夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「その目で笑って 5」(ユノの場合)チャンミン 東方神起の短編


そんなぐりぐりした目で見られるともう何も言えなくて、この一番年下の弟には、みんな甘かった、とデビュー当時を思い出した。
そして、弟の仕事とはいえ、全員の世話を焼き、もしかして一番しっかり者なのだろうかと思い始めたら、予想以上のしっかり者で、自分含め全員が気圧されることもあって、それで今は、リーダーの自分とも対等になってしまった、とユノは苦笑して言った。
「いいから早く出て行け」
二人になった宿舎の食卓だった。
「兄さん、そんな言い方ダメですねえ」
睫毛の多い大きな目が、弧を描くようになる。
面白そうな顔で、自分で煎れた珈琲を大きな口でごくごくと飲んで、「もっと気を使った言い方して下さいって、言いましたよ」と正面で、その目を向ける。
「お前から出るって言ったんだろ」と、呟いてはみたものの、完全に口調は言い返せないそれになっていると自覚をしてユノは、饒舌な弟から手元に視線を落とし、苦い顔で、ガラスコップを掴んだ。
黄色く甘いジュースを飲もうとして、欲しいのはこれではないと思う。
自室でしか吸えないものが欲しくなって、この弟のぐりぐりとする大きい目が羨ましくもなるような細めのそれをテレビ画面にやった。
朝のニュース番組とともに表示された時刻を見て、まだかよ、と思った。
「兄さん?」
「はい」
と、でも、下唇の出た口元を弛ませながら、正面に向く。
「最後なのに煙草吸いたくなってますね?」
大きな目と真ん中に膨らみのある横長の唇を曲げ、わざとらしく眉間を寄せている。
もっと困ったように笑い、ユノは「荷物できたの?」と聞いた。
「できたって昨日から言ってますけど」
「そうだったか。マネージャー遅いな」
表情を弛ませたまま、再びテレビに顔を向ける。
「遅くないよ。まだ時間来てないです」
いつも弟の方が喋る方だけど。
自分達の約半数が消え、マネージャーと、三人暮らしになってしまった頃から会話は減ったが、今日は昔に戻ったみたいだ。
昔でもデビュー時の、自分よりも背が低く、その大きな目に合うような、少年の面影を残した姿をユノは思い出したが、ここにいるのは片目を隠すパーマのかかった前髪のせいか、より端正に見える、何より自分の背を追い抜いた男で。
消えてしまった数以上の力をつけようとした奮闘の成果も表れて、パートナー的には有り難いことかもしれないが、すっかりこんなになってと、残念なような、複雑な笑みで、時刻を見つめる。
30分切ったと思った。
「兄さん」
「なに?」
マネージャーが戻るまでだった。
「最後に何か言って下さいよ」
そう言われて、時刻を見つめたまま、ユノは言葉を考えた。
「兄さん?」
「はいはい」
笑いながら前を向くと、大きな口の端を少し上げた真面目な眼差しがあった。
ユノは思わず、恨んだ目を向けそうになったが、自分も上げた状態を保つ。
「何か良いこと言って下さい」
と言われ、「頑張ろう」と即答した。
「それだけ?」
大きな目が丸くなる。
「だって、明日も会うだろ」
「もうちょっと言って下さいよ」
面倒だなと思いながら、
「じゃあ、感謝しろ」
と、言うと、相手が困ったような顏をする。
やっぱりこいつはチャンミンだなと、視線を落として苦笑をした。
対処しきれないと、リーダーで年上の自分に、こうやって、戻る。
恋人の近くに住みたいと上手く言い出せずに、自分に決定打を出させた。
だから、頑張ろうで良かったろう?とユノは弟を見て、下唇の出た口を閉ざした。
「感謝してます。兄さんありがとう」
今にも濡らしそうにさせ、微笑んでいる。
ユノは、反射的に「気にすんな」と言った。でもすぐに、「いや、気にした方がいいか」と言い直した。
そうすれば睫毛の多いぐりぐりしたそこは弧を描いたようになる。
そこだけはずっと同じだなと、懐かしく思った。
しかし、凛々しくなった弟は、笑みを消しながら横長の口を開いた。
「兄さん、行かないで欲しいですか?」
少し見つめて、
「俺も一人暮らししたかったし」
と返せば、
「ほらあ」
と、もっと弧を描いた。
マネージャーが来て、誰もいなくなった宿舎で、ユノはいた。
自室に戻り、同室のメンバーのいた感覚が、とうに昔になった一人部屋のベッドの上で、火を付けた。
自分はまだ部屋着のままだった。今日は休日だし寝るかと思いながらも、淵に腰かけたまま、それを節のある長い指に持ち、チャンミンのことを考えた。
ぐりぐりとした目を考え、長身の上半身を前に屈めていく。
その目が変わらないから、変わることが出来ない。
これからもずっと自分は黙ってしまうだろうと、ぽとぽとと床に落ちる灰も気にせず、背中を丸める。
行くななんてことより。
本当に伝えたいことは、弟が笑えないことだから。








『その目で笑って(ユノの場合)』おわり




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