夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「台風一家 最終話」東方神起の短編

*1から続きものです。



結婚記念日には、必ずワインとケーキと花束を買うことにしていた。妻はワインにうるさくて、良く分からないが高ければ大丈夫、とこの日だけはユノは金をつぎ込んだ。間違えると、パートナーは面倒な性格で、くどくどと「あなたはここが悪いから」などと何時間も付き合うことになるのだ。


「おめでとう」


グラスをちんと音を立てて合わせて、ユノはダウンライトの部屋で妻のチャンミンの顔を見た。横長の唇がごくりと大きく赤いワインを一口飲む。
いつもドキドキとその表情を見た。


「ねえ、あなた」


「なんだい?」


妻の表情が怒っていないと分かると、返事をしながらほっと息をついた。コンサルタント会社で働く妻は、親の代から牛乳屋を経営しているユノより月給は良く、スタイルも良く、美しい顔もしている。社員の給料を払うと、そこらへんのアルバイトの方が給料が多い自分をなぜ妻が選んだのか、ユノはたびたび不思議になる。とは言っても、続いて来た家業を辞めるわけにはいかず、仕事も好きだった。
横長の唇の端を上げ、ワインをグラスで回しながら言いにくそうにしている妻を見て、ユノは、胸をときめかせた。
今日は久しぶりに、ベッドに誘ってみたい、と思った。
ここ一年ほど「疲れてる」と断られ、この前は「加齢臭が」と傷つくことも言われた。だから最近は半身浴を欠かさない。


「そろそろ、ね」


妻の大きな目が自分に向いて、ユノは、一瞬分からずに、首を傾げかけて、はっと細い目を拡げた。
下唇の厚い口を半開きにさせた。


「子供作りましょう」


にっと大きな口で笑い、チャンミンが一気にグラスのワインを飲み干した。


「え……こ……」


ユノは、はっきり言って子供は好きだ。だからいつか欲しいとは思っていた。だが、世間の話では、子供が出来ると妻は旦那の相手をしなくなると聞いたことがある。これ以上、相手にされなくては困ると思いながら、いや、でも、とユノは考え込んだ。
チャンミンは気にせず、話を続ける。


「自分の子供がね、強い風を起こしたり、大雨を降らせたりさせるところが見たくなったの」


「分かるけど……」


妻はきっと近所の、神童と言われる子供に影響を受けたなとユノは思った。四歳児なのに、ものすごい大雨を降らせて、「台風の芽」と新聞に載ったのだ。
ユノは、ワイングラスを指でいじりながら、悩んだ。


「嫌なの?」


「え、そうじゃないよ」


慌てて、返事をして顔を上げた。大きな目が、今にも怒るか泣くか、と揺れている。ユノは溜息をついて、笑った。


「君は、子供の頃すごかったんだろう?」


そんなことないと、はにかんで笑う妻のグラスにユノはついだ。


「暴風ばっかり出してたんだろうね」


「あなたも出してたでしょ?」


「君よりは少ないよ」


ふふっと声を出し、手で口元を隠して妻が笑う。ユノは、相手にされなくなるか分からない未来よりも、とりあえず今日相手にしてもらえるならそれで良いかと微笑んだ。


「そうだね、作ろうか」


「ええ。でも今日はナシよ」


唇を片端だけ上げられて、ユノは悲痛な顔をする。


「今日は、あなたと、夜通し飲みたいの」


また、ちんと乾杯されて苦笑した。
やっぱり君にはかなわないよと、ユノは思った。
明くる日、不眠のまま、酔った頭でいつものように牛乳を配達する。


「ありがとうございます」


新聞に載った子供のいる家にも届けると、玄関先のボックスに入れる前に、童顔の奥さんが丁度出て来て、ユノは手渡しをした。


「おじさん!ありがとう!」


「おー」


もうおじさんと呼ばれるのだから、自分にもいて良いだろうと、マンションのドアが開き、次でもまた手で渡しながら、困った笑みを浮かべる。この家の子は来年小学受験をする。
自分の年齢と計算すると、むしろ早く作った方が良いのかとも思った。


「いつもすいません、代金お支払いしてないのに」


「良いの良いの。お祖母さんいる?」


「ごめんなさい、また出かけてて」


子供の頃に、良く遊んでもらった常連さんがいる家に一本届けると、ユノの一日の配達は終わる。この家族は、配達先の中で一番大きな一家だった。


「おじさん!昨日、僕大きな風作ったよ」


「キュヒョンの作る風は強いからなあ」


玄関先にいるだけで、入れ代わり立ち代わり子供が出て来た。


「牛乳のおじさんだ!」


家を出ると、自分を見つけてどこからともなく走ってくる。子供たちは、ユノの良い遊び相手でもあるった。


「おじさん、ぼく今度雨を降らせるよ」


「そうか。頑張れよ」


「おじさん!今度すごい風作るよ!」


沢山の一家とその子供たちに、今日こそ妻に相手をしてもらわないとな、と心を決めて、夏のある日に、牛乳屋は帰路につくのだった。








『台風一家』おわり






*終わりの登場人物紹介



台風・ユノ―町の牛乳屋。牛は代々ジャージー乳牛を使用している。妻チャンミンとは生活リズムですれ違いになることが多い。二人の出会いは妻の会社で、当時は大口の届け先だったが、牛乳を飲む人間が少なくなったことから、契約は解消された。時代の波が牛乳屋にも押し寄せている。
台風・チャンミン―コンサルタント会社勤務で、ポジションは主任。趣味はジム通い。身体を鍛えるには、家の牛乳が一番だと思っている。

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