしている。
「だれ?事務所の人?」
眉を潜めているのは深刻な時で、それを見ながら、ギョンスは白い首を振った。
「もう会えない人。さっきついていきました」
「やめろよ。変なことするなよ」
うんざりと、踵を返される。
ギョンスも無言になって少し歩くと、前を向いたまま、言われた。
「可愛かったの?」
その声色は落ち着いていて、夜風に消えて行く。
「あんまり、顏は見なかったな」
なんだよと、言われた苦情にかぶせるように、ギョンスは続けた。
「声が、優しくて、ああいうの良いなって初めて思いました」
「そうかよ」
店に着いた。
前の人間に続いて入ると、こんな時間でもまだあちこちから歓声が上がっている。
廊下から通りかかった一つの個室の中が見えて、今にも火を吹き消そうとしている男性が刻んだ果物が乗った白いケーキを前にしていた。
歌われながら祝われている。英語だった。
「スホ兄さん」
ギョンスは前を歩く人間に呼び掛けた。
「なに?」
彼が振り向いた。
「兄さんにも歌わないと。誕生日だったから」
そう言って、誕生日の歌を自分達の言葉でギョンスは歌った。
前の人間が淡い色の唇を弛ませた。
「やめろよ。もう歌ってくれたろ」
そう言って、前を向く。
数日前にそれを済ませた彼のTシャツの背を眺めて、そう言えばとギョンスは思った。
さっき火を吹き消していた男性は、Tシャツを着ていて、色が白かった。
それを思い出しながら、店に入る時、スニーカーを脱いだせいで自分が今誰の力も借りず歩いていることに、ギョンスは気づいた。
そして、白い指を握るように曲げて伸ばした。
瞳をゆらりと動かして、離れてしまった正面の手を見つめた。
もしかしたら、あの怪訝な眼差しは……と考えたが答えは出ない。
それから、そのTシャツの背が、酷くぬれているのに気付いた。
「兄さん」
と、声をかけた時には目的地に着いてしまった。
メンバーが驚きの声を上げながら、自分達に飛びついて来る。
その中で、
「おでん頼むわ」
と呟いた、誰かみたいなとても優しい声を、ギョンスは耳に入れていた。












『ぼくらが恋した貴方へ 2(夜の散歩)』(D.Oの場合)おわり

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