夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「兎になった日 1」CNBLUE(ジョンヒョン)東方神起(ユノ) EXO(スホ) SHINee(テミン)SUPERJUNIOR(キュヒョン)


「ここは全部契約農家で……」


店員の話を、聞いていないと言えば、ヨンファは聞いていなかった。
けれど彼は見上げて、自然と「そうですか。ありがとうございます」とにっこりと言った。
その笑顔の威力を分かっていたけれど、相手が男だから、何も気にせずそうした。
礼儀正しい芸能人と言うことや優れた容姿に、少し尊敬の念が籠ったような眼差しになり、完璧なツーブロックの髪型をした店員は、微笑んで引っ込んだ。
これは二人共が食べたいと言った料理だ。
だけど二人共、手を付けなかった。
ヨンファは、はやる自分の心臓を感じながら、まだ早いだろうと思っている。
思いながらも、自分から目を逸らさない正面の相手の、異国的な感がある目元から、己もそらせないでいる。
これは、確かに、お互い特定の相手がいなくなったとても良いタイミングで、シチュエーションで、けれど自分達はもっと待つつもりだろうと、普段なら早く回ると自覚がある頭も鈍くなったみたいに、自問を繰り返すばかりで声が出ない。
困った。
個室であっても明るい雰囲気のここで、いきなりの色気のある展開は予測していなかった。
さっきまでのレコーディングスタジオでの談笑が嘘みたいだ。
目蓋の量感から涼し気に見えるが、白目も黒目も潤った印象的なそれを、店内に走らせる。
膨らみのある唇に加え、元から少し前に出ている口を開きながら端を上げるけれど、上手く整った顔に浮かんだ作り笑いは、相手にも分かるほどぎこちなくなっている。
こんなことなら、弟たちも無理やり連れてくるべきだった。
今日はどうしても飲みたくて、酒の苦手な彼らが断ったのに無理強いしなかった。
この相手だってそうだが、自分達には、誰にも言えない気持ちの繋がりがある。それを、互いに突きつけたことはないし、する気もなかった。しかし、そんな相手だけが了承してくれ、今日もそこには目を瞑り、楽しく一時を過ごす算段だった。
なのに。
ヨンファは、バンド内で年上の自分達が、とうに大人になった男同士で、見つめ合っていることを、とにかく回避しなければと思っているのに、出来ない。
昔は可憐な印象だった青年の長めの茶髪が、短くなり、お互いさまだが貫禄も出、体格も大きく変化した姿を眺めて、それと共に、積年の想いが溢れ出しそうになる。
だが、まだこなさなければ仕事が山積みだった。
目の奥に見える10年は続く計画に、いつの間にか作り笑いは消えてしまっていた。
自分を見ていた相手が、
「食べよう」
と、言った一言で、ヨンファは彼に引き戻された。
歯が少し出る口の端に力を入れて、微笑んでいた。
「うまそう」
そう言って、テーブルの上にヨンファとは真逆な眼差しを落とす。
ビジネスは何にも代えられないと、お互い分かっている。また、元通りだ。これからもこの日常は続く。ちょっとフェイントをかけられただけだと、ほっとした半面、少し寂しい気持ちを抱えて、ヨンファも並んだものを見た。
「じゃあ、入れよう」
春だがまだ寒い日に、赤と白のスープに真ん中で区切られたぐつぐつと煮立った鍋は見るからに食欲をわかせた。
そうだな、と返事して、近い皿に拡げられた肉の一枚を箸で持ち上げた。
「小さいにんじんがある」
言われて顔を上げると、正面のジョンヒョンは箸で小指ほどの人参を摘まんでいる。吸い込まれそうな目はいつもの仲間の視線だ。
「なんか色が薄いな」
鼻で笑いながら、日頃はギターを持っている手が、小さなものを上手く掴んでいる光景を面白く眺めた。
「具か?」
「そうだろ」
そうか、と鍋の中に落とされた。
「まだ硬かった」
ビールを飲みながら、こっちにも音が聞こえるほど、先ほどの人参を噛み砕いている男を見て笑う。
「もっと飲みたかったな」
「結構飲んでたろ」
宴も終わり、最後まで飲まなかった男と大通りまで少し歩いた。店の前に迎えを頼んでも良かったが、外での食事は久しぶりで、距離を余計に感じたからか、そう提案した。けれど、例え互いの家であっても、その距離は保たれていた。
「気持ちいいな」
店内で汗をかいたと言い合って、ジャケットを脱ぎ、長袖のTシャツの袖が上がったままになった隣の男が、涼しい外の空気に目を閉じている姿は何となく儚い昔の面影があって、ヨンファは微笑んだ。
「食い過ぎたよ」
自分のパーカーの腹を抑えた。
「俺に言うなって」
ヨンファよりも食べた男が、目蓋を開けて見た。
昔から変わらない白い肌に、髭がちらつき始めている。それは伸びたら異国の俳優のように、結構さまになることを、知っている。
そんな堀の深い彼の眉が一瞬寄せられた。
目蓋の量感があるそれで、ヨンファは見逃さなかった。そして、春の夜の中、しゅるしゅると萎んでいく目の前の男が、その無精ひげを長く長く伸ばし、着ていた長袖のTシャツから飛び出、暗いアスファルトの上を小さく跳ねるまでを眺めた。











つづく

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