「少し暗い日々の帳を抜けて9」ユノの短編 ウニョク キュヒョン ヒチョル
何とか時間内に作業は完了して、期日にも間に合わせることができた。
帰る前にもう一度あの方向を見たけれど、やはり何のポケモンもいなかった。俺が探しても見つけられないだろうと分かっていた。
次の日は休日だったから、起きたら映画を観に行きたいと言うウニョクの要望を聞いて、昼過ぎに起きた。ヒチョルも呼ぼうかと電話をかけてみたけれど、夜通しアニメを見ていたらしくて、夜にしてくれと切られた。
映画館前で待ち合わせになって、先にウニョクと出かけることにした。
「なあ、ユノ。自分の好きな服買えば?」
「ん?」
「最近全然買ってないだろ。俺が買って来たのばっかだとつまんないだろ」
久しぶりにまだ日が暮れていない外を歩く。
アイスクリームショップで買ったアイスクリームがもうこの暑さで溶けかかっている。
あまりにもすぐ溶けるから、止まって食べようとウニョクと道端で立ち止まった。苺とバニラをダブルにしてお互い同じものを注文した。本当はチョコレートが良かったけれど、この暑さで三分の一の種類が売り切れていた。
食べながらふと、あいつもきっとアイスクリーム好きだろうな、と黒い瞳を思い出した。俺はなぜか自分のバッグに今日はカプセルを入れていた。
ぼんやりしていると、野生のポッポが飛んできて、足元でついばみ始めた。気が付くと手元まで垂れて来ていて、ウニョクはわざとポッポの近くにアイスクリームを垂らしてあげている。
どこにでもいるポケモンだから、誰も捕まえない。美味しそうに食べていた。
俺は別に選んでくれた服で良かったけれど、「自分で選んだ方が楽しいんだよ」とウニョクに力説されて、服屋でTシャツを買って、日が沈み始める。
駅の裏の歩道橋を渡りながら、ウニョクが夕日に歓声を上げた。
「すごいなあ」
手すりに手を置いて濃いピンクに辺りを染める赤い夕陽を一緒に眺める。遠くでポッポの群れが巣に帰って行くのが見えた。
「ウニョク」
「なに?」
薄茶色のさらさらした直毛をピンクにして、目を輝かせて眺めている。
「野生に戻りたいって思った事ない?」
「なんだよ」
笑いながらこっちを向いた。
「ユノ、そんなこと考えてたのかよ」
「いや、別に」
俺も夕日に染められながら、でもそれだけでなくて少し顔が赤くなった。
「あるよ」
ウニョクはまた落ちて行く夕日に顔を向けた。
「野生に戻りたいって言うか、一からやり直したらどうなるかって。でもそう思うとそれ以上にやっぱり今が良いって思うかな。ここまで生きてきただけでも大変だし」
俺は笑顔の横顔を見つめる。
「それにユノと生活するの楽しいし。でももっと部屋綺麗に使ってくれよ」
「ごめん……」
「冗談だよ、いや全然冗談じゃないけど」
ウニョクは夕日から、真下に続いて行く線路に視線を落とした。合わせるように、俺もピンク色の線路を見下ろした。
「……ウニョクさあ、ダンスやりたくないの?」
噴き出した笑い声が隣から漏れた。
「なに?ダンスポケモンだから?」
「うん」
「できるだろうけど、特にやりたいと思わないよ。でも俺じゃない『ウニョク』はどこかでやってんじゃない」
「そっか」
ピンクから紫に空が変わって行って、向こうに頭だけ覗かせたショッピングモールに光が灯った。町中が光りはじめる。
「なあ、ユノ。あれ見ろ」
ウニョクが落っこちそうなほど身を乗り出して、丁度自分達の真下を指差す。良く見ると線路にポケモンらしい翼が見えた。
「あれ、カイリューだろ」
つづく