夢の続き

東方神起、SUPERJUNIOR、EXO、SHINeeなどのBL。
カテゴリーで読むと楽です。只今不思議期。

「その目で笑って 2」(スホの場合)ルハン EXOの短編


行く、と言う言葉をスホは頭で繰り返していた。
それは全員の前で、彼の上手な韓国語で言われた。
彼の場合はもう分かっていた。中国班は早くその明確な意思を知っていて、次が自分だった。
グループが二つの国に分けられて作られている。
スホはその全体のリーダーであり、韓国側の、リーダーだった。それで、彼らよりも少し遅く報告を聞いた。
まだデビューして間もないのに、既に中国班は一人が抜けた、そちら側のリーダーであったのに。
だから、よりまとめ役が頑張らないと、一人のメンバーと、一人のリーダーが抜けた穴を自分が補わないと、と決意をした矢先だった。
もう一人抜ける。
でもこれは先の人間の形ではなく、むしろ、その意志をグループ全体に以前相談されたこともあった。
全員が引き止めた。けれど、この数か月で、決心は固まってしまった。
若い自分達は、これからなのに、もう二人目がいなくなるのだ。
収録を終え、着替えもせず自分のベッドに腰かけて、スホは同室のメンバーも外に出した。
今から、この宿舎の、この部屋に入って来るのは、数日後にいなくなる、ルハンだ。
ノックの音が二回した。
良いですよ、とスホは、高音のパートを出す声を部屋に響かせた。
ドアが開き、その目と合わせた。
色づいた唇の口角をスホは少しだけ上げた。
相手も着替えていない、ロゴの入ったパーカーのジーンズ姿だった。
綺麗に染められた明るい髪がふわふわと蛍光灯の光を受けている。
これからこの男は、事務所と戦う。
これは契約違反だ。
しかし、もう抜けると決心した人間を、縛り付けておく方法もない。隙を狙っていつでも消えることができるのだから。
だから、スホは残りのメンバーと彼で口約束をした。
彼の離脱には誰一人、加担していないことにすること。
そうやって、自分達を守ることを決めたのだ。
身長は高いほうなのに、鼻の先が小さく上がり、口の小さいルハンの顏はメンバー1少女のように見えた。
年上の彼の姿が、神妙に自分の前に来るのをスホは見つめた。
スホは自分の隣を掌でさした。
そこに座る。
「まだ、残って欲しいです」
スホが言った。
「ごめんな」
と、言われて、彼の声だなと、スホは思った。
中国班とは別行動が多くて、最近も離れていたが、会えばすぐに苦難を共にした練習生時代や、合同で暮らしていた最初の頃の親しみが蘇る。それに同じグループのメンバーだ。
「そうですか」
と、答えて、見つめ合った。
彼の顔を一番少女のように見せているのは、その目だ。
きらきらとするつぶらな目。
テレビ番組で彼が女の恰好をした時なんか、本当にスホは女と勘違いしたほどだ。
笑われると眩しくも見える。
「みんなにも本当に悪いと思ってる」
その目を眺めながら、スホは、何も言わなかった。
「この生活には、もう耐えられない。忙し過ぎて、ファンに追いかけ回されて、何をしても監視されてる。自由になりたい」
スホはあまり、聞いていなかった。彼の意見は、何度も聞いたし、それは全員がそうなると覚悟を決めてこの世界に入ったからだった。
いざ、それを経験したら、逃げ出したくなったと言うことはあるだろう。それもあるかもしれない。国が違う中で、ストレスは更にのしかかる。
でも、メンバーの殆どが分かっている。
彼が、祖国へ帰れば、報酬の桁が変わる。この今の、睡眠時間が数時間の芸能生活をもし、彼が中国ですれば、その収入は倍なんかでは済まない。
やっぱり国が違うのだなとスホは思った。
言葉がどれだけ、理解しあえても、違うのだなと思った。
ルハン兄さんは、自分とは違うのだな。
なんてずるい人間なんだと、スホは見つめ合っている自分の頭を今すぐ抱え込みたくなったが、しなかった。
リーダーであったから、彼とは真逆な太い眉の精悍な顔をしてそのまま見ていた。顔以外は、色が白く、背も低い自分の方が女的であるかもしれないのに。
「ごめん」
「分かりました。じゃあ明日も、休まないで下さい」
日にちも既に決まっている。明日でメンバー総出演は最後だ。最近繰り返す体調不良は、無しにしてほしかった。
「うん。分かったよ」
スホは小さな顎や開いた口を眺めて、少し意識が遠くなった。
しかし、頷き、正面を向いて、「じゃあ」と言った。
「ごめん」
「もう良いんで」
彼の方は見ず頷いた。だが、隣は立ち上がらなかった。
「ごめん」
と、また言われて、スホは太い眉を寄せてそちらを見た。
室内の蛍光灯の光を受けたそれが、目に入った。
ルハンは、「じゃあ、おやすみ」と小さな口の両端を軽く上げて部屋を出て行った。
スホは後ろ姿が消えてもドアの方眺めていたが、溜息を吐いて立ち上がり、後を追うように同室のメンバーを呼びに行った。
数日後、その日は来て、メンバーの数人は朝から泣いた。
中国班で国へ帰り、彼だけもう戻って来ないからだ。
同じ国籍のメンバーは、いつでもまた会えると言う自信か、同じ言語で話し合って来た関係の濃さからか、意外に落ち着いていた。
スホは裏切られたと言う感覚はまだ残っているし、責任から取り乱すことは出来ず、ただ眺めた。
その実力も人気もきっと、取り返しがつかないほどのダメージになる。
しかし、そうさせないように、自分が支えて、支えて、など考えると取り乱すなんかよりも絶望に近かった。
自分達の班の仕事もあるし、朝で別れることになった。
二つあった宿舎の一つに集まって、中国班が出るのを自分達は見送った。
車で待つマネージャーの元へスーツケースを携え、メンバーの半数と、玄関から出て行く。
あと数日一緒に過ごす残りの彼らの方が、スホは心配で眺めた。
ルハンは一番最後だった。まだ肌寒くて、黒い上着を着ている。
サングラスをする前に廊下でスホに振り返った。
スホは視線を落とし「じゃあ、頑張って下さい」と言った。
「頑張るよ」
兄さんの声だなと思った。
靴下を履いたジーンズの足元を見ていた。
でも、それが動かず、スホは少し訝しく思い始めた時、
「ごめんな」
と、声をかけられた。
「行って下さい」
そう返事をしても、動かなかった。
また、「ごめんな」と言われて、スホは顔を上げた。
朝の廊下の光を受けて、きらきらとする目が、自分を見ていた。
見つめ合うと、「ごめん」ともう一度言われて、スホは自分の、太い眉を上げ見開いた。その目を見ながら、鼓動がどくどくとしてくる。
愕然と眺める。
申し訳なさげに僅かに微笑んだルハンはスホを置いて背を向けた。スホは声も出なかった。
可愛い人だなと、蛍光灯に照らされた楽屋で、彼女の姿を目で追った。茶色の長い髪をして、小さな顎に、小さな口をして、特にその輝くような。
すごく、可愛い人だなと。
自分が、強く言えなかったもう一つの理由をあの時からと、スホは見開いた目で、後ろ姿を凝視した。
この人間は、なんて。
思った自分を置いて、彼は、玄関からいなくなった。
泣くメンバーやら、気持ちを切り替えたメンバーが、がちゃがちゃと用意をし始める中、動けなかった。
スホは、朝日を受けた玄関に突っ立っていた。
ずっと泣きたかった。







『その目で笑って(スホの場合)』おわり



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