声を出す間もなく、俺より先に反応した隣が、手を伸ばして従った。 「ありがと、高野」 言いながら、「いえ」と答えた彼も見ず、正面の直方体から離れて、窓際の水道に向かう。洗った手が、部屋の大半を占める大きなテーブルの上に雑然と置かれたタオルで拭かれた。 反射神経が鈍くなっている自分が発した「すいません... 続きをみる
夜光虫のブログ記事
夜光虫(ムラゴンブログ全体)-
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「死んでいる人間を見たことはあるか?」 その黒い瞳の中には虫がいた。生命が明滅を繰り返している。 もう誰もいない。深くあいた慟哭は海のように拡がっている。波打ち際で、向こう側に来いと呼んでいる。そこで見えた光を、俺はその虫に応えている。 ーーねえ、本当は、 ーーあなただって、 ーーいきたくないんで... 続きをみる