「チャンミンくんの恋人40」ユノ×チャンミン
「なあ、チャンミン」
腹の上から見上げられた顔が真っ白だけど、これはメイクじゃなくて、塗るタイプのパックだ。
「なに?」
同じパックをしている俺が返事をする。
Tシャツとハンカチ姿の俺達だ。
風呂上がりに俺の携帯電話で、ユノが活動を再開し出したと、ベッドの上でご家族に電話をした後だった。
話したのはあの最初の日以来で、泣いて喜んでいた声がスピーカー設定で聞こえた余韻がまだ残っていた。
感極まったような顔のユノが腹の上をよじ登って来るから、危なくて徐々に寝転がる。
首だけ上げて、ユノの様子を見た。よろけながら顔の前に来る。
「キスしたいんですか?」
「うん」
言うや否やされる。
このキス自体も、パックをした男二人のキスも奇妙だ。一人はこんなだし。
でも何も考えないようにしていた。
口をつけると満足気に踵を返して、頭をこっちに向けて俺の胸元で腹這いになった。
口角を上げて目を閉じている。
「何してるんですか?」
「ここで寝ようと思って」
「潰れるよ」
「潰れてもいいよ」
眉間を寄せた。
「冗談だよ。潰れたら仕事できないだろ」
見ていなくても俺の表情が分かったように言ったユノを、ばっと片手で持ち上げて、デスクチェアーに乗せる。
「さ、顔洗いに行きますよ」
「し、死ぬかと思った!死ぬかと思った!」
朝、目を開けて「飛ばないで下さいよ」と、声をかけたら、「今なら飛べる気がする」と言った腰に手を当ててデスクの上で仁王立ちしていたスーパーマンと、録音スタジオに行く。
テレビでのプロモーション活動を中断している自分達は、クリスマス用の新曲の準備を先にすることになった。歌詞とデモテープを渡されて、ディレクターに支持されたパートごとに区切りながら、それを聞かせてもらう。
ちゃんとバラードに作られていた。
ここの声出してみて、とスピーカーから言われて、パイプ椅子の上のユノと顔を見合わせながら出した。
声量は違うけれど、問題ないと思った。
コントロールルームにいるマネージャーが嬉しそうに頷いていた。
「PVなんですが、メイキングを後で撮ります」
次の撮影スタジオで、驚くような提案をされる。けれど、頷くだけだ。それしかない。でも、その「後」は来ないかもしれないけれど。
「衣装をつくるので、ユノさんのサイズを詳しく計ります」
撮影スタジオの隅の机で図られているユノをマネージャーと見る。
身長は病院でも16㎝と計測されたけれど、細かな数値を次々に出されて寂しそうな顔をしているユノに、
「ちょっと細くなったんじゃない?」
「ユノ、格好いいの特注だぞ」
と、声をかけると笑って、俺とマネージャーを見上げた。
「今の笑顔で行くぞ」
「髭抜きましょう」
あは、と口を開けたユノと一緒に今日の撮影をされる。
新曲のPVはチャンミンさんは黒髪にして下さい、と言われて、久しぶりに俺は黒に染められた。
「黒いね」
ユノと髪色が違うのは久しぶりだった。洗面器の中から立ち上がったユノが手を伸ばして俺の濡れた前髪を触ろうとした。
「うん」
「俺も黒になるかなあ」
「夏は茶色の方がいいと思うけど」
「そう?また海行きたいな」
「あの撮影、結構寒かったからね」
まだ肌寒い時期に撮影した、この前までプロモーション活動をしていた夏の曲の、濡れたら震えるほど寒かったという、多分同じことを思い出して、
可笑しくて、ユノと同時に噴き出して笑った。
つづく
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間に合って感無量の40話でございました。