夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「兎になった日 5」CNBLUE(ジョンヒョン)東方神起(ユノ) EXO(スホ) SHINee(テミン)SUPERJUNIOR(キュヒョン)


『兄さん。帰ってる?』
ふっくらした手で、シンドンはそのメッセージに返事をした。
『うん』
風呂上がりで、こんな時間に何だとそのまま携帯電話の時刻を見た。相手はまだ現場で収録のはずだった。
復帰後すぐに金髪に染められた髪をタオルで拭きながら、上半身裸でダイニングの椅子に腰かけたシンドンは、グラスにくんだミネラルウォーターを飲んだ。
上から見える腹が芸能界復帰用に続けている減量のおかげで大分引っ込み、でもまだふくよかな顔をゆるませて、それをさする。
『一緒に飯食おうよ』
と、返事が来て、数年前に医学の力を借り、深く切れ込みを入れた目蓋を更に開けた。この相手もそうだったけれど、それは良く、シンドンは、『お前仕事中だろ?なんじの話だよ』と送る。
『今日別撮りだよ。一番早く終わった』
そんなこと朝言ってたな、とシンドンは朝食が今日は同じ時間になったこの末っ子が、疲れた顔で、「別撮り楽だわー」と、食パンを噛み切っていたのを思い出した。
『もう帰る』
と続けて来た。
ほお、と思って、斜め上に視線を上げた。連日深夜まで働く彼にしてはかなり時間は早く、せっかくだから他のメンバーも誰かいるだろうか、と大所帯のメンバーのスケジュールを考えた。
けど、全員忙しく、シンドン自身も今日は半日で済んだのが久しぶりだと思ったほどだ。時間刻みなのだから勿論把握なんかできない。自分のグループのリーダーだって全員の細かなことまでもう管理なんかしない。それぞれが別個の仕事を主にしている自分達は、事務所の中でもとうに、アイドルグループから個人タレントとしてそれぞれの道を見出している。
それが、各々の生活とグループを続ける方法だと言うことも分かっている。
シンドンは一時的でも宿舎に戻ったことが、良かったなと思った。この間まで自分もだったが、公役中のメンバーもいることもあって、なかなかグループ気分を味わうことがない自分達だが、この末っ子と二人だけであっても、ここにいると、それをこうして毎日今は味わえると思った。
まあ、恐らく俺もまたすぐにここを出ることになるけどと、末っ子の喜びが見て取れる楽しそうな動物の絵と一緒に来たメッセージを眺めた。
『分かったよ。出前頼んどくよ』
今日はダイエットはいいな。大きめの顏にすれば小さいおちょぼ口の端を上げた。
ビールはどれくらいあったろう、と席を立った。
あいついつもこんなに冷やしてんのか。忙しく日頃まじまじと冷蔵庫の中を見ることもなかったシンドンは、末っ子が冷やしているのは知っていたし、自分もこの減量がなければ、独り暮らしの時は飲んでいたが、下の段がビールでぎっしり埋まっているのを今更確認して、呆然とした。
何となく見なかったことにして、ダイニングテーブルに戻る。
『スパゲッティが良い』
とメッセージが来ていて、髪と合わせて薄く剃った眉を寄せる。
『そんなもん出前でないだろ』
『兄さんがいない間に出来た』
ふうん、とシンドンは出前のチラシが重ねられている食料棚の方を見た。
続けて、帰宅時間とカルボナーラと送られてきた。
了解、と返して、朝食用のシリアルや果物が置かれている棚に向かう。
本当だ。随分チラシが増えている。
シンドンは、何となく肉を沢山食べたい気分だったが、自分も彼と同じところから取るかと新しいチラシを眺めた。
じゃあワインだなと、ワインセラーの中に入っているラベルを思い出そうとしたが、それはキュヒョンが帰って来てからで良いかと思った。それにせっかくの機会だが深酒は出来ない。明日から自分達は新しいアルバム曲のレコーディングに入る。キュヒョンはその前にも一つ早朝から仕事が入っている。
部屋で仕事を少しして、30分ほどで疲れた顔の末っ子が帰って来た。続いて出前も到着した。
「もう嫌だ。明日も仕事嫌だー」
仕事が詰まると全員が言うことだが、グループの中で最後の入隊を控えたこの弟の忙しさは、今一番だった。
「俺もう寝たいんだよ」
じゃあ、もう寝りゃいいだろと思いながらもTシャツを着たシンドンは、疲れている時ほど酒や美味い飯を欲する弟の癖は理解していたので、キャップを脱いで椅子でうな垂れる高身長の方な彼を見下ろしながら、「食うぞ」と届いた出前の蓋を開けて行った。忙しい彼のスケジュールを支えるマネージャーは事務所に戻り、あと二時間は帰って来ない。
ヘアセットが残ったふわふわした茶髪の後頭部を上げて、弟が顔を見せた。
それでも睡眠時間は取っていると、白い肌に新しい吹き出物が少ないのを見てシンドンは思った。
「いっぱい頼んでくれた?」
「いっぱい頼んだよ」
過去の肌荒れの跡をぼこぼことつけている頬を心なしか膨らませ、ぶすっとした表情のまま食卓の方に体を向けたキュヒョンが、一緒に蓋を開け始めた。いくつか開け、食欲をそそる香りがし始めると、その表情も明るくなった。
「これ、ビーフシチュー?」
「うん」
部屋着に着替えていない彼もニットを着て、春は来たが、まだ寒かった。肉も食べたかったシンドンは、ぴったりだなと頼んでいた。
「うまそう」
「はい」
白いクリームのパスタが入った箱を渡した。シンドンはトマトソースの魚介の入ったパスタにした。
「そっちも食べたい」
「仕方ねえな」
皿を持って来て、半分ずつ分けた。
「ここ結構美味いな」
シンドンは、疲れから黙々と食べる弟に言った。頷いて黙々と食べている。
「これあげる」
「いらねえよ」
スプーンに乗せた人参を差し出された。食べられないことはないが、この弟は食べたくないものは良く残す。シチューの中に入っていたからとってしまったらしい。
「なんかこれ切ってなくない?」
気づいて、自分のスプーンの上をしげしげと眺めている。
「体に良いんだから食べろよ」
「こんなんで変わんないだろ」
そう言いながら、食べる姿を見て、シンドンは本当に疲れてんだなと笑った。
肉付きが良くなって来た弟なのに、それが自分ほどではないからか、同じ二重の手術をした間柄でも、なぜかこの男の方が美男子に見える、とシンドンは食べながら目をやり、明日からはまた減量頑張ろうと思った。
「ワイン開けるよね?」
と、大方食べ終わって立ち上がったキュヒョンに覗き込まれた。丸い大きな瞳がシンドンを見る。
「ちょっと飲み過ぎだろ」
今もビールを缶のまま口つけながら、シンドンはテーブルの上にいくつも並んだ自分達の空き缶を見て答えた。
「もっと早く開ければ良かったな」
「今日はもう寝た方が良いな」
言われて弟が口を尖らせた。
自分もだが、この弟に今、喉の調子を悪くされたら大変なことになる。今回のアルバム曲は歌唱力があるもう一人の弟が、既に参加出来なくなっている。グループ1のリードボーカルであるこの末っ子がいなくなる前に何とかスケジュールを合わせたのだ。今日はお開きだなとシンドンは酔ってきた頭で思った。
酒が入っているのもあって、つまらなそうな顏をそのままにしている彼を可哀想にも思ったが、思い出して「明日はチャンミンと飲むんだろ?」と微笑んで言った。
この弟にとって明日の夜は本当のオフで、同じ事務所で仲が良いアイドルグループの一人と会うことになっている。
本人も立場を良く分かっていて、気持ちを切り替えられたようで、元から上がっている口角をもっと上げながら「ジュースでも飲む」と呟いた。
「俺も飲もう。アイスも食うか」
シンドンも頷きながら言った。
「うん、俺も。持って来る」
今の気分はチョコレートだな、とチョコレートのアイスクリームを頼んで、シンドンは、透明な袋入りの、頼んだものとピンクの苺味を一緒に持って、もう一方にオレンジジュースの大きなボトルを持った弟が、明るい顔でこちらに来る姿を、見ていたのにと思った。
薄い色のフローリングにアイスクリームと、オレンジジュースのボトルが落ちて転がっている。
それで、いつもはテレビをつけている自分達が、今日はつけ忘れるほど、食事に夢中だったことに気付いた。
物音ひとつしない、夜の宿舎のダイニングに、シンドンは一人でいた。
「ああ?」
柔らかな喉元から声を出した。
ぱっちりさせた目をもっと開きながら、立ち上がって向かう。
服はある。白い末っ子の着ていた白いニットも、下着もジーンズもある。
そして。
その揺れているニットの首元からすぽっと顔を出した、小さな長い耳の動物と目があった。
真っ黒い瞳が自分を見上げた。
シンドンは、
「キュヒョン?」
と、言った。
しかし、何も気にしていないように、そこから抜け出し、二個のアイスクリームの間を跳ねて移動する。
シンドンは、酔いが醒めた頭の中で新しいアルバム曲が再生された。
大混乱だ、と思った。













つづく

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