夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「兎になった日 2」CNBLUE(ジョンヒョン)東方神起(ユノ) EXO(スホ) SHINee(テミン)SUPERJUNIOR(キュヒョン)


鼻から息を吐いて、チャンミンは洗面台に立っていた。疲労はあるけれど、明日から二日間の休みに、鏡に映った顔はゆるんでいる。
芸能生活から遠のいて一年半、肌の管理は若干手を抜いたところもあるが、概ね良好で、洗面台のライトに丸い頬が光っていた。
大きな目も光を受けているけれど、これは喜びで輝いているのだと思う。
先ず今日は、同じく休暇中の仕事上の相方に会う。その男も兵役中で、不自由な生活を送っているが、もうそろそろ彼はそれを終える。
明日は親友のキュヒョンに。同じくアイドルと言う職業をし、事務所も同じ男だ。二人しかいない自分達と違い、メンバーは13人もいる。
明後日は、一週間前から連絡を取り合っていた後輩のミノに。彼も同じ事務所のアイドルグループの一人だった。
チャンミンは、シャワーも浴び終え、すっかり身支度が整った姿で、再度服のチェックをした。なで肩を動かし、見える範囲、後ろ姿も確認する。白いシャツは厚手で柄も薄く入っているが、どことなく現在の仕事着を彷彿とさせた。しかし、ブランド物のそれは形も質も全く違う。でも、そんなことは気にしなかった。大体全てがそんな服だし、背が一際高く、手足の長く、顏も良い彼はただ初めて袖を通したものに、何か付いていないか、見落としがないか確認したのと嬉しくてたまらなく、しただけだ。
丸い頬が上がるにやけ顔で、冷たいビールを想像していた。
さあ、飲むぞ飲むぞ。とぱんと大きな手を叩く。つばのあるキャップを被り端正な顔を隠して、外に出た。
マネージャーに送ってもらい、久しぶりに二人きりで相方と会う。
互いの家から少し距離があるが、良く使う二階になったアメリカンダイニングは、深夜も営業で都合が良かった。
「あれ?兄さん。痩せたね」
ほぼ同時に着いて、同じくキャップを深く被っている年上の相方と二階に移動しながら言う。
「頑張ってんだよ」
先に芸能界に復帰する相方を茶化したチャンミンに、からかうなと釘刺しながらも、口元が弛んでいるのは、再会が嬉しいことが表れていた。
チャンミンも一か月ぶりに会うのは嬉しく、自分よりは低いが、高身長な兄と体を並べて廊下を歩いた。
「ビール飲みます!」
「飲めよ」
レトロなアメリカテイストの個室に入りながら、宣言したチャンミンに兄は苦笑する。
お互いキャップを脱ぎながら、五分刈り頭を突き合わせて席に着いた。
「ドラマを幾つやれるかだな」
スペアリブとピザで腹が満たされ、四杯目のビールで少し酔った顔になって言った彼をチャンミンは見ながら、テーブルの上の残った料理に手を伸ばして、頷く。
海外活動が主な収入源の自分達は、自国で残るためにはどうするか、いつも最後にはそんな話になった。
「チャンミンはバラエティで踏ん張れよ」
「頑張るけど、兄さんもレギュラーやったら?」
「難しいけど、ファミリー番組には可能性あるかな」
もう酒を飲む手が止まって煙草を吸っている。下唇の出た口元が自分より格段に小さな顔に、更に大きく見えて、この一か月で本当にとても痩せたと思った。自分達にはそんなことは日常茶飯事だったが。
「俺が深夜?」
「そうそう」
煙を吐いて笑う彼と、吸わないチャンミンも笑う。
「ドラマもすぐだしな」
自分が復帰したら、すぐに待ち受けるスケジュールがチャンミンは浮かんだ。嬉しいことではあるが、その忙しさと人前に出る緊張感に何となくため息つきたい気持ちにもなって、話を変える。
「兄さんは代表との仕事も忙しくなるし、大変ですよ」
「イトゥク兄さんの足を引っ張らないようにしないと」
室内のインテリアに合わせたブリキの灰皿に煙草をもみ消した相方がした微笑みが寂しげに見えて、自分の大きな目と違い細いそれに黒い瞳がいっぱいになった顔に、かける言葉が思い浮かばずチャンミンはただ横長の口の端を上げた。
イトゥクは、親友キュヒョンのグループのリーダーだ。自分達より年齢が上で、司会と言う仕事で道を切り開いた。
アイドルには賞味期限がある。そんなことは百も承知で、それは練習生の頃から叩き込まれている。模索を重ねなければ生き残れない。
それが本当に自分の幸せか、迷ったこともあったが、もう決めたことだ。
「空になってるよ」
「あ」
持っていたジョッキから、笑っている相方を見る。
楽しそうに、鼻歌混じりで彼の前にあった残りのビールに口付けている。
その歌は自分達の復帰で発表する一番初めの曲だ。
もし一人だったら、早々にこの職業のリタイアを考えたかもしれないが、彼がいてくれて本当に良かったとチャンミンは思いながら、その近くにある空の皿に気付いた。
「サラダ俺食べてないです!」
「あっ」
「兄さん一人で食べた」
「ごめんごめん、つい食っちゃった」
美味しそうなサラダだったのに。話と他の料理に夢中で食べ忘れていたと、チャンミンは顔をしかめた。
ポリポリと言う小気味いい音が、耳に残っているだけだ。
「もう一皿頼もうよ。なんか小さいにんじんが美味しかったよ」
うらめしい顔をした自分に声を出して笑う相方を睨んで、じゃあ、あれはにんじんの音だったのかと思った。
「そうします」
「だってサラダぐらいしか今俺沢山食べられないし」
「だからって」
と、返しながら、店員を呼ぼうとブザーに伸ばした手をチャンミンは止めた。
自分以外誰もいなくなったテーブルを、大きな目を数回瞬かせて見る。
「ユノ兄さん?」
呟いた。
けれど、返事はない。
呆然と目を丸くさせながら、ゆっくり立ち上がった。
うるさくなっていく鼓動と共に、そちら側に向かって、チャンミンは今度は小刻みに瞬いた。
視線の先で、長い耳を上に伸ばした兎が、彼のタンクトップと羽織っていた薄手の黒いパーカーを下敷きに、もそもそと椅子の上で動いていた。











つづく

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