「少し暗い日々の帳を抜けて5」ユノの短編 ウニョク キュヒョン ヒチョル
今日も昨日と同じ現場に着いた。
昨日の作業が大分進んだからか、少し自分達に余裕が出ているのが分かる。三日の期日には間に合いそうだった。
休憩時間になる。
「仕事前にあいつ捕まえに行ったんだよ」
元ジムリーダーだった人が話し出して、若い作業員が「いいなあ」と相槌を打っている。
みんな汗を拭いながら、目のつくところに置いた自分の荷物から、買って来ていた食料や携帯電話を取り出して、道端に座り込んでいた。
俺一人、昨日の自動販売機に歩いた。
あいつ、捕まえられたんだろうか。
まあ、悪い人じゃなさそうだったし、良かったかもしれない。財布を取り出して、中身を確認する。
でも、顔を上げた自動販売機の前で、こちらを向いて佇んでいる姿を見て、何となく安心した。
「お疲れ様です」
「うん。何にする?」
その隣に立って、小銭を取り出して、キュヒョンの顔を見る。
俺に体ごと向けて、少し首を傾げて大きな瞳がじっと俺を見つめた。
「捕まえられなかったんだな」
小銭を入れて、先に自分のコーラを買った。
「俺、誰にも捕まらないって言いました」
面白くなさそうな声にちょっと笑いながら上体を曲げて取り出す。向き合った。
「何にするの?」
唇を少し突き出したキュヒョンが俺の持っていたコーラを指でつついた。鼻で笑って、それを渡す。少し戸惑ったポケモンを横目に同じのを買った。
「あそこ、いつまでなんですか?」
ガードレールに凭れかかって、冷たいコーラを飲んだ。
「明日までだよ」
星が点々と見えて、今日は空気が澄んでるなと思った。隣から返事がないから、目を向ける。
手元の缶を見ながら、ちびちびと口をつけている。栗色の髪は少しウェーブがかかっていた。
「キュヒョンは何ポケモンなの?」
「……すうがくポケモンです」
そう言えばウニョクはダンスポケモンって言ってだけど、踊ってるところは一回も見たことない。でも多分得意なんだろうな。
「そっか」
前方の空にばさばさと黒い影が飛んで行った。あれはきっとプテラだ。夜行性なのかもしれない。
「ユノさん」
また隣に顔をやる。こちらを見ずにコーラを見ている。
「なに?」
少し間が空いたあと、呟かれた。
「……一匹も家にいないんですか?」
「いや、一応二匹いるよ」
顔を俯かせたまま、大きい目をわずかに見開いて、キュヒョンは黙った。
「じゃあ。捕まえられてなかったら、また明日もコーラ奢るよ」
休憩が終わる時間だ。その肩を叩くと、正面に立った俺を上目で見て、キュヒョンは何も返事をしなかった。
勤務時間が終わって、再びあの自動販売機の方を見たけれど、やはりキュヒョンの姿は見当たらない。日が昇る前にどこかに姿を隠すのだろうか。
つづく