前日の睡眠不足と二日酔いのせいか、いつの間にか眠ってしまっていた俺は、目が覚めると、朝だった。
あんなに心配していたはずが、簡単に眠ってしまえるなんて、俺も薄情だな、
と思いながら目を開けて、また苛まれた違和感に息を止める。
もう自分達は別々に暮らしている。
一緒に暮らしていた宿舎時代は過去だ。
それをこの二か月ほどの、それも毎回じゃないイベントに、体が慣れてしまっている。
でもそれだけ、俺は見られていたということなんだろう。
二か月だって大概だしな。
でも多分俺が今まで気付かなかっただけで、それは二か月なんてもんじゃない。
なぜ、
どこで、
ずっとその疑問が駆け巡っている。
時計を見ると、昨日マネージャーと決めた朝食の時間だった。
気だるく起き上がって、とりあえずバスローブから着替えるかとスーツケースに目をやる。
日本では部屋で取ることが多い自分達だけれど、今回はホテルについたバイキングを利用する話になっていた。
長袖のTシャツとジーンズに着替えた自分が、朝食の提供するレストランに行くと、案の定チャンミンは来ていない。
体調が悪いのかもしれないと心配するマネージャーを横目に手早く食事を済ませる。
マネージャーが止めるのも聞かずに、果物を皿に入れて、チャンミンの部屋に向かおうとすると、慌てたホテルの従業員が、折詰のようにそれをプラスチックのパックに包んでくれた。
チャンミンの部屋をノックする。
「ヒョンですか?」
母国語でドアの向こうから声が聞こえた。
「そうだよ」
ドアが開く。
目が腫れたチャンミンはもうリハーサル用の動きやすい服装に着替えていた。
俺から目を背けて黙っている。
「これ」
果物の入ったパックを渡す。
中を見て、グレーのパーカー姿のチャンミンが苦笑した。
「マネージャーが体調悪いなら、食べないか、部屋で取れって連絡来たのに」
「部屋で頼めよ。これはマネージャーの代わりに見に来た理由。氷買って来るから冷やせよ」
「アイマスクありますから」
「それで冷やしたわけ?足りないだろ。あと一時間半だぞ」
腕時計を見た。
「じゃあ買って来るから、それも良かったら食えよ」
チャンミンの返事も聞かずそう言って、ドアを閉めた。
ホテルの売店で氷を買って、すぐに戻る。
「チャンミン!」
ノックすると、うざったそうにチャンミンがドアを開けた。
その目は腫れているのに加えて、今流された涙で潤んでいる。
「……お前」
「氷有難うございます。あと一時間半で、なんとかするんで」
こちらを一瞥して、俺の返事も聞かずに、ドアが目の前で閉められる。
同時にオートロックの音が聞こえた。
片手で目元をふせて、溜息を吐いた。
俺のタイミングが悪かったのか。
チャンミンは前に進んでたと言っていた。
それに気づかなかった俺が悪い?
それともその前にその気持ちに気付かなかった俺が悪い?
本当に俺達はもういい大人なのか。
つづく