夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
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EXOTICA:洞窟の外「LA SIESTA」

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休憩が終われば、夕景の撮影は時間との戦いになる。短いが安らかな一時を味わってくれると良い。
傾いた西の日差しが、辺り一帯を更に照らして、蒼い海面が白く見える。彼らが無邪気に娯楽に興じる一時も貴重だが、俺自身もこんな美しい海を落ち着いて見られることは滅多にない。
空と海を分ける水平線に漁船の点が現れ、天候の回復を示している。
「あの」
声をかけられ隣に目を向けた。赤いスープを残して、脇の岩に置きながら、「あなた誰かに似てるな」と首を捻られる。
この暑い中、洞窟内の温度からなのか、負傷防止からか、藍色の長袖シャツを着た中年男に、顏をさすりながら「そうですか?」と、そんなこと言われるのも初めてで返した。
「ええ、誰だったかな。アイドルですよ」
手を置いたそこに複雑な微笑を浮かべる。自分の顏がどれほどのものか残念なことだが良く分かっている。言われる覚えもなければ、張本人たちが一緒にいる。
視力が悪いのだろうか。
「アイドル……結構ご存知ですか?」
しかし、中に居る彼らのことを知らない人間に、自分の悪戯心が出た。短く刈った頭にまだ白髪のない中年の係員は、浅黒い肌に無精髭が浮かんでいる。
「いやいや、興味ないです。ああいう音楽とかもう聞く年じゃない」
掌の皮が厚そうな血管の浮かんだ片手を左右に振りながら、「でも近頃の女の子は美人ですねえ」照れたように自分達の間の湿った砂利浜に視線を落としている。
「そうですね」
女性アイドルか。実物は画面で見るより綺麗だが、彼女達の中には、これくらいの年齢の男と付き合う子は少なくない。社長やら芸能人だが。彼らだって身なりと美容に気を遣わなければ、外見は変わりなくなる。
彼女達には、縁と経済力が重要だろうが。
俺は一服しようと思い、半袖シャツの胸ポケットに伸ばしていた手を何となくとめ、
「どんな女性アイドルがお好きですか」
下ろして、長い間潮風の側にいるからか肌が乾燥した中年男を見た。
「いや、あんまり知らないですよ」
足元の拳大の石を薄汚れたスニーカーで蹴り、照れ笑いをしながら、「でも、そうだなあ」と浅黒い顔を少し上げ青い夏空に瞳だけ向けている。
返事を待って、彼を眺めた。崖の周りを飛んでいた海猫が俺の背後で高い声で鳴いている。漁船が近づいたのだろう。
「あの子とか可愛いですね」
二、三人はにかみながら名前をあげられる。
「なるほど」
俺は顏を背け、海岸線を見た。白波を立てて向こうまで緩やかな曲線を描いているのを目に入れながら、全員大きな胸の彼女達を思い浮かべた。
「胸が大きい子がお好みですか」
「いやいや」
恥ずかしそうな声に、何も返さず横目で一瞥する。
「でも、大きい方が、ねえ」
下卑た笑みをして同意を求められ、下衆が、とこちらが聞いたにも関わらず思ったが、「顔は関係ないんですか」と苦笑した。
「大きいと優しそうでしょ」
「ああ」
そう聞くと、分からなくもなく、納得と同時に年長者に思った無礼を胸中で詫びた。
同時に一度だけ、まあまあ売れているアイドルと交際した過去を呼び起こした。同じ事務所で雇われていた自分が都合よく、彼女の暇つぶしに利用されたようなものだが、こちらだけのめりこんでした痛い思いを蘇らせ、苦い顔をする。
今一緒にいる彼らもだが、優秀なスカウトマンが成長を見越して国全体から探し出し、その中から選び抜き、更に金をかけて作り出した人間は光る玉のような存在だ。
付き合った子も目を疑うほどの可愛さだったが、俺みたいな何もない一般人には触らぬ神に祟りなしだ。やはり相応の相手と言うのはある。
「お兄さん、結婚してる?」
「いえ、独身ですよ」
胸の大きな女の話で連帯感でもわいたのか、急にくだけた口調になった相手に、一緒にはするなと微かに不快感を覚えたが、無表情を装った。
「彼女はいるの?」
「いません」
我儘を言える立場ではないが、タレントは、向こうも願い下げだろうがこちらも懲り懲りで、業界関係者自体、独特の自尊心の高さが元々合わない。
なのに、皮肉なことに拘束時間的にその他の人間が難しく、二年ほど特定の相手はいない。
が、今知り合ったばかりのこの男としたい話題ではなかった。
「俺の娘はどうですか」
「年齢が違うでしょう」
「成長するまで待ってくれたら良いですよ。器量は悪いですけど」
手を叩いて高らかに笑われ、うんざりしながらも、戻った口調とこののどかな時間に自然と笑みがこぼれた。豪快な男の笑いに釣られて気分を上昇させながら、しかし、少しのどか過ぎないかと、自分達以外の声が全く聞こえないことに気付き、後ろを、洞窟の中を覗き込もうとして、「あっと」と隣の声にそちらを見た。
男の手があたったようで、カップが岩から落ち足元に転がっている。
真新しかったスニーカーが大小の赤い水玉模様になっていた。
俺は目蓋を閉じる。
「すいません」
「いえ」
ため息交じりで、靴底だけが濡れるくらいの波打ち際に向かった。
黒い砂粒が、浜辺を暗く染めて、波に濡れてより黒くしている。
火山灰だ。
この楽園はおよそ五百年前に活動を停止した休火山だ。
当時の火山灰が広い海に一掃されずに残っている島は、長い年月が経過していることに気付いていないみたいに、時の流れに逆らい続けている。
まるで真の時間をどこかに置き忘れてしまっているようだ。
屈んで海水で洗おうとすると、横から、血管の浮いた手が伸ばされた。
「自分でやりますよ」
「いやいや」
建前ではなく、申し訳なさげに本気でこすりとられ、有り難くもう一方を洗うことに専念したが、手荒だったので、彼に手本を見せるように撫で落とす。そうしながら、背後に佇む静かな洞窟に耳を澄ませた。
聞こえないな。
この島に着き、寝る時以外、四六時中共に行動している声。
小柄な体型にも関わらず、真面目でどこか無理をしながら精一杯動き回る最年長のシウミン。兄達想いで肌の白く穏やかな性格をした背の高い最年少のセフン。何でも人並み以上にこなし、洞察力の優れた赤毛にされた口達者なベッキョン。
白に近く髪の色を変えられ、今だに俺が見慣れない色男、チャニョル。ドラマの撮影で人一倍働きながらも、文句の言わない落ち着いた性格のギョンス。
誰よりもグループのことを考え、メンバーのことを思う男前のリーダー、スホ。
ダンスでグループを牽引する、並み外れた運動神経を持つ弟分のカイに、常に周りを見て、気遣いをしているお洒落なチェン。
彼らの声が――。
トラブルがあったような物音もしないが。
腕時計を目の前に突き出すと、その下を小さな黄土色の蟹が横切った。
泡を立てて透明な波が行き交う砂浜には良く見るといくつも穴があき、蟹の爪が覗いているのもある。
そう言えば、腹も空いて来たと、寄せては返す波にも負けずうろうろと進んでいる二センチほどの蟹を見ながら靴を撫でていた手を止め、一度背後を振り返った。
静かなままの洞窟がそこにあったが、洗い終えたら見に行くかと正面に向き直って手早く落として行く。
「蟹が結構いますね」
「こいつら味がないんで食べませんがね」
「小さいから食べても仕方ないでしょう」
「大きいのもいますよ」
そうですかと返して、俺は泡立った水面の中、丁度手元に横走りした一匹を指で触った。ころっと転がったが、体勢を立て直し慌てて逃げて行く。
隣で真似をして少し大きめの一匹に指を伸ばしている。
「いてっ」
小さな爪に力強く挟まれた中年男と顔を見合わせた。
彼は振り払い、自分達は笑いあった。
海水で浸っている穴を少しほじり、中にいる奴も見た。嫌そうに、必死で砂を寄せ集めている。
「これ種類が違いますよ」
「色が違うだけで同じです。あっ」
また真似をし、挟んでいる蟹ごと指を引き抜いている男に笑いながら、ちゃんと出て来てくれよと背後に願う。
出てくれば、美味しい海鮮料理が彼らを待っている。





『EXOTICA:洞窟の外「LA SIESTA」』





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引き続き5人の書き手様のお話をお楽しみください。次回は10月3日最終回。

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