「台風一家 3」SUPERJUNIORの短編
*1から続きものです。
「おじいちゃん、薬だよ」
リョウクは、白い布団の横に正座をすると、手慣れた様子で、盆で持って来た薬と水を用意した。
「ゴホッ……」
咳をしながら、白い着物姿のイトゥクは起き上がり孫に渡された錠剤を口に入れ、口元に近づけられた水差しを含んで水を飲んだ。
「もう良い」
白い手をかざして、そう言うと横になる。
「おじいちゃん。今日は麻婆豆腐」
「わしは良いから、お前達で食べなさい」
「そんなこと言って今日は昼も食べなかったよ。食べなきゃだめ」
「じゃあ、もう少ししたら食べるよ」
リョウクは細い唇を尖らせて鼻から溜息をつく。ラップを取ろうとしていた麻婆豆腐にそのままラップをかけた。
「おじいちゃん。今日はキュヒョンが暴風を出したんだよ」
「あれは、やんちゃなとこがあるからな」
ふふっと後ろ向きだが、イトゥクが笑ったのが分かり、リョウクもあどけなく見られる顏をゆるませた。キュヒョンはリョウクの今年5歳になる弟だ。亡くなった両親が残した最後の財産だとリョウクは思っていた。
「おばあちゃんが帰って来たら、一緒に食べる?」
「あれの話はするな」
急に不機嫌になったイトゥクに、また溜息をついて、「じゃあ後でね」とリョウクは立ち上がる。
「お前には迷惑をかけるなあ」
年の割には肌が綺麗に見える祖父のいつもの呟きを聞いて、リョウクは台所に戻った。
小さい弟たちにまとわれつかれながら、皿洗いをしていると、今年小学校を卒業するシウォンが帰って来た。
「あと俺がするよ」
「良いから、あんたも座ってなさい。今日おやつあるから」
え?おやつ?と目を輝かせて驚く弟たちにリョウクは微笑む。
「今日さ、逆巻きになったんだ」
長いちゃぶ台にずらりと並んで、リョウクがもらったクッキーを嬉しそうに頬張っている弟たちの中で、シウォンが言った。端正だけれど、伸び気味の鼻の下が、この子は何かに似ていると、時々リョウクは考えた。
「そう、すごいじゃん。今しか出来ないんだから頑張りなよ」
麦茶を弟たちのコップににつぎながら答える。
「うん。でもやっぱり俺、左巻きが良いと思った」
「そう」
自分の子供時代はどうだったろうかと思い出してみたが、リョウクは忘れていた。
「ヒチョルおばあちゃん、まだ帰って来てないの?」
「うん。いつものオタクの街」
「そうなんだ……」
リョウクだけが働き、13人家族をほぼ養っている。祖母のヒチョルは年金を趣味に費やし、財政を圧迫することもあった。祖母の話題になると、子供でも思うところがあるのか、シウォンはあまり突っ込んでは聞いて来ない。
「さ、そろそろ仕事行かなきゃ」
早朝からパートの仕事と、夜はスナックでリョウクは働いている。合間を縫って家事をし、弟たちの面倒を見ているのだ。
「俺も来年から働くからね」
「子供は雨を降らせて、強い風を出すことだけ考えれば良いの」
新聞配達をすると言うシウォンに、いつもそう答えた。
ハンギョン……キボム……
亡くなった両親の名前を呼び、なんであの時、車でなんか出かけたの?と責めることもある。だけど、客に恋をしてみたり、弟たちが日に日に成長し、強い雨や風を出すのを聞いたり、祖父母もなんだかんだ言って愛しいと思う、この生活を送るのが楽しいのだとリョウクは今日も頑張るのだ。
つづく
*終わりの登場人物紹介
台風・リョウク—亡くなったハンギョン・キボム夫妻の第一子。祖父のイトゥク、祖母のヒチョルの面倒を見ている。スーパーでレジ打ちをし、夜はスナック「ジュニア」でも働いている。客で来た「台風・シウミン」に恋をしていた。
台風・イトゥク―リョウクの祖父。一家の大黒柱でもあるが、病でふせっている。若い頃はぶいぶい言わせていたと時々語ることがある。肌が綺麗。
台風・ヒチョル—「スーパーおばあちゃん」と言われるほど元気。「オタクの町」で遊ぶのが趣味。イトゥクとは幼馴染で、私の方がモテていたと孫達に語る。
台風・シウォン—敬虔なキリスト教徒。だが特に両親がそうだったわけではない。リョウク思いの大人びた小学生。テレビゲームに強い憧れがあるが、家族には内緒にしている。同級生に馬に似てると言われたことも隠している。
台風・キュヒョン—最近暴風を出した末っ子。
他の子供たち―ハンギョン・キボム夫妻にはリョウク含め九人の子供たちがいる。